Hello Mary Lou/Ricky Nelson ギターソロ動画 オリジナルタブ譜~ジェームスバートン

今回は60年代アメリカン・オールディーズポップスの名曲1961年のリッキーネルソンのハローメリールーのギターソロを解説。ギタリストは70年代のエルヴィスプレスリーのギタリストも務めたジェームスバートン。

ソロのコード進行は歌のサビと同じ

A/A/D/D/A/A/E7/E7
A/A/C#7/F#m/Bm7/E7/A/A

 キーA、全16小節の、スリーコードの進行を基調にしつつも後半に部分転調やツーファイヴを盛り込んだシンプルながら非常に音楽的な進行である。

 ソロのアイディアとしては各コードごとに適した「コードトーン+テンション」かコードチェンジが多めの部分では「スケール」を念頭に置いたフレーズで構成されている。このようなアプローチはスケール1発、とは違って必然的に各コードの役割・・・みたいな知識も必要になってくるのでそういう意味で一粒で何度もオイシイ、学びのコスパが高めのサンプルでもある。

 まず最初の8小節までは所謂スリーコードで構成されており、上記の「コードトーン+テンション」の考え方でフレーズを組み立ててあるが、注目すべきは同じ進行の歌メロの部分では登場しないセブンスのブルーノートを多用している点。冒頭でコード進行は歌メロと同じ・・・と書いたが厳密な事を言えばソロの前半部のAとDはA7とD7とする方がより正確な表記となる。

 ブルーノートであるセブンスを強調することにより「ギターならでは」感の強いブルージーな印象となり、ソングオリエンテッドでポップな質感が強い歌メロ部との対比をより明確にしてギターソロの存在意義を際立たせている。 

 さらにジェームスバートンはその音使いを高度な研鑽を要するカントリー系のトラディショナルなテクニックであるギャロッピングを用いてプレイしており、演奏家としての矜持をキープしつつ歌伴プレイヤーとしての責務も両立させた非常にレベルが高いクリエイティヴなスタジオワークをやってのけたポップス史上でも稀にみる名演といえる。

 後半8小節部の最初のAの部分はAのコードトーンに2弦7フレットの13th音を追加した6弦ルートのAコードのポジションを用いている。ここでもギャロッピングが活用されているので慣れていない場合はまずそこをクリアすることが先決。ギャロッピング自体習得に忍耐を要するテクニックで初めはたった1小節どころか2拍進むのに何日もかかったり・・・みたいな技術だったりするが習得すればギャロッピングのみならず他のプレイでも新たな、これまで見えなかった世界がリズムプレイ、リードプレイ両面で広がっていくことは保障するので是非トライしてもらいたい。特にリードギタリストが見落としがちなリズム的な「感覚」に関して得るところが大きいはずだ。

 次のC#7は本来Aキーの場合はC#m7となるところを次のF#m7にとってのドミナントコードとして部分転調しており、ジェームスバートンは着地する次のF#m7までF#マイナーペンタトニックを弾いている。もしくは曲全体のキーはAなので「A何とかスケール」という方が通りが良い・・・という感覚を優先するならばAメジャーのペンタを弾いている・・・と考える事もできる。

 楽曲全体のキーはAメジャーなのでここはAメジャーペンタ・・という考え方も間違いではないが、上記のような事が見えてる上であえてそう捉えるのと「AキーだからAメジャーペンタでどうにかなる」しか選択肢がない・・・では天と地ほどの差がある。

 最後のBm7-E7-Aの部分は最終コードでトニックAに向かういわゆるツーファイヴ進行。ツーファイヴ、というとジャズの代名詞で教則フレーズもジャズ系の物ばかりが取り上げられる印象があり、ロック・ポップ耳のプレイヤーにはこの手のよりシンプルでストレートなポップスで用いられるツーファイヴのアプローチを参考にする方がとっかかり易い・・・と思う。少なくともなかなかジャジーな質感が好きになれずに理論を習得する際にサンプルフレーズを聞くこと自体が苦痛かつ無意味に思えて幾度となく挫折しそうになった自分のような人間などはそう感じる・・・ロックやポップスで諸々身につけた人間が一念発起して理論を学ぼう、と「枯葉」辺りを違和感を持ちながらサンプルにするよりもより身近な響きから慣らしていった方が無理なく入っていけるのではないだろうか?

 ここで弾かれるのはAのマイナー(ブルース)ペンタトニックとAのメジャーペンタトニックを交互にスイッチするフレーズだ。通常こういう同主調ペンタの単純な横移動としてのミックスペンタ・・・はあまり音楽的にならないものだが、その辺をうまくやってのけている好例でもある。この部分は後年、本人がこのソロを弾く教則ビデオではオリジナルをアレンジしたAマイナーペンタのみで弾いていたのが個人的には興味深かった。

 最後に各コードの役割と各々セクションについてのギター的アプローチの考え方についてまとめておこう。

A/A・・・Ⅰトニック、A7のコードトーン、ギャロッピング
D/D・・・Ⅳサブドミナント、D7コードトーン、オープンコードのポジショ     ンを活用したオブリガード
A/A・・・Ⅰトニック、A7のコードトーン、ギャロッピング(最初の2小節よ     りも高度、多分ここが最難関箇所)
E7/E7・・・Ⅴ7ドミナント、E7コードトーン、ギャロッピング

A/A・・・Ⅰトニック、6弦ルートAのコードシェイプを基にしたギャロッピン     グ、13thを強調
C#7・・・Ⅲ7(次のコードF#m7(トニック代理Ⅵm7)から見てⅤ7、部分     転調)、Fマイナー(Aメジャー)ペンタ
F#m・・・トニック代理Ⅵm7、Fマイナー(Aメジャー)ペンタ
Bm7・・・Ⅱmサブドミナント代理、Aマイナー(ブルース)ペンタ
E7・・・Ⅴ7ドミナント、Aメジャーペンタ
A/A・・・Ⅰトニック、Aマイナー(ブルース)ペンタ

 本稿の主題はあくまで表題曲のソロに関して…なので説明上必要な理論用語に関して詳細を省いてしまったが、少しでもわからない言葉や用語は読み飛ばさずに、是非各々で検索するなりで理解に努めてもらえれば幸いである。

 遠くない将来、かつての自分のようにロックで慣らして中途半端かつ実践ではあまり役に立たない上に「なんとなく」な理論知識で「これじゃしょうがねえな」・・・と思いつつコンプレックスを抱きながら行き詰っている「中の上級ギタープレイヤー」向けの音楽理論講座・・・等も計画中なので以後当アカウントをチェック頂ければ幸いである。



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