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吉田メロン

音楽を聴きながら書いたので
流しながらお読み頂ければ幸いです。

5年以上前に人材が欲しい時があった
仲間と相談して
外注に依頼するのではなくて
1人社員を入れて育てようと

横のつながりはあって
知り合いの知り合いの伝手で
実直な男がいると紹介してもらった

使用期間の3か月は月30万円
そんな話で打診したところ
会いたいとなった

俺より年齢は5つほど上だった
少し扱いずらいなぁ
そう思って話を聞いていたけど
現在は空調の職場で働いていて
イジメにあってるので転職先があれば
と職を探していたらしい

ずいぶん自分を雇う会社の悪口を言うな
理不尽な事をされている感じはしないが
それでも可愛そうだなという思いもあった

嫁さんと話したら35万円でないと困ると
だから35万円にして欲しいと

実直すぎる!
てか、実直ってそういうことだっけ?

マイ辞書を脳内で探るけど
そういえば、ナポレオンの辞書は
不可能の文字がない欠陥品だった

だから彼は後年失敗した
人生の辞書はアップデートしつづけないと

でも、実直ってそういうことだっけ?

使用期間3か月の給与に過ぎない
基本歩合もあるから
その後の頑張りでいくらでも稼げばいいのに
固定で35万円欲しいと

当時は仕事も多かったし
頑張ってくれるならと
経営者としては未熟だったかな

やっぱり最初の違和感は
時を待たずして現実になった

道具を一通り説明して
現場につくと
いきなり工事が必要な現場で
ビルの外にあるダクトを外して
調べないといけない

そして、吉田にお願いした
「吉田さんダクトを戻してもらえますか」
もともと空調屋さんだろう
俺たちは別の場所を見て戻ると

明らかな違和感

「この向きでついてました?」

「この向きでついてましたよ」

ついているわけねーーーーーー!!
雨が降ったらどうするんだ?
冗談ではなくて目の前が真っ暗になった

しかし、あまりにも当然の如く言うから
前の人が反対につけてたっけ?
俺も仲間もそう思うほどだった

「だとしても、付け直すときに直すよな?」
「そうだな」

ある時、排水管の中を確認する
カメラを使う現場があった

事務所に戻り解散したあと
道具をチェックしているとき
管内カメラのSDカードが抜けない

反対に差し込まれている。
しかも、ストッパーがかかるから
無理には入らないのに
無理にねじ込んでしまってある

仕方なくペンチで引き抜くから
モニターが異常をきたす
SDカードを反対に差し込んで
入らなかった経験は誰でもあるだろう

多くの人はなんだ反対だったとか
だが彼は力いっぱい押し込んだ
それだけのこと・・・・
カメラは修理にだしたら
12万だっただけのこと

ガソリンを使う機材もあるから
携行缶を積んでいて
給油が終わった後に
吉田が後部座席にそれを置いた

運転は俺がいつもしていたけど
吉田にさせたほうがいいと仲間が言うので
少し居心地がわるいけど後部座席に座る

ガソリンの匂いが凄くないか?
車がもしかしたらやばいかな?

よくみると、携行缶が開いていた

俺タバコ吸ってるぞ!!
「危なかったですね(笑)」

何も悪びれず当たり前に答えるとき
「で、あるか」
と信長気分になるわけにもいかず
敵は本能寺どころか目の前にいた!!

命の危険を感じては流石に無理で
それは俺だけのことではない
仲間も吉田自身も炎上したら終わりだ。

吉田も結局どこでもよかったのだろう

3週間だったけど
1か月分をまるまる渡して
一緒に仕事をするのは無理だと伝えた

すると、自分も無理だと
思ってましたと伝えてきた

家族を守らないといけない
お子さんが2人いて
それでいやいや働くけど
上手くいかない。

人生に計画性がなく
場当たり的に生きてきたとき
追い詰められると
自分と最低限にしか
愛情がいかないことはある

俺にもそんな時期はあったし
心無いまま就職したときに
使用期間で逃げるように辞めたこともある
無能がばれるのが怖くて逃げた

迷惑をかけた会社さんがある
俺は俺なりに因果応報を覚えた

去ろうとする吉田に
ただ思ったことはある
ダクトのつけ方おかしいよな
そんな想いが俺の情を消す

だが、縁というものもある

どうするの今後?と聞いたら
妻のおじさんが福島で農家をしていて
そこで畑を借りて農業をするらしい

板橋区から住み慣れない福島に
お子さんは長男が小学6年生だ

小学生最後に学校が変わる事を想えば
やるせない気持ちになる

奥さんはルーツは福島にあるのかな
3.11以来福島に行く人は
無条件で応援したい

「奥さんのご両親は福島に?」
「いや、板橋に住んでいます。」

え????

吉田は今、板橋に住んでいて
奥さんの実家も板橋にある
奥さんの母の兄が福島で
農家をしているとのこと

違和感は覚えたけど
それぞれの家庭の事情があるのだろう
俺は今、サンサーラが歌いたい
そんなザ・ノンフィクション

「自分で何かつくるの?」
「メロンをつくるんです」
「え?凄い。吉田メロンだね」
「無農薬ですよ」

えらく具体的だなと思った
もうずっと心ここにあらずで
そんなことを考えていたのかな

「吉田メロンができたら食べたいな」
「甘くて美味しいのをつくりますよ」

心なしか吉田はどや顔だった
そして、握手して別れた。

命の危険から解放された安堵感は確かにある
だが、一緒に仕事をした縁もある

お子さんの話を聞いたときに
稼げるようにするからね!と
熱く語った夜を想えば
虚しくなる気分はないかといえば、ある

吉田のことも話に出なくなった頃
仲間はトイレにいきたいと
暑い日で飲み物が欲しかった
板橋にあるコンビニに寄った

そこにはコンビニの制服を着た
吉田がいた

無農薬のメロン栽培はどこへいったのか
お前は実は薬物まみれでないか?と

仲間はトイレに向かおうとして
あわてて引き返してきた
ここで再会してしまえば
ビックバンが起る恐怖感は確かにあった

お子さんは無事
育った地元の中学にいけたのだろう

俺たちは気づかれずに車に戻り
そっと目を閉じた

今が幸せなら言う事はない
人には役割があるだけだ
吉田の意思は彼をかけがえのない人と
尊敬する息子さんが継いでいくのだろう

ありがとう吉田
さようなら吉田

吉田は今もそのコンビニにいる
(2023年7月現在)


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