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5月1日 79歳の日記

名古屋に来ている。
義母が寝床でゆっくりしているので、のんびりした朝時間。
家から持ってきた白丁についての本を読み終え、ちくさ正文館で買ったメイ・サートン「終盤戦 79歳の日記」を読み始める。
長期闘病中の70代後半の友人が起こした騒動、70になる実母が癌かもと言い出すなど、さいきん、70代の女性の波のある精神状態を見る機会が多く、出だしから考えさせられる。
彼女たちにすすめることは難しいが、読んだらどんな感想を持つだろう。
朗読先のマダムも70代後半だが、いつも超然として凪である。こちらでありたいものだが。

先日、マダムが鮨をご馳走してくれるというので、会社帰りにのこのこ出かけたら、NYから単身居候中の孫娘、訪問看護師と同席だった。
孫娘は英語だけ、わたしは日本語だけ、マダムは日常会話だけ、看護師は英語話者だが共通の話題がない。さわがしい常連客でぎっしり埋まったカウンターに横並びに座り、マダムが大将に頼むネタをひな鳥のように待つばかりの不思議な時間が流れる。
孫娘は分厚い本を片時も手放さず書き込みをしながら熱心に読むので、たずねたら「悪霊」であった。1度目?ロシア文学好きなの?わたしはトルストイが好き!と、もっと聞きたかったが、わたしの語彙力の限界。
超然としたマダムの娘はやはり超然として、学者肌の優秀な女性で、その性質は孫娘まで脈々と受け継がれている。ボサボサの長い髪、眼鏡で身なりにはかまっておらず内に潜めた輝きはまだ少ししか漏れ光っていない。優秀な成績でハイスクールを終えたが今は大学に行く気はなく、日本に来て日本語学校に通う。夜中の2時にジムに行ったり、自転車の練習をしたり、本を読み、タバコをふかし、祖父母が目覚める時間に彼女は床に着く。パン屋で2000円ぶんのパンを買ってきて一度に食べることを30日続けてピタっとやめるなど。1LDKのアパートの六畳間の、祖父母のベッドの床に敷いた布団に、長身をこごめて寝ている、その姿がたのもしい。
彼女が日本語を話せるようになる、近いうちに、と期待を込めて新潮文庫で「悪霊」を買った。

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