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【KY34】多角化と介護施設

最新の四季報の通読がまだ終わっていません。
また半分ぐらいですね。

今回は市場が不安定化しているので、リスク分散のため集中的な銘柄保有をやめ、広く浅くポートフォリオの見直しを考えています。
今までだったら、チラ見で終えていた銘柄を含めガッツリと目を通しています。

そこで今回は、その中で気になった非関連多角化戦略としての介護施設経営について、ピックアップしようと思います。

非関連多角化と介護施設

多角化の意義

多角化とは、企業が成長する方法として、今までやっていた事業(既存事業)とは別に新たな分野で事業を始めることを言います。
なぜこのような多角化をするかというと、既存事業が頭打ちして伸び悩んでいるときなどに、より強く成長するためです。

多角化には、既存事業と関連がある多角化(関連多角化)と、全く関連のない多角化(無関連多角化)の2種類があります。
関連多角化だと既存事業の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウ)の活用がしやすい、相乗効果(シナジー)が発揮されやすい、成功確率が高いなどメリットがあります。

非関連多角化だと、成功確率が下がるというデメリットがありますが、既存事業との関連性が少ないので、既存事業が何らかの要因で低迷するときのリスク分散になるというメリットがあります。

介護施設は儲からない?

私はコンサルタントとして、不動産業・建設業・卸業・運輸業などおおよそ介護と無縁の企業が、介護施設を運営しているケースに関わったことがあります。

全て非上場企業ですが、企業規模としてはそこそこの上場企業よりは大きいものもありました。

そもそもなぜ介護施設をやっているのか、当たり前ですがヒアリングします。

ところで介護施設は客単価(15千円/日)ぐらいなので、定員100名の大きな施設だと売上高3-5億円ですね。
建物1棟を建設すると、土地・建物を含めてイニシャルコスト(初期投資額)が10-15億円になります。
利益率が高ければいいのですが、損益分岐点売上高に必要な稼働率(入居者数/定員数)が80-90%、純利益率が10%を超えることはほとんどないです。

ちなみに全国展開するSが運営する有料老人ホームSが建てた介護施設ですが、某ゼネコンの社員さんに聞くと損益分岐点売上高に必要な稼働率は65%程度と、イニシャルコストを相当に抑えているとのことでした。
コロナ前のことで、設備基準が緩かった介護保険制度の黎明期ならではのことですが、そうでないと儲からないということですね。

話が逸れましたね。
何が言いたいのかというと、介護施設は儲からないし、イニシャルコストの回収に時間が掛かるということです。
これら企業などが扱う金額が大きく、介護施設の運営は大して利益に貢献しないということです。

だとするとリスク分散にはなりませんし、手広くやるならともかく、数棟の介護施設を運営する多角化のメリットはほとんどないのです。

なぜ介護施設をやるの?

上場企業でも事業ポートフォリオに、介護施設運営を組み込んでいるケースを見ます。
しっかりスクリーニングしたわけではないのですが、四季報オンラインで検索してみると、売上高10%未満を無関連多角化とすると、20社以上ありますね。
大体は、地方の不動産業・建設業・卸業・運輸業・情報サービス業など中堅企業で時価総額も高くなく、業績もそれほど良くないですね。

正直なところ、介護施設を経営するメリットは感じません。
ではなぜやっているのでしょうか?

私が関わった案件に共通していることが3点ありました。

① 経営者が70歳以上の男性
この年代の方々は、年長者への尊敬というか、介護というものに憧れ(?)を持っているというか、とにかく介護施設を運営したいという熱い思いがあります。
採算度外視の方が多いです。

② 非常に便利なところに遊休土地を持っている
介護施設は、駅近や主要幹線道路に近く立地している方が集客がいいです。
なぜこのようなところに企業が遊休土地を持っているのかですが、不動産業・建設業・卸業・運輸業などの企業の本社はスペースが必要なため、昔は郊外に立地しており、近隣は開発されておらず、不便なところだったのです。
それがどんどん開発され、電車が通り店ができ住宅が増え、便利になったという経緯があります。

そうなると企業は事業を拡大するにも土地がないので、郊外に移転します。
そのため元の場所は遊休土地になるということです。しかも創業の地ということが多いので、売却したがりません。

そこで介護施設を経営するという、アイデアに至るのです。

③ 既存事業のビジネスモデルがシンプル
介護事業は、割と中年の女性が多く、人手不足は当たり前のゴリゴリのマンパワーの業界で、感情労働(顧客との心理的な関わり合いが強い)なのですよね。
それに対して、不動産業・建設業・卸売業・運輸業・情報サービス業などは、報酬がインセンティブになるし、営業力がものをいいますし、モノを右から左に流すような分かりやすい業態ですし、男性中心が多いです。
はっきり言うと、経営者に介護施設の経営が大変であることの理解が足りないので、安直に介護施設の経営を始めるのです。

無関連多角化としての介護施設と投資判断

私の投資判断

以上をまとめると、無関連多角化として少しだけ介護施設をしている上場企業について、私なら投資しないですね。
調べたことはないのですが、上記①〜③のどれかには当てはまると思います。

介護は一部の専業企業を除くと、スケールメリットが必要な割に薄利多売で、収益性が低いです。

端的に、既存事業の足を引っ張ります。

また介護事業の売却は、昔はともかく今は買い手市場です。
日本の社会保障費の圧縮は至上命題なので、将来性は低いです。
また介護施設の転用は難しく、そのためM&A市場での売却評価額は低いです。

介護施設の賃貸事業

自社で介護施設を経営する代わりに、遊休土地に介護施設を建て、他の企業に運営を任せ、賃料を取っているケースがあります。

賃料が適正であれば、チャリンチャリンと毎月お金が入ってくるので、このような遊休土地を活用している企業であれば、投資価値はあると思います。

介護施設の行政による指定は、長期(20年以上)での賃貸が条件になるので、安定した収入源になるからです。


以上、今回はここまで。
まだまだ四季報の読み込みに時間が掛かっています。
なるべく更新頻度を高めたいです。

また次回よろしくお願いいたします。

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