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花屋日記 そして回帰する僕ら

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ファッション女豹から、地元の花屋のお姉さんへ。その転職体験記を公開しています。
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#ファッション

「花屋日記」49. モード界に一番近いバラ。

 花屋での最終日、私はたくさんのプレゼントを受け取った。スタッフからのメッセージカードやブーケ(花屋から花屋へ渡されるブーケなんて、実はめったにないことだ)、そしてセキュリティチームのモトヤさんがこっそり手配してくださったというホールケーキまで店舗に届けられた。元料理長ならではの、さすがのチョイスだった。  常連だったシノダ様は店で一番大きなブーケを購入され、それを私に「プレゼント」と言ってくださった。店長は後ろでそれを見て見ぬ振りをしていた。もしかしたらこちらの裏事情をいつ

「花屋日記」44. 閉店後に現れる、古新聞のモデルたち。

 閉店の21時をまわると私は音楽を止め、レジを締め、あらゆるデータ入力を済ます。そして水汲みをし、掃除し、花たちを新聞紙でまく。そのときに使う新聞紙は商業施設の事務所から譲り受けている古新聞で、一般紙から経済紙までいくつかの新聞がマーケティングリサーチのために読まれていることがそのバリエーションから見てとれた。私はその中から適当な一枚を引き抜いては花の長さに合わせて包み、セロハンテープで留める。  何十回とそれを繰り返す中で、私は自分がドキッとする瞬間があるのを知っていた。そ

「花屋日記」34. 女30、この先どうする?

 花屋のカレンダーはわりと極端だ。春は雛祭りや入学、送別、母の日とイベントが続き、秋は十五夜や敬老の日、ハロウィン(そう、私たちはカボチャも売る)、いい夫婦の日などがある。冬はクリスマスやお正月、バレンタインなどがあって、店はノンストップで稼働する。そしてフラワーバレンタイン(男性から女性へ花を捧げる西欧式のバレンタイン)やミモザの日(国際女性デー)といったイベントも、まだ日本でそれほど浸透していないとはいえ、それなりに花が売れるのだった。問題は「夏をどう乗り越えるか」なので

「花屋日記」24. さらばフロントロウ。

 かつて在籍したファッション編集部では、とにかくみんなの気位が高かった。なんせファッションショーでは当然のようにフロントロウに招待され、ブランドの展示会でも貸切の時間を設けられるので、それがだんだん当たり前になってくるのである。たまにVIP扱いされず、ちょっとでも待たされたりすると 「私たちが誰か知らないのかしらね?」 と、みんなあからさまに不機嫌になった(とはいえ、待ち時間があるとなれば○ルマーニのラウンジでお茶をしたりするので、どこまでもバブリーな世界である)。私はそんな