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映画『オッペンハイマー』でピカソを鑑賞する?

今年の第96回アカデミー賞で、作品賞など7部門を受賞した『オッペンハイマー』。 日本での上映も一時不透明になるなど、何かと話題の多い作品です。既に色々な切り口で論考やら感想が飛び交ってますが、アート好きの視点から感想を少々。

Woman sitting with arms crossed (Marie-Therese Walter)
Pablo Picasso 
Painting, 1937, 81×60 cm

映画が始まると、しばしオッペンハイマーの頭の中に、自分が取り込まれるようなシーンが続きます。音響効果も相まって、オッペンハイマーの「鼓動」が自分の心臓と同期していくような感じがしました。
そして出てくるのがこちらのピカソの絵画。
 監督のクリストファー・ノーランの意図はなんぞや?
…ついつい関心がそちらに行ってしまいました。

ピカソについては、コメントするまでもないほどの”有名画家”ですが、ここで扱われている作品の制作は1937年ということなので、あの反戦をテーマにした《ゲルニカ》と同じ年に描かれたものになります。なので「反戦をテーマにした映画」ってことを最初に伝えているのか…なんてことも想像できますが、そんな一本の解釈では成り立たない映画だったので、そうではなさそう。

ピカソはブラックと同じくキュビズムの創始者として知られています。こちらの作品は、ジャンル分けするとキュビズムの作品ということになります。

キュビズム: Cubisme; : Cubism「キュビズム、キュービズム」、立体派)は、20世紀初頭にパブロ・ピカソジョルジュ・ブラックによって創始され、多くの追随者を生んだ現代美術の大きな動向である。多様な角度から見た物の形を一つの画面に収めるなど、様々な視覚的実験を推し進めた。
(wikipediaより)

ここでのポイントは”多様な角度から見た物の形を一つの画面に収める”というところでしょうか。もう少し”難しく”言うと、人や自然の複雑な形を、一旦立法体という幾何学形態に置き換えて、再構成を多面的に行って描いた作品やそのやり方がキュビズムってことになります。
 ピカソの作品を最初に持ってきたのは、”時制”も”主義主張”も”人物像”も入り乱れてのストーリー展開の『オッペンハイマー』という映画が、同時に様々な視点から描いたキュビズムの作品であるという示唆かもしれません。

あるいは、キュビズムが絵画の新時代を切り開いた革命的な動きであったことを捉えて、「核の時代」を切り開いてしまった人間としてオッペンハイマーをハイライトしたかったのかもしれません。

いやいや、ひょっとすると女性遍歴も華麗で、プロモーション技術に長けていたピカソのキャラクターに寄せてみた?

まてまて、どこまで行っても「成熟」という時期の無いピカソの作風に、オッペンハイマーの「軍拡」の懸念を重ねてみた?

それとも、本人とは全く別のところで、二転三転する、人や社会の価値基準の移ろいを示したかった?

という具合に、ピカソの作品を起点にさんざんに”鑑賞”してしまう時間を得た、『オッペンハイマー』でした。
映画館でがっつり見るのがお薦めですね。


それにしても、『バービー』も作れば『オッペンハイマー』も作るアメリカって、幅が広いというか、底が深いというか、やっぱりとんでもないなと。

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