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ターミナル

蒸気の中 俯いて歩く
きっともう帰れない故郷を思いながら
右手には煙草 左手にはペンライト
引っ張ったら解れそうなセーターは
かつて誰かが僕によこしたもの

軋む歯車 燃焼する石炭
つまずいた石ころはあてもなく踊る
戻る先のない線路と並走する光線
ここでは意味のない言葉と
幾重にも折り重なる不可思議な記号

ごらん
あの海の先に見える煙突は
この町には無いものの象徴であって
あの煙突の麓にないものが
この町に溢れているのだ

競走する怒声に塗れて聞こえる産声は
ほんの少しだけこの町に
新しい風を齎すのだ

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