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昔話

昔話をしようか

引っ込み思案の少年は
長く続いた冬からついに抜け出すことなく
長い眠りについた
二度と戻らぬ春に思いを馳せて
長い永い眠りについた

夢の中で彼が見たものは
憧れた麗らかな景色ではなく
荒涼とした、しかし見慣れた風景だった
愕然と力が抜けた足に
まとわりつく後悔と羨望

永遠を彷徨う少年はそれでも歩き続けた
ふと空を見上げたとき
無限に繰り返される夕焼けを
かつてのロマンスに重ねている
その瞬間だけを切り取ったように
絵本のページは破り抜かれてしまっている

大事に抱えた1ページだけの昔話は
まだ続いている
今もずっと

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