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心付け

昼過ぎの床屋さんは、すいていた。
隣の席の人が、整髪を終え立ち上がった。
髪の白い初老の方だった。カウンターで会計をすますと、紙袋を女性理容師に手渡し、しばらく話し込んでいた。話の様子だと、袋の中身はお煎餅のようだった。
マスクをした女性理容師が、喜ぶような笑い声が聞こえた。
二人のやりとりを鏡の中に見ていた私は、小学生の頃を思い出していた。
私が通っていた街角の床屋さんは、理髪が終えると、キャンディを数粒、手のひらに載せてくれた。高校生になると、整髪が終わりサッパリしたところでコーヒーを淹れてくれた。
コーヒーを飲みながらコミックを見ていると、
「兄さんは、もう大学出たの」などと話しかけてきた。
いま通っているヘヤ-サロンは、東京に本部があるチェーン店で、身内の話などすることは、まずない。

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