私は、つばめを見たことがなかった。
仕事一辺倒の生活で、空を見上げるほどの気持ちのゆとりもなかったのか、単なる無関心であったのか、つばめを見たという記憶がない。
そんな私の家の玄関に、数年前の春、つばめが巣を作った。
つばめの巣作りを興味深く眺め、その世話らしきことをしているうち、不思議なことに、私は、街でつばめが飛ぶのを見るようになった。
つばめは、いつも滑るように、颯爽と飛んでいた。
つばめの巣は、意外なことに人の暮らしのすぐそばにあった。
我が家と同じように家の玄関や軒下に、集合住宅の外廊下の突き当たりに、大きな商業施設の大屋根の奥に、綺麗とは言いかねる泥で塗り固めたお碗状の巣が、ひっそりとあった。
こんなところで大丈夫なのだろうかと心配になるような中華食堂の看板裏の狭い軒下に、つばめが盛んに出入りして、そこにつばめの巣があることが分かった。
それからというもの、私はその店の前を通る度、空を見上げた。つばめが飛び交っていれば安心をし、姿が見えなければガッカリしている私が、いた。