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共生酵母は拘りではなく、必要性

 基礎的おさらいです。
 ワイルド・オオクワガタが産卵する天然材中では、先ず、腐朽菌が木材の高分子体を酵素分解してグルコースに糖化変換します。そして、そのグルコースを酵母菌が細胞内で10段階以上の酵素反応を経て、呼吸の場合は水と二酸化炭素に、アルコール発酵の場合は二酸化炭素とエタノールに変換します。この酵素分解はグルコースの場合、一回(一個)の酵素分解が行われれば糖化完了しますが、酵母菌によるアルコール発酵の場合、10個以上の酵素が必要になります。
 ここで重要な点は、酵母菌の保持するその酵素群のセットが酵母菌の種類によって異なる組織構成であるということなのです。

酵母 = 生物、酵素 = 分子

 酵素とはタンパク質でできた分子です。それは、酵母菌のゲノムDNA配列(遺伝子情報)によって決定されているのですが、その塩基配列(ゲノム情報)がタンパク質の構造を決定します。その配列パターンが大変重要で、その極僅かな違いによって酵素の種類が変わってくるわけです。つまり、上述の、酵母の保持する酵素のセット構成が、それぞれ酵母菌の種類によって違ってくるので、すべて、好気の場合は呼吸、嫌気の場合は発酵するのですが、その結果の生成物に違いが生じるということです。
 簡単に解り易く言ってしまうと、我々、人が利用する酵母にしても、酵母菌それぞれが持つこの酵素セットの組み合わせの違いが酵母菌の個性であり、適正温度帯や活性特質、最終的な生合成物質の違い(香りや風味)などになって現れるわけです。従って、清酒酵母やパン酵母(イースト菌)、味噌酵母、ビール酵母、……などなど、自然界に酵母菌数々あれど、発酵食品に使用されている酵母菌はある程度種類が限定されていますし、それらすべてが用途によって細分化することで使い分けられているのは、そういう理由によるのです。
 勿論、酵母菌のみならず、未発見の未知な菌の存在は微生物全体をとおして言わずもがなではありますが。

「何故、1番じゃないといけないんですか? 2番ではダメなんですか?」——という蓮舫的愚問への回答

 オオクワガタも、特定の酵母菌と共生する必然的理由があってその酵母を自然界から選択しているわけであり、どんな酵母菌でもよいので闇雲に体内に摂り込んでいるわけではないということは、少し考えれば理解できるかと思います。要するに、オオクワガタが共利共生するに十分な必要性のある酵素セットを備えている酵母菌でないと、体内に摂り込んだところで意味がないのです。むしろ、酵素の組み合わせ次第では逆に弊害がある場合もあるかも知れません。
「何故、特定の酵母じゃないといけないんですか? イースト菌ではダメなんですか?」というような愚問に対しての回答は正にこれですね。イースト菌の「イースト」とは英語の「酵母」で、つまりは酵母菌のことすが、スーパーでイースト菌を買ってきて、それを飼育中のオオクワガタの餌ゼリーに混ぜて……なんてことは、思いつきだけに留めておいて、それはパン作り専用になさるが懸命かと思われます。

 ということで、今回、わたしがワイルド・オオクワガタからの共生酵母菌の単離培養に成功した意味の大きさ、わたし個人の気分の盛り上がりようもこれで解っていただけるかと思います。
 同様のことは、多種のクワガタ用マット製作の考え方などとも共通しているかと思います。大きな括りで表現されるところの「バクテリア」なら、なんでも良いのかと言えばそうではないわけです。
 我々、人 = 飼育者の理論的な拘りではなく、自然生理学的な原理、摂理に基づく必要性によっての必然を求めないといけないと思います。

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