演劇界の性差が行き着くところ

演劇の世界は圧倒的に不公平な世界である
技術があることと経済的な成功は必ずしも一致しないし、同じような能力を持っていたとしても、同じようなキャリアを形成できるとは限らない

ここらへんは、前回書いた演劇と経済の関係性の問題もあるのだが
それともう一つ、僕が危惧している問題点が性別による差である

日本において俳優を目指している人、あるいは俳優として活躍している人の割合は男性に比べて女性の方が圧倒的に多い
それに対して、キャスティングされる人数は女性よりも男性の方が多い
これは、元々の脚本が男性のキャラクターが多いことが多いということも原因の一つであるのだが既存ではない作品、新しく書かれる新作においてもその傾向が未だに強い

また、海外からの買取公演においても、現在すでに女性キャラクターの方が多い作品が多いにも関わらず、そういった作品は購入されず、むしろ伝統的な男性主体の演目が購入され上演されることが多い傾向にある
これは単純に大手プロダクションの経営者やプロデューサーに男性が多いことが原因だと思うのだが(ちなみにこれは男性が能力に秀でているわけではなく、日本の男女での賃金格差、つまり資本力に差があることが原因だと思う)結果として女性主体の演目を上演したがらない傾向にある

また、女性に主体性があるというような表現は基本的に年齢の高い層から批判的な意見をうける傾向に強い
日本の給与格差によって基本的に若い層は金銭がないため、利益を出すことを目的とした上演では男性主体の演目を選択する傾向が強くなりやすいのだと推測される
実際、海外の演目であってもフェミニズムを日本版では「かわいいは作れる」と解釈し直して上演されているケースも多い(嘆かわしいことである)

海外ドラマを好んで見る人ならわかると思うが、それが当たり前であるという描き方をメディアや我々のようなクリエイターがしていかない限り、世の中のイメージは変わりにくい
特に日本は社会やテレビを始めとしたマスメディア、広告業界がジェンダーバイアスを強めるための(意図的かどうかは別にして)発信を繰り返している状況があるので、何も考えずにメディアに触れていることが多い人ほど性差別が認識できない

こういった状況の中で何が問題になるのか?というと男性パフォーマーの質である
要するに最初のオーディションの段階で倍率が全然違うので、競争が成立しないのである
演劇を文化という文脈で考えた場合、長く上演される作品であればあるほど、若い世代をキャスティングする必要がある(後世に継承するために)
ただ、少子化が進んでいく中で日本全体での上演される舞台の数は増えているので男性に限ってしまうとオーディションが機能しなくなるのである
実際、あるオーディションでは女性は10人に1人ぐらいの割合でしか合格しないが、男性は3人に2.7人合格しているというような話もある
もはや、男性であるというだけで落ちることが難しい現状があるようだ

こうなってくると、そもそも競争にならないので必然的に能力が必要なくなってくる
男性はオーディションのためにレッスンを受けなくとも、合格するし、現場で技術を身につければ良いよねとなっていくのである
しかも、出演経歴ができるためハロー効果で次の仕事に繋がりやすくなる

出演機会は=収入の格差なので、業界での男女間における収入格差はますます広がる
そして、こういった問題の一番ひどい影響を受けるのは観客である
物価が上昇し、給与が下がっているにも関わらず増税するという謎の政策によって今後、ますますチケット代は値上がりする可能性があるのだけど
それに伴って男性俳優がヘタクソになっていく可能性がある

わりと入れ替わりの激しい業界でもあるので、早ければ5年、遅くとも10年もすればかなり酷い状況になっている可能性がある
それこそ、3人受けたら4人受かるような世界になっているかもしれない

単純に女性のキャラクターをたくさん描くということもそうだが、作品によってはキャラクターの性別を変更したりすることをしていかないと正しい競争を保てなくなっていくのではないか?と思うのである

そして、もう一つ
男性が足りなくなるということはつまり、男性はライフワークバランスを保てなくなる可能性も高い
舞台の世界はどうしても稽古という期間が必要になるわけだが、人数が少なければ一度の期間に何作品も掛け持ちになる可能性だってあるのである
マチネとソワレで別の作品に出演する、本番の前後に別作品の稽古に参加する
スウィングの出演日に別演目のスウィングとして出演する
そういった状況になる可能性だってあるのである

収入は得られるかも知れない
だが、結果として人生を失うのだ
あなたにとってお金と人生とどっちが大事なのだろうか?

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