オーディションに受かるタイプの俳優?

たまに目にするんですよね
「オーディションの審査する側をすれば、どういう人が受かるのかわかるようになる」

で、こういうこと言うと怒られるかも知れないんですけど、思うんですよね
そんなわけあるかい

審査する側になればどういうタイプが合格するのかわかるってのは一見するとそれっぽいんですけど、僕の個人の意見としてそんなことないやろって思うのです
というか、その話を鵜呑みにして試しに審査員やる意味があるか?って話かも知れません

理由その1 「サンプル少なすぎ問題」
オーディションと一言で言ってもいろんなタイプのオーディションがあるわけです
それこそ、舞台の出演をかけたものから、事務所の所属権をかけたもの
舞台でも小劇場から商業演劇まで様々なオーディションがあります
そして、オープンなオーディションは誰でも受けられるわけだからどういうタイプの俳優が受かるかわかるでしょ?と思うわけですよね
ここがもうすでに間違いです

まず、根本的にですが、オーディションが全ての人に公開されていても、全ての人がオーディションを受けるわけではありません
人気のある劇団や舞台のオーディションなのであれば応募者数はかなり多いかも知れませんが、多くのオーディションはありとあらゆるタイプの人が受けには来ないのです
応募する側の気持ちで考えてもらえればわかると思いますが、実態のよくわからないオーディションは受けようと思わないでしょう?
また、ギャラや稽古の拘束時間、舞台の日程などの理由から受ける、受けないを決めるわけですからありとあらゆるタイプの俳優は受けにきません

また、今度は大手のオーディションになると、書類審査というものがあります
オーディションという実演の場に現れるまでにすでに絞り込みが行われるわけです
そして、劇団であればその劇団の、作品であればその作品の色に合わない俳優はそれまでに落とされます
明らかに必要としないタイプの俳優の演技を見る意味がないからです
つまり、オーディションの場に現れた時点である程度タイプが絞られているのです

じゃあ、書類審査に参加すれば良いのでは?と思うかも知れませんが、結局それもせいぜい通りやすい書類がわかるぐらいです
また、審査のシステムによってはあなたの好みを再確認するだけで終わります
なので、オーディションの審査側をやっても全てのタイプの俳優を見るわけではない以上、受かる俳優のタイプはわかりません
強いて言えば、その時、その作品における受かりやすいタイプがわかるぐらいです
しかし、その基準はあなたが受ける時には機能しません



理由その2 「ぶっちゃけ運ゲー」
まぁ、それでも書類審査が終わった後のオーディションの様子を見れば対策はできるじゃないか!
そう期待しますよね
わかります、そういうわかりやすさに飛びつきたくなる気持ち
でもね、ぶっちゃけ運要素強すぎるんですよ

まず、先ほど述べたように全ての俳優が受けにくるわけではありません
商業の人気オーディションと言えど、人気があって何年も先まで予定が決まっているような俳優は受けに来ないわけです
ということは、商業の人気作品であったとしても、受けに来る人のレベルはその年によって変わるわけです
しかも、求める俳優の年齢層によってはそもそも受けに来なくなる俳優というのも出てきます
この循環のシステムは作品のエネルギーの源なのでとても重要なのですが、審査をする側からすると困ることがあります

それは、基準の設け方です
もちろん、技術的な上手さというのは普遍的な要素もあります
しかし、オーディションは受けにきた俳優の中から出演者を決めなくてはならない以上、上手い、下手の基準が毎回、微妙に異なるわけです
では、その基準はいかにして作られるのか?というと最初の数名のパフォーマンスです

1人目、ものすごく魅力的な俳優が来れば「おっ!今年はいいかも知れないぞ」ってなります
逆によく書類通ったなみたいなのが登場すれば「今年はやばいかも知れない」となります
もちろん、そのへんは歴戦のオーディションを審査してきた側からすればある程度織り込み済みかも知れません
ですが、結局合格するかどうか?の基準は相対的なものになってしまうという面もあるのです

「納得のいく俳優がいなかったから上演は中止しよう」

とは言えないのです(言える人もいるかも知れませんが、まぁまず稀でしょう)
それよりは、受けに来た人たちの中でなんとかやりくりしようとします
なので、あなたが審査員をした時に受かる人の傾向は分かったとしても、それをあなたがオーディションを受ける時に適応することはできないのです

また、運要素で言えばあなたがその日、何番目にパフォーマンスをしたのか?
あなたがパフォーマンスをする直前にパフォーマンスをした人は誰なのか?
そのパフォーマンスはどういうレベルだったのか?
それに対してあなたのパフォーマンスは?
部屋の湿度によって音の響きも変わります
温度が暑くなり過ぎていて審査員も集中していないかも知れません
舞台関係のスタッフは喫煙者も多いのでタバコ休憩が欲しくてうずうずしてる人もいるかも知れません

そうです
パフォーマンスの良し悪しはあなたの体調の良し悪しだけでなく、審査員の体調の良し悪しにも影響するのです
これは、普段の舞台の本番が観客によって反応が変わるのと同じです
つまり、オーディションを受ける限り、あなたにコントロールできない要素があまりにも多いのです
そして、こればっかりは審査する側にもコントロールできません

もちろん、審査をする以上は可能な限り全員のパフォーマンスを平等に見ようとしますし、体調が影響することもよくわかってますから、審査の間に適度に休憩を取るようにしていることもあります
それでも、やはり完璧ではないのです
それをコントロールすることが難しい以上、あなたが審査員を経験したからと言って受かるタイプの俳優がわかるということはあり得ないと思います



理由その3 「実際の舞台の出演者がオーディションの場にいるとは限らないから」

あの、はい申し訳ないんですが
オーディションを受けていないのに合格する俳優というのがいます
業界の闇っぽい話と思うかも知れませんけど、でも体裁を整えるために一応受けさせるってことすらしなくなってるあたり、演劇界も開き直ってるんだろうと思うんですが
そういうことあり得ます

これにはいくつかパターンがあって、一つはマーケティング戦略
なんの経歴もない人をいきなり舞台に立たせても、そのチケットを買おうと思う人は多くありません
ですが、演劇はやはりチケットが売れなくてはならないのです
そうなった時、オーディションを開催したらどうなるでしょうか?
「〇〇人の中から選ばれた逸材!」としてデビューさせることができます
オーディションを勝ち抜きとか書くと、虚偽広告じゃね?と思うんですが
〇〇人の中から選ばれたなら、まぁ間違いではないのかも知れません
僕個人としては好きではないやり方です

そして、もう一つのパターンがチケット券売実績です
ここまでに書いてきましたが、オーディションを完全に公平な環境で行うことはとても難しい部分があります
運も実力のうちとは言いますが、それはあくまでも受ける側の理論であって審査する側の理論ではないわけです
では、オーディションにあたって完全な客観的な要素は何かないのか?
そうです、「チケットが何枚売れるか?」です
これはもう至ってシンプルな基準です
過去に舞台に出てたり、映画に出ていたりすればどのぐらいチケットが売れるのか、ある程度の予測を立てることができます

そして、チケットを売らなくてはならない営業担当からすればそういう俳優が欲しいのです
じゃあ、それについて創作の側は反対しないのか?
場合によるとは思いますけど、たぶんしない人の方が多いと思います

例えば、演出家はほとんど嫌がらないんじゃないかな?と思います
演出家も雇われの身であることが多いでしょうから、チケットが売れなくて団体や企業に不利益を与えるようなことはしたくないでしょうし
何よりもほとんどの演出家は自分はどんな俳優が来てもいい舞台にできるという謎の自負があります
これは偏見かも知れないですね
でも、基本的に人とコミュニケーションを取ることが好きな人が多いと思うので絶対にこの人じゃないとダメだみたいなことはなかなか発言できないと思います
演劇の創り手たちも言っても人間なのです


理由その4 「空気の読み合いと忖度」

これこそ、その時々のオーディションによって変わってくる部分だと思うですが
オーディションの審査員になる人はその作品に関わる全ての人ではありません
全員が関わってたら審査する側の人数が増え過ぎたりして意見もまとまらなくなります
なので、審査する側も選ばれた人たちなのです

代表的なところで言えば、演出家、脚本家、作曲家、振付師
音楽監督、プロデューサー、営業部、制作部、広報部などなどでしょうか?
ここらへんは団体や演目によって違うと思います
そして、先ほども書いたようにこの人たちは一緒に仕事をする人たちです

例えば自分があんまり興味を持てなかった人のことを演出家とか音楽監督がベタ褒めしたらどうでしょう?
それでも落とすべきだと意見を言えるでしょうか?
よっぽど信頼しあえる関係ならそうかも知れない?
たぶん違うと思います
むしろ、関係性が深くなればなるほどに、その人が気にいるタイプの俳優がわかるようになってしまうわけですからそこで議論ができる関係になるというのはかなり難しいと思います
そういう現場や人に出会えたらラッキーだなぁってむしろ思います

つまり、空気や忖度がどうしたって存在してしまうのです
これこそ俳優として受けてる側がコントロールできるようなもんではありませんから、やはり合格するタイプを見極めることはできないでしょう



ここまで書いてきて自分でも思うことなのですが
オーディションに合格したいのであれば、下手な小細工なんてしないで自分がやるべきことに集中した方がいいんじゃないか?と思うのです
なんだかんだ言っても、みんな演劇が好きでこの仕事をしています
オーディションにおいて審査員が求めていることは実際の舞台で観客が俳優に求めることと変わりません
繋がりを持ち、心を動かしてくれる、そんな俳優なんじゃないでしょうか?
もちろん、最高のパフォーマンスができたからと言って受からないのがオーディションです
でも、それは俳優側がコントロールできない様々な問題によって起きていることであり、あなたのパフォーマンスの良し悪しではないのです

オーディションに受かるコツとか、タイプとか、方法とか
そういう短期的に成果の出そうな甘い言葉は信じてはいけません
審査員があなたのことをじっと見つめていたとしても、その理由があなたが魅力的である可能性は0.5%ぐらいで残りの99.5%は何かを睨んでないといけないぐらいの睡魔に襲われてるからです
そんな余計なことに振り回されるぐらいなら、しっかりと時間をかけて訓練し、自信を持ってオーディションに挑みましょう
あるいは、どうやったらチケットが売れるようになるかを考えてる方がまだ理にかなっています

何よりも重要なのは、あなたがこの仕事を愛してやまないという事実ですから

あ、オーディションの審査員を経験すれば、もしかしたらその事実には気付けるかも知れません
それでも、その時間で何か他のことをした方が良いように個人的には思います

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