アヒルのルノー
九月の鼓動は少し優しい
庭に植えられた金木犀が微笑み
傍らでアヒルが一匹佇んでいる
アヒルの名前はルノー
老夫婦の家で暮らしている
二人はとても優しい
毎日庭をぐるぐるしている
おなじ暮らし
ルノーは時折ぼんやりしてしまう
それでも季節は巡る
夏の日差しが遠ざかって
風が爽やかに頬擦りしてくる
ルノーは空を仰ぎ
雲よりもっと遠くを見つめている
と
お
く もっと
と
お
く 白く
翼は小さくてそんなに飛べないけれど
そのつぶらな瞳に空色を映している
庭の垣根はルノーには高すぎる
不思議そうに小首をかしげて
ルノーは思う
この垣根の向こうはどうなっているのかな?
でもルノーは夜、垣根の外で鳴く獣の遠吠えを聞いたことがある
そしてそれはとても獰猛なオオカミという生き物だということも
だからルノーは黒い瞳で遠くを眺めるのが日課だ
明日は何が見えるかな?
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