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彩の国 エトワールシリーズ

川口成彦さんのフォルテピアノリサイタル(使用楽器:1843年製プレイエル、タカギクラヴィア所属)を聴いて参りました。フォルテピアノはパリコンセルヴァトワール時代にオプション授業で選択しましたが、数回弾かせてもらった以外はほとんど何も学ばずに一年終わったので、フォルテピアノ演奏に関する専門知識はありません。その上で、感想文として書かせて頂きます。
川口さんは立ち居振る舞いがエレガントで、とにかく巧くてインテリなピアニストでいらっしゃいました。
アルカン15曲は謂わゆる超絶技巧では全くない曲ばかりを選んで、内省的、いやホラー的な雰囲気すら漂わせていました。一曲目のタイトルが La chanson de la folle au bord de la merですから、イザベル・アジャーニ扮するカミーユ・クローデルがブルターニュの海岸で夢遊病患者のように歌っている姿が浮かんできます。
ショパンの24の前奏曲は、想像していたよりロマンティックで繊細な表現に驚きました。中音域を軸に響きを構築しているように聞こえ、高音は響きが少なく持続しない分、内声の存在感に耳を置くと心地よく感じられます。技巧的な曲では12番はピアノと比べて遜色ない迫力でしたが、19番は大変!ペダルなしでコンサートホールで弾けと言われているように弾き難そうでした。24番は転調しない限り滅多に変えないペダルが効果的でした。ペダリングが面白くて、わりと始終視線はピカピカのお靴に釘付けになっていました。参考になったのはフォルテ、フォルティッシモで弾く和音です。感情をどんなにぶつけても破綻しない、上品で端正な響きのフォルテ。
遠路遥々でしたが、とても良い音楽を聴かせて頂きました。
なんとなく、この楽器は情熱を秘めつつも冷静さを備えた人格者じゃないと弾きこなせないような気すらしました。メンタルの不安定さや気持ちの揺れがすぐに指から鍵盤に伝わってしまいそうな繊細さです。
もしいつかこの楽器を弾かせていただくような機会があれば、ベートーヴェンのソナタの16番を弾いてみたい!

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