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演劇好きじゃないのかもと落ち込む

演劇を始めてもう15年ぐらい経つのに、自分は演劇好きじゃないのかもと落ち込むことは多い。
観劇して元気になることはほぼ無い。疲れてると集中して観れなくて、あこれスッゴイ面白いお芝居だと気持ちの上では思っても身体はそのままグッタリしたまま、元気な時ならもっと楽しめるのになと歯痒い気持ちを抱えながら帰ることになる。残念ながらどんなに面白かろうが、観劇それ自体で元気になることはない。
元気に必要なのは適切な休息、すなわち眠ること、健やかな生活を送ることである。生活>観劇だ。もう気持ちや体力、お金モロモロに余裕がないと演劇なんて楽しめない。
だが真の演劇好きであれば、観劇が栄養補給・滋養強壮・体力回復に繋がって然るべきで、ましてや、自分は演劇を外から眺めるだけでなく役者としても活動しており、演劇の内部に入り込んでいるのだから、演劇が血肉となり肉体を突き動かすべきなのだ。にも関わらず、演劇を観に行って感じるのは己の疲弊っぷりばかりで内容が身体の芯まで届いてないことが最近非常に多い。演劇は観るだけで体力を凄く使う。
観劇に集中できなかった理由をこのように言い訳ばかりしていると、自分は本当に演劇が好きなのか怪しくなってくる。だが、演劇そのものをエネルギーに変換する超人なんたそうそういるはずがない。みんな死にそうになりながら観劇しているのである。演劇人ではない一般の人なんて社会で働き詰めで普段から疲労困憊だ。演劇なんて観る元気がないのが普通だ。
本来なら観劇1本分ぐらいの余力がいつでも誰にでも備わっている社会が健全なはずで、社会には是非そうした道を歩んで欲しいし、自分もそのような社会になるよう育てていきたいと思っているが、如何せん何の影響力もないので、そんな社会を夢見ながら、ヘロヘロの状態で劇を観に行くのが精一杯である。芝居を1本見ることで逆説的に自分にも社会にも余裕がある風に見せかける作戦である。

そんなこんなで先日、朝から昼過ぎまでバイトをして、バイト終わりに演劇の打ち合わせをして、夜は観劇の予定を入れ、隙間の時間は演劇のための歌の自主練に充てようとバイトの休憩中にスタジオ予約したにも関わらず、SNSで話題の今日しかやってない演劇がちょうど夕方の隙間時間に観に行けることが発覚し、スタジオのキャンセル料が発生するにも関わらず、自主練を中止して夜の観劇前にもう1本演劇を観に行くことにした。1日中、演劇ばっかりある。こんな有様なので演劇好きと言っても間違いないはずだが、でもそれはそれで何かダサくて嫌だと言う自分もいる。

前説をする尾崎優人氏。
本番中も好きに写真を撮ってSNSに上げて良いという触れ込みだったが
照れちゃってこんな写真しか撮れなかった。

それはそうと日々の隙間に観に行ったSNSで話題の演劇とは、優しい劇団『歌っておくれよマウンテン』である。

優しい劇団とは名古屋を拠点にした劇団で、Xなどでチラホラ名前は見かけたことがあるぐらいの印象だった。観に行ったキッカケは前日、通年で通っているワークショップに参加している時に、他の参加者の青年が明日公演やるんで観に来てください!とお知らせしてくれたからだ。彼は月2回あるワークショップのために、毎回名古屋から夜行バスに乗ってやって来る。劇団に所属しているのは聞いていたが、その劇団が優しい劇団だった。
最初は前日に言われてももう予定入れちゃってるからなぁ〜という気持ちだった。だが当日になったら“近くにいる人は優しい劇団を観に行け!"と昼の回を観た人たちが矢鱈とXで呟いてるのを見て、これは観に行った方が良いのかも知れないと思ったのだった。

『歌っておくれよマウンテン』はシンプルな作品だった。
主人公の女子二人組が仲間や敵と出会ったり別れたりしながら、マウンテンを目指して旅をする。写真を見ての通り、スタジオに舞台セットは組まれておらず、ブルーシートが敷いてあって、役者が水分を摂取するペットボトルが隅に置いてあるだけ。何にもセットのない舞台上で場面は死ぬほど転換する。コロコロ場所は変わるし、登場人物もコロコロ入れ替わる。全員が猛烈な早口で捲し立てるので、どう見てもしんどそう、しかしそのまま突き進む。照明や音楽も自分たちで操作する。主催の尾崎さんは出演しつつ手に持ってる機械で音楽を鳴らし檄を飛ばし前説をやり、他の役者陣も床に転がってる照明を蹴飛ばし位置を直し手に持って顔面を照らし、渾然一体で何を言ってるのかも聞き取れないけど、走り回り跳び回り、海を越え山を越え次元も越えてマウンテンに辿り着き、気づいたらみんなで歌っていた。

通年で通っているワークショップとは、
腹筋善之介さんのパワーマイム継承者求む!「全力失踪演技コース」である。
このワークショップは文字通り、腹筋さんが自身の経験の中で編み出してきた演技の技術を余すことなく全部教えてくれる。通ってると分かるが本当にビックリするぐらい全部だ。
自分はパワーマイムのことを、何にもない空間でも役者の身一つで原子の世界から広大な宇宙空間まで全て表現してしまう技術、と認識している。このワークショップでは腹筋さんが実演も交えつつ、どうやったらそんなことが出来るのか全て教えてくれる。とにかく凄いので、ピンときた人は通って欲しい。色んな人のパワーマイムを見るのは楽しい。

自分がこのワークショップに通い始めたのは、Peachboysも何のセットも作らずに色んな場所に行ったりコトを起こしたりするから、役者の身一つで何もかも表現してしまうパワーマイムが役に立つのではないか、と思ったからである。
優しい劇団に出ていた、一緒にワークショップを受けている彼が何を思ってパワーマイムを習っているのかは知らないが、毎回毎回、名古屋から夜行バスで東京にやって来て、ワークショップだけ受けて帰っていく、それだけで大変なことをやっているのはわかる。『歌っておくれよマウンテン』はずーっと尋常じゃない早口で喋り続けているので、結構何を言ってるのかわからないし、内容を思い出そうとしてもほとんど覚えてないのが正直なところである。ただ、幾多の困難を乗り越えてマウンテンに辿り着くところ、名古屋から劇団員全員でやって来て東京で公演を打つこと、毎月名古屋から夜行バスでワークショップだけ受けに来ること、全てが重なって見えて、無性に感動したのだけは覚えている。生(き)の感情をぶつけられた感じが物凄くした。

詰まるところ自分が演劇で体感したいのは、言語化できないナニカだと思う。
面白い物語も勿論好きだが、それなら小説とかでも良い訳で、何を求めて演劇を観るのかといったら、演劇からしか摂取できないナニカだろう。優しい劇団からは若さ溢れる生(き)の感情の塊をぶつけられて、非常に満足だった。

物語はどうでも良く、生(き)の感情をぶつけることに重きを置いているのはPeachboysも同じである。
優しい劇団は名古屋に拠点を置きつつも、東京にもやって来て活動の範囲を広げようとしている。感じたのは圧倒的な若さだ。何を言ってるんだか分からない、何をやっているんだか分からない。でも圧倒的に凄いナニカを表現してやろうというその姿には胸を打った。
Peachboysは今回の公演を最後に無期限の活動休止に入る。Peachboysに出てくれる人たちは何故か熟練の俳優ばかりだ。芝居には妙な説得力があり、それ故に何故こんなアホなことにこの人達は全力を注ぐのか、やってることの内容の無さと用いられている技術の落差が謎の感動を呼ぶ。

パワーマイムのワークショップで、腹筋先生は常にこう語る。
自分が持ってる技術は全て君たちに教えるけど、パワーマイム自体はもう古いものだと僕は思っている。技術を習得した上で、常に新しいものを発明し続けて欲しい。

優しい劇団はこれからの劇団だろう。Peachboysは今回が最後である。パワーマイムのワークショップでは腹筋先生が積み重ねて来た過去と参加者の我々が作り出す未来が存在している。
未来を作り出すためには発明し続けなければいけない。ラストのPeachboysで何が作り出せるだろうか。無意味な発明はPeachboysも無数にしてきた。その集大成が今回の『ピーチボーイズ』である。
是非観に来て欲しい。

どうかより良い未来に繋がれ。
今年で35歳。過去と未来が交錯しまくっている気がする。


🍑Peachboys 最終公演🍑
= PeachBOOWYs  LAST GIGS =
『ピーチボーイズ~新性器エヴァンと下痢男~』

作・演出:DJ Bokky a.k.a クソ旦那
2024年4月23日(火)~4月29日(月)@下北沢シアター711

あらすじ
ケン、ヨーヘイ、ハヤオの3人は20歳の仲良し童貞3人組。いつまで経っても童貞を捨てられない3人は気分を変えようと海辺の民宿「ダイヤモンド・ヘドロ」にやってきていた。波の音とフォーエバーな歌声が聞こえる波打ち際で3人は本音を話し出す。「俺たち、いつになったら捨てられるんだろうな」「もう12年も同じ会話してるもんな」「そうですよ、12年も……アレ?」そう、彼らは遂に気づいてしまったのだ!童貞の時(チェリータイム)が12年間もループし続けているという事実に!!現れる!股間が異様に膨張している、ほぼ全裸の民宿のオーナー!Majiで恋しそうな孫娘!かわいいあの子も、スケベなあの子も、様子のおかしい平成の大スターもみんながみんなで再登場!そして、顔の前で手を組み、やたらこちらを睨んでくるサングラスの司令官。「童貞。ここに乗れ」彼は自身のアソコを指差す。絶句する童貞たち!何と、彼の性器は……誰も見たことのない進化を遂げていた!
朝日のような夕日が照りつける。いつまでも、夢見る童貞じゃいられない。ヒラリヒラリと舞い遊ぶように、きわどい視線を振り切って、愛をどうこう言うの?いらない、何も捨ててしまいたくなる、星空の下でも、ずっと、自分のために踊りたい。いつまでも果てしない夢を追いかけたいって、それでも、チャラヘッチャラだと思ってた。だけど、ずっと続いた夢オチもこれでおしまい。本当にこれが最後の下ネタパーティーだ。長らくのご愛顧、誠にありがとうございました!Peachboys、12年間の下ネタ不謹慎演劇、これにて終幕です。あと……もう本当に誰も興味がないと思いますが、最後こそ、3人組は童貞を捨てられるのか!?最後までバカ貫きます。ご期待くださいませ!

【出演】
GO
KYOKYO
KYOSUKE
生粋万鈴(ハグハグ共和国)
佐藤友
つつじあゆこ
根本こずえ(演劇ユニットG.com)
福永理未
熊野善啓
島田雅之(かはづ書屋/studio4093)
園田シンジ
三宅法仁
山田健太郎(やまだのむら)

🍑回替わりゲスト🍑
長田大史(踊る演劇集団ムツキカ)
河村岳司(劇団AUN)
永吉明日香
森口美樹

【タイムテーブル】
4/23(火)19:00 長田
4/24(水)14:00 長田/19:00 河村
4/25(木)14:00 河村/19:00 長田
4/26(金)19:00 河村
4/27(土)13:00 永吉/18:00 森口
4/28(日)13:00 森口/18:00 永吉
4/29(月祝)13:00 永吉/18:00 森口

【チケット】
・祭前かぶりつき(最前列のことです):5,500円(事前精算)
※各回8席限定指定席・豪華特典付き

祭前かぶりつき予約https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02kafdx55bj31.html


・自由席一般/前売・当日:3,800円(当日精算)
・自由席ペア割(前売予約のみ):7,000円(当日精算)
チケットフォームhttps://ticket.corich.jp/apply/304655/002/

会場
下北沢シアター711
東京都世田谷区北沢1-45-15
TEL 03-3469-9711

スタッフ
照明:橋本剛 (colore)
音響:丸山慶将(tone pocket)/沖田幸平(tone pocket)
舞台監督:小川陽子
衣装:久保田早織
演出助手:関智恵
当日運営:藤井のりひこ (クズ会)
舞台写真:石澤知絵子
宣伝美術:山川恭平
WEB:村田智
企画・制作:Peachboys
協力:はらぺこペンギン! チーズfilm ハグハグ共和国 演劇ユニットG.com MC企画 かはづ書屋 studio4093 やまだのむら 踊る演劇集団ムツキカ 劇団AUN

問い合わせ先
TEL 070-9113-1967
MAIL peachboysplay@yahoo.co.jp
HP http://peachboysplay.com
X(元Twitter) @Peachboys2024

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