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【Clubhouse連動】オディーシャ州列車事故を受けて。インドの鉄道は安全なのか。

はじめに

こんばんナマステ💛Kyoskéこと暑寒煮切(あっさむにるぎり)だよっ⭐️

今日は22:00からClubhouse『インドの衝撃(インド大学)』で話す、先般のオディーシャ州における鉄道事故について書いていくことにする。

この話について何故触れないのか疑問に思う人もいたかもしれないけれど、逃げてたのではなく憶測で適当なことを言いたくなかったから。

ある程度の原因が究明できたところで、こちらも言及をしていきたいと考えてた。

自分は技術者でもアナリストでもない。

でも大きな事故が起きると、情報を収集してお客様に説明をしなければいけない立場。

今までで特にそれが必要だったのは、まだインドに携わっていなかった頃だけど、2010年代にバスの事故が相次いだときと、2012年に国内のLCCが相次いで登場したとき。

この2つは連動していて、関越道高速ツアーバス事故を受けて、安いイコール危険みたいなイメージがこびりついちゃったところにLCCが出てきたので、安全性についてものすごくよく聞かれた。

お客様がどうしたら交通機関の危険を察知できるのか、というのは関越道事故以降はずーっと考えている。

例えば傷だらけのバスを見たら危ないとかね。

今回もお客様にインドの鉄道の安全性について問われた時、どう説明するのか、ということをスタンスで書いていきたい。

変に隠そうとするような態度はよくない。現時点でわかっている情報をきちんとお伝えして、乗るか乗らないかはお客様に決めていただくことが大切。

それじゃあ、早速見ていくよ❗️

列車事故の概説

まずは事故についての概要を見ていきたい。

事故は6月2日の現地時間19時頃、オディーシャ(オリッサ、オリヤー)州バーレーシュワル(バラソール)県のハウラー=チェンナイ本線バハナガバザール駅付近で起きた。

ハウラーはインド第3の都市であるウエストベンガル州コルカタの対岸にあるインドの東の要衝で、インドで最も乗降客の多い、もっというと日本の新宿・池袋・渋谷・東京・品川・横浜・大阪(梅田)・名古屋を除き世界で最も乗降客の多い駅といわれている。

そこからオディーシャ州、アーンドラプラーデシュ州を経由して南インド最大、インド第4の都市タミルナードゥ州チェンナイへ向かう路線で、本来ならば山陽本線や東北本線クラスであって然るべきだけど、インドの中ではそんなに優先度は高いとはいえない路線で山陰本線くらいの格❓

バハナガバザール駅はハウラーを出てオディーシャ州に入ると割とすぐに通る場所で、オディーシャの州都ブバネシュワルはもっとチェンナイ方向に進んだところになる。

今回事故を起こしたコロマンデルエクスプレスはハウラー駅ではなくその近くにあるシャリマー駅とチェンナイ中央駅を結ぶ快速急行(Superfast Express)。シャリマー駅はハウラー駅の混雑を分散させるために今世紀に入って整備されたサブターミナル。

快速急行は急行より少し速いというだけで、下から3番目に相当するはっきり言って遅い列車だけれども、最高速度130km/h、表定速度(停車時間を含めた平均速度)65km/hというのは快速急行としては速いし、ハウラー=チェンナイ本線自体が快速急行が主力になっている。

なお、列車名はアーンドラからタミルにかけての旧称コロマンデル海岸に由来するので、日本っぽいネーミングセンス。

バハナガバザール駅は上下線の両側にホームを挟んで線路がある追い越しができるどこにでもある駅で、こういう駅では中央の追い越しを行う方の線路を本線(main line)、両側の追い越しを待つ方の線路を副本線(loop line)と呼ぶ。

loop lineを「支線」と訳している日本語の記事が散見されるけどわかりづらい。

追い越しを待つことを「待避、」といい、こういう駅を「待避駅」、副本線のことを「待避線(passing loop)」ともいう。

事故当時、両側の副本線には貨物列車が停まっていて、かつどうやらこの駅は駅のホームよりもかなり長い副本線を持つことが事故現場の写真から見えてくる。

日本ではこういう場合駅の構内という扱いなんだけど、「バハナガバザール駅付近」という報道なのでインドでは扱いが違うのかもしれない。例えば、新宿駅の中央快速線用の引き上げ線は隣の代々木駅真横にあるけども新宿駅構内という扱い。

バハナガバザール駅の副本線が非常に長いのは日本とは比べ物にならないほど長い編成の列車が待避できるようにするためで、実際事故当時副本線には両側とも貨物列車が停まっていた。

シャリマーからチェンナイに向かっていたコロマンデルエクスプレスはバハナガバザール駅を通過して貨物列車を追い越す予定で当然バハナガバザール駅の本線を通る予定だったけれど、バハナガバザール駅のかなり手前にある副本線との分岐で誤って副本線に入ってしまい、副本線にいた貨物列車にほぼ最高速度の128km/hで追突。

その衝撃で22両の客車が脱線してしまった。特に後ろの方の車両は副本線にまだ達しておらず、本線上で脱線した。

哀しいことにコロマンデルエクスプレスが貨物列車に衝突して客車が脱線したその時、逆側の本線ではSMVTベンガルール=ハウラースーパーファストエクスプレスが通過中で(反対方向から向かってくる列車を対向列車と呼ぶ)、その後方車両が脱線してきた客車を躱すことができずぶつかってしまった。

この列車も快速急行で、SMVTベンガルール駅とハウラー駅を結ぶ列車。こちらはコロマンデルエクスプレスのような日本的愛称はなく、単に起点と終点だけ示した列車名。

SMVTベンガルール駅はベンガルールのサブターミナルで、SMVT(Sir M. Visvesvaraya Teriminal)はマイソール藩王国の大臣としてベンガルール発展の基礎を築いた偉人サー=モークシャグンダム=ヴィシュヴェーシュヴァライヤに由来する。

この結果として、両方の列車の乗客合わせて288名が死亡、1,175名が負傷するという今世紀に入ってからのインドでは最大の事故となった。

SMVTベンガルール=ハウラースーパーファストエクスプレスは事故車両を切り離して、残りの車両と乗客をハウラーまで運んだなんてトカゲの尻尾切りのようなことをしたというから日本では考えられないなぁと。合理的だけど…

ちなみにコロマンデルエクスプレスのバハナガバザール駅通過予定時刻は19:01とありほぼ定時運行だったけれど、SMVTベンガルール=ハウラースーパーファストエクスプレスは15:28通過予定で4時間近く遅れたために不運に見舞われた。もちろん遅れなきゃよかったけれど、そこまで遅れたならあと1分遅れてたら助かったかもしれないと思うとあまりの不運にいたたまれない気持ちになる。

現在焦点になっていることは2つ。

ひとつは何故、コロマンデルエクスプレスは副本線に入ったのかということ。

本線と副本線を分岐させる信号は当初本線へ向かう指示を出していたのに、コロマンデルエクスプレスの運転士が確認する時には副本線に向かう指示に切り替わっていたとされており、現在それは信号機のエラーではなく人為的な切り替えでありテロ行為だった可能性を捜査当局が疑っている。

もうひとつは副本線に入ってしまったことは仕方がないとして、本当に衝突を止められなかったのかということ。

捜査当局がテロ行為について言及しているというのは、衝突防止策をきちんと練ってこなかった国鉄と政府による責任隠蔽の可能性はないのか。少なくとも我々外野は少し遠巻きに見ていた方がいい。

列車衝突は止められるのか

今回の事故がテロだった場合はこちらとしてもお手上げだけども、列車衝突を何らかの方法で止めることができたのか、という観点から考えてみたい。

実際、コロマンデルエクスプレスには衝突防止装置が付いていなかったという報道がなされている。

一般論として列車衝突を止めるにはどうしたらいいのか。

基本中の基本は運転士による目視確認だけれど、それでは追いつかないからこそなんらかのシステムが必要になる。

例えば2010年代後半以降の自動車で急速に普及している衝突被害軽減ブレーキ(Autonomous Emergency Braking System)のようにセンサーで前方の列車を検知して後方の列車を停めるのはどうか。

列車より圧倒的に車長が短く、ゴムタイヤによって急ブレーキが効く自動車であっても効果は完璧ではなく、むしろあくまで補助的なものであって過信は禁物であるとされている。

自動車ですらそこまでなんだから、既に接近している列車同士の衝突を完全に止めるためのセンサーは残念ながらまだないと言わざるをえない。

もっと原始的な方法も実はあって、わざと分岐を設けて、分岐の先は行き止まりにすれば、後続の列車がそこに突っ込むことで列車同士の衝突は防げる。

これを安全側線(catch points)といって、最近は少なくなってきたとはいえ単線の路線を中心にまだまだ見かけるので、あの余った線路何なんだろうと思った人も多いはず。

安全側線はあくまで衝突を防ぐだけで、安全側線に突っ込んだ列車には強い衝撃が走り大概は脱線する。

1962年5月3日21時36分に常磐線で日暮里の次の駅三河島の近くでで死者160人、負傷者296人を出す大事故が起きた。

常磐線の起点は元々は田端で、需要の多い上野への線路を三河島の南千住寄りで後付けで分岐させた。現在でも貨物列車を田端に向けて走らせているけれども、湘南新宿ラインの成功もありこの線路を活用して池袋・新宿方面と常磐線を結ぶ系統の新設が要望されている。

そんな田端から来た貨物列車が、常磐線の本線に合流する際赤信号に気付かず進んでしまったけれど、安全側線に突っ込み貨物列車は脱線したものの、最悪の事態は免れたかのように思えた。

しかし、脱線した車両が後から来た上野発の電車にぶつかってしまう。さらにこの電車の乗客が電車を脱出して闇夜の線路上を歩き、対向列車である上野行き電車に跳ねられてしまうという三重事故になってしまった。対向列車に連絡は行ってなかったので、まさかこの場所で事故が起きているなんて思いもしなかったわけで。

国鉄は安全側線だけでは安全を確保できないことを身をもって知り、より安全な方法を模索することになった。

思えば今回のオディーシャ州の事故も、場合によっては三河島のように第3の悲劇が生まれる可能性は存分にあったと思うと背筋が凍る。

国鉄は三河島事故の反省として、信号無視してしまった列車を安全側線に頼らず自動的に止めるシステムと、列車事故の多重化を防ぐための連絡系統の確立を目指すことになる。

後者について触れておくと、異常を察知したり事故を起こして緊急停止した運転士が周りを走るすべての列車に対しても緊急停止を訴える防護無線(train protection radio equipment)が開発された。

これはシステム的なこともそうなんだけど、三河島事故までは「列車の運行をなるべく止めてはいけない」とされていた思想を「何か起きたらまずは列車を止めろ」に切り替えたということも大きい。

防護無線が活用された事例としては、未だ記憶が生々しく特に関西の人にとっては思い出したくないことかもしれないけど、2005年4月25日に兵庫県尼崎市で起きたJR福知山線(地元ではJR宝塚線と呼ぶことの方が一般的)の脱線事故が挙げられる。

事故現場に接近していた特急列車が実はあったけれど、運転士が信号機の作動に気がつき40m手前で停止することができた。

そしてすぐにこの運転士は防護無線を発信したお陰で、これ以上の事故の多重化は防げた。

107人が亡くなり562人が負傷する大事故ではあったけれど、それ以上にならなかったのは防護無線が効果を発揮したから。

オディーシャ州の事故でも、これ以上多重化しなかったのは緊急時の連絡系統が効果を発揮したためと思われる。

三河島をはじめとした世界中の類似事故のケーススタディが救った命もあるということは改めて認識しておきたい。

列車衝突は止めるのではなく避けるもの

三河島事故で安全側線の限界を知った国鉄は、冒進した列車を自動的に止める方法を模索し、ATS(Automatic Train Stop、自動列車停止装置)を張り巡らせることを決める。

ATS自体は戦前から研究開発と一部路線での導入が始まっていたけれど、その精度を上げてかつ安全運行の基準とすることにした。

ATS自体色んなヴァリエイションがあるし(各JRごとにあったりする)、ATC(Automatic Train Control、自動列車制御装置)やら何やら色んな類似のシステムがあり、インドでは独自にKavachという自動列車保安装置を開発していてヒンディー語で鎧を意味する。

https://static.pib.gov.in/WriteReadData/specificdocs/documents/2022/mar/doc202231424701.pdf

今回はそのひとつひとつの特徴に触れたりはしないので、これらを総称した自動列車保安装置と呼んでいくことにする。

各国の自動列車保安装置の共通した命題は、信号無視による冒進が発生した場合自動的に列車を停めるということで、さらに一部は速度超過についても反応して強制的に減速させる機能を持っている。

Kavachの導入はまだ始まったばかりで、多くの路線ではまだ実装されているとはいえない。2027年から2028年の間にデリー、ムンバイ、チェンナイ、コルカタを結ぶ「ダイヤの四角形」に完全実装する計画なので、まさにハウラー=チェンナイ本線にとっては5年早く必要なものだった。

自動列車保安装置は信号無視を止めるというものだけれど、それがどうして列車衝突にも有効なのか。

それは路線をある区間で区切り、そのなかには必ず1列車しか入れないようにする閉塞(brock system)という仕組みと親和性が高いから。

「少子高齢化で閉塞感のある日本は若年層の人口増加が著しいインドと組む必要がある」とかいうじゃん。その閉塞を感じゃなくて完全にやらないと鉄道の安全は担保できない。

鉄道黎明期においては閉塞ではなく先行列車の出発後一定の時間が経った時点で後続の列車を出発させる方式が採られていたけれど、1889年6月12日に北アイルランドのアーマーで急勾配を登り切れず立ち往生した先行列車に後続列車が追突、80人が死亡、260人が負傷する事故が起きて以来、閉塞の考え方が徹底されるようになる。

自動車でいうところの片側交互通行のように単線で単純に上下列車が行き交う場合、湘南出身の自分にとっては江ノ島電鉄や湘南モノレールがそうなんだけど、駅など行き違いを行う設備同士の区間が閉塞になり、一度に複数の列車が入ったら絶対に衝突するから、1列車しか入れることができない。

昔はそれを管理する際、その閉塞用の通行手形を用意して、行き違いの際に対向列車の乗務員と通行手形を交換した。

行き違いのことを列車交換(あるいは単に交換)と呼ぶのは、まさにこのこと。通行手形を交換するということは、閉塞自体を交換しているわけね。

九州ではなぜか離合という言葉を使う。これはダイヤグラムを書いてみればわかるけど、列車同士が行き違いするときに必ず斜線同士がくっつく。

「緑の中を走り抜けてく真っ赤なポルシェと離合した」みたいに列車以外のすれ違いでも離合というんだよね。

昔は駅で紙の時刻表をよく配ってたけど、九州の西日本鉄道ではダイヤグラムを配っていたらしく、九州の年配者はダイヤグラムを読む習慣があるんだろうね。

英語ではtrain meetなので、感覚的には交換より離合の方が近い。

複線の場合は同じ方向に複数の列車が走るし、単線でも例えば都市と郊外を結ぶ路線なら朝は郊外から都市、夕方は都市から郊外に向けての需要が多いし、特急や快速が走ったりもすると、片側交互通行ではなく複数の列車が同じ方向に走ることがある。

こうなってくると、自動車でいうところの車間距離を適切に保たないと追突してしまう。つまり車間距離を保てる区間が閉塞になり、閉塞ごとに信号を置いて他の列車が入れないようにする。

なお、日本では複線にするとほぼ片方向にしか列車を走らせないけれど、欧米では単線が2本あるという考え方をするため、速い列車が遅い列車を走りながら追い抜いたり、運行本数の少ない時間帯は片方の線路だけを稼働させてもう片方はメンテナンスしたり、柔軟な運用が可能になる。

その代わり、閉塞はとても複雑になり、コストが上昇するだけでなく列車衝突のリスクも格段に上がる。

ダイヤを組むというのは閉塞を組み合わせていくことでもある。閉塞の組み方が複雑になればなるほど、アナログな方法では無理が出てくる。

そこで線路に微弱電流を流して列車の位置をリアルタイムで検知する軌道回路(track circuit)という方式が用いられることで、閉塞管理に必要な信号が自動化できるので、効率は格段に上がった。

自動列車保安装置はまさにこれに依存していて、既に列車のいる閉塞に他の列車が入ってくるとそれを拒絶するようになっている。

つまり自動列車保安装置は列車追突を止めるというよりは、列車追突を避ける仕組みになっている。

三河島事故の2年半後に開業した東海道新幹線は、三河島事故を起こした環境の真逆である衝突回避の原則(crash avoidance)をモットーにしている。

線路同士を平面交差させない高速列車専用線とATSによって、衝突の可能性を完全に排除するという基本思想に基づく。

これを完全に継承したJR東海が東海道新幹線に東北新幹線や九州新幹線、北陸新幹線を乗り入れさせることを拒絶しているのはそういうこと。

それができるのは東海道ベルトの恵まれた人口密度があるからで、JR東日本はそんな悠長なことは言えず、山形・秋田新幹線などを枝分かれさせる欧州型のネットワークに舵を切った。

ただし、JR東日本がムンバイーアフマダーバード間に建設中のインド初の高速鉄道についてはひとまず在来線との互換性は無視されており、東海道新幹線型の衝突回避の原則が用いられる。オペレーションが確立するまでは衝突回避の原則を遵守させるべきだと考えているのかもしれない。

翻ってもしコロマンデルエクスプレスに自動列車保安装置が付いていたら、既に貨物列車がいる閉塞に拒絶され、ブレーキがかかったはず。

完全に止められたら理想だけど、完全でなくても減速しながらぶつかるのは全然衝撃が違うから、脱線の度合いも少なく済み、死傷者は大きく減らせた可能性が高い。

ところで、徳島県と高知県の県境の超過疎地域に線路と道路を行き来できるDMV(Dual Mode Vehicle)という今のところ世界唯一の乗り物が走っていることは聞いたことがあると思うけど、DMVは車体が軽いので軌道回路で検知できない。

そのためGPSで位置を検知しているので、他の列車と一元的な運行管理ができない。国交省はそれを問題視していて、現状ではDMVと他の列車を同じ線路に混在させることができず、また長いGPSの届かない長いトンネルの通行も禁止されている。

ただ、日本と欧州ではGPSやWi-Fiを駆使して、信号機を無くす運行管理を開発しており、東京メトロ丸ノ内線やJR仙石線、インドでもデリーメトロの一部で用いられている。

これによって将来的にDMVと列車の一元管理が可能になれば、日本中いや世界中のローカル線でDMVは重宝されるだろう。

そして無線で管理すれば、閉塞の考え方自体が変わる。

列車同士が5m動けば、閉塞も5m動く。これを移動閉塞(Moving Block)というちょっと矛盾した呼び方になるんだけど。

信号機を使ったこれまでの閉塞は固定閉塞(Fixed Block)ということになるけど、それは必要最低限の車間距離よりも余裕を持った距離にしか絶対にならない。言い換えれば無駄が多い。

固定閉塞による列車の運行間隔はどうしたって2分弱にしかできないけれど、2分弱に1台しか自動車が通らない道路を見たら多くの人はあまり利用されてない道路って思うはず。それが鉄道の現実なんだよね。

だけど、移動閉塞なら必要最低限の車間距離での閉塞の設定が理論上は可能になり、速度や列車の長さにもよるけど1分未満の運転間隔で、例えば山手線なら電車を数珠つなぎにしてぐるぐる回してエスカレーターのような感覚で乗り降りできるようになる。

今の移動閉塞はまだそこまでのクオリティには達していないけれど、実現するために絶え間ない研究開発が進められている。

鉄道保安に大門未知子はいらない

鉄道の安全運行を語るうえでもうひとつ覚えておいてほしいのはフェイルセーフという考え方。

すべての装置は必ず故障するし、人間もヒューマンエラーを起こす。

それを予め組み込んだうえでシステムを構築する必要があるということ。

「私失敗しないので」というのは、キリスト教・イスラームでいえば神の領域ということだからね。人間には人間臭いシステムが向いている。

信号無視した列車が安全に止まることができる。安全側線や自動列車保安装置はフェイルセーフのもとに組まれたシステム。

三河島事故は安全側線に突っ込んだという点ではフェイルセーフが機能してるんだけど、その先の惨事が読み切れてなくて、ATSや防護無線の開発に繋がった。より強力なフェイルセーフを構築したということになる。

そういう意味では、コロマンデルエクスプレスが副本線に誤って入った際に、フェイルセーフがまったく考えられていなかったというのはお粗末としか言いようがない。

Kavachが導入されていなくても、何らかのフェイルセーフはあって然るべきだったんじゃないのか。

列車衝突対策としては、車体をより頑丈にすることばかりが考えられてきたけれど、近年はクラッシャブルゾーンといってあえて壊れやすくして衝撃を吸収する思想も芽生えつつある。

柔よく剛を制すってことで耐震構造でも近年はあえて建物を揺らすようにしてるでしょ。

もしコロマンデルエクスプレスにもクラッシャブルゾーンが採用されていたら、衝撃を逃がすことで客車の脱線度合いを緩和できた可能性もある。

人も装置もエラーを起こすからこそ、そこから逆算したシステムが必要。それってジュガールなどのインド思想と親和性高い気がするけど、どうだろう。

インドの鉄道は生まれ変われるか

オディーシャ州列車事故は内容的にも三河島事故に似ている部分があるけれど、実は時代的にも高速鉄道が走り始める直前ということでよく似ている。

東海道新幹線が走り始める前の日本の国鉄は、東京などの主要駅を早朝に出発して深夜に戻ってくる特急が走って弾丸日帰りができる仕組みになっていたけれど、これは今のインドもまったく同じ。

三河島事故はとても悲しい事故だったけれど、三河島事故があったからこそ日本国鉄の安全に対する姿勢は格段に進化して東海道新幹線という世界一安全な鉄道システムを創り上げた。

インド国鉄もまたオディーシャ州列車事故を大きな教訓にしていかなければならない。

信号機のトラブルがテロリストのせいだったとしても、フェイルセーフの思想があれば事故を少しでも軽くできた可能性があるわけで、インド政府が刑事事件の方向に話を持っていこうとしていることには眉を顰めずにはいられない。

実は1943年10月26日に常磐線の土浦駅で列車の三重衝突事故が起きていたけれど、戦時中で隠蔽されてしまった。

この事故に真摯に向き合っていれば、少なくても三河島事故における3番目の事故は防げたはずで、インド政府が喧伝するテロリストの仕業云々に対してそのような危惧を憶えずにはいられない。

今後どうするべきかといえば、Kavachの早急な普及も大事だけども、まずは全路線においてフェイルセーフが機能しているかどうかの総点検が必要。

Kavachが間に合わないのであれば暫定的に外国製の自動列車保安装置の装着も検討してほしい。技術の内製化を謳うメイクインディア政策には頷ける面も多いけど、今回の事故はその弊害ともいえる。

日本は移動閉塞を導入するにあたって、欧州のものと国産のものを並行して試しているし、新しいものを研究開発する時は先行技術から学ぶことも大切。

というか日本と欧州が移動閉塞を競っている時に、インドは自動列車保安装置すら波及させられていない、という周回遅れの状況なわけでしょ。

今回の事故はハウラー=チェンナイ本線だからこそ起きた事故だとも自分は考えている。

というのは四大都市を繋ぐ「ダイヤの四角形」の一辺を成す路線ながら格が低く、インフラ投資が遅れている。

それでも需要は多いため、本来であれば特急が出す水準の130km/hを快速急行に背負わせている現実がある。インドの中では一流の運転速度に対して安全対策はどうだったのか。

鉄道は事故を乗り越えて安全性が高まる歴史を繰り返してきた。今回の事故を受けてインドの鉄道の安全性が見直されることを願わずにはいられない。

おわりに

お客様にインド鉄道旅行の安全性を問われたら、より上級の列車、上級の路線ほどリスクは低いと答える。

インドの場合、次から次へと新しい列車が出てきてより高性能になるけど、快速急行みたいに古くて遅い列車がなかなかなくならないのよ。

列車そのものもそうだし、上級の列車が走る路線はインフラ投資も進んでいる。

ただ、今回の事故現場はちょうど先月ハウラーとオディーシャ州プリーを結ぶ超特急ヴァンデバラトエクスプレスが走り始めたばかりの区間ではあるんだけどね💦

インドの鉄道はインド格差社会の縮図であり、下位の列車、下位の路線にはやはり安全上のリスクがつきまとうと考えた方がいい。

インドの列車事故そのものは減少傾向で、政府と国鉄は何もしてこなかったわけじゃない。

安定性のある世界一幅の広いレールを使っていることもあり、列車事故に遭遇する率はかなり低いけれど、現在は経済成長と人口増加による列車の往来需要が政府や国鉄の努力を上回るほど伸びているという事情もあり、しばらくは色々とひずみが出るかもしれない。

だからこそなるべくなら上級の列車、路線を利用するように心掛けた方が身のためだといえる。

日本でも明らかに安全投資を怠っているJR北海道やJR西日本のローカル線に乗るのはちょっと怖いけどね。

鉄道技術は利便性・経済性と安全性が比例する傾向にあるから、便利で快適な列車・路線は安全性も高いことが多い。

最終的にはロシアンルーレットになってしまうけど、少しでも率を下げたければそういう目線で選んでいけばいいんじゃないかな。

リスクを隠蔽したくないので今日は重い話を書いてきたけど、必要以上の不安を煽りたくもない。

旅をするときはあまり神経質にならず楽しんでほしいなっ🎵

それじゃあバイバイナマステ💛暑寒煮切でしたっ✨



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