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【食エッセイ】自分のためだけの丁寧なランチ

自称グルメな私だが、昼食においてはかなりかけ離れている。昼食に求めるのは時短、満腹感。完全リモートワークなので自宅で済ますことが多く、少しでも仕事に充てる時間を増やすために効率重視の食事を摂っている。

仕事が切羽詰まってないときや、彼や母と外食するときはゆったり食すが、大抵は自宅でパパッと作るか、あるものを食べるか、またはテイクアウトか。

昼食で多いのはパスタだ。茹でてパスタソースを絡めれば終わり。しかも、パスタはすぐにエネルギーに変わるので食後の仕事効率が高まる気がする。3分で茹でられるパスタがあるのもパスタ率を高めている理由だ。通常パスタの茹で時間は7分ほど。大した時間ではないが、自他共に認めるせっかちな私には7分さえも長い。3分パスタは「待つ」という不毛な時間を少しでも縮めてくれるので大変助かる。

このように、私の昼食には色気がない。仕事の時間を少しでも長く確保し、空腹を満たすことが第一優先だからだ。昼食に手間暇かけようという気持ちが湧かなかった。我ながら殺伐としている。

しかし、今日は違った。

やっと仕事が落ち着いてきて、昼食は何にしようかとじっくり考える心の余裕があった。久しぶりにあれこれ考えた。

まず思いついたのはバーガーキング。
最近地元にでき、先週人生初のバーガーキングを食した。マッシュルームワッパーの冬辛という味で、トッピングが追加できたのでアボガドを入れ、苦手な玉ねぎを抜いた。

ファストフードでトッピングをカスタムできることに驚いたが、それ以上に驚いたのは予想を遥かに超えたうまさ。ファストフードではモスバーガーやフレッシュネスバーガーが上位にいると思っていたが、バーガーキングはその上にいるかもしれない。ファストフード特有の食後に感じる脂っぽさ、胃のもたつき感がなく、素材も新鮮な感じがして非常においしかった。

しかし、食べたいとは思うものの、胃の調子が万全ではない。そこまで胃もたれしないとはいえ、量がボリューミーなので芳しくない胃腸にはややヘビー。それに、店舗は駅の反対口にあるので行くのが億劫。今回は止めにした。

やっぱりいつも通りにパスタにするか?
いや、それでは味気ない。パスタソースのストックはさまざまあるが、こんなに気持ちに余裕があるのにいつものルーティーンで済ますのはもったいない。

そうだ、ミネストローネがある。
昨夜作ったミネストローネの存在を思い出した。胃を労いつつも栄養満点でおいしいものをと思って昨夜作ったのではないか。食べないとだめになってしまうし、胃腸的にも問題なし。けれど、これのみでは味気ない。

そうだ、ミネストローネに合うものを買いに行こう。今日は時間的に余裕がある。
早速駅ビルに向かった。

一瞬、ミネストローネを使ってパスタにしようかと思ったがやめた。私はパスタが大好きだが、さすがに頻繁に食べていると好物感が薄まって飽きてくる。どうしようかと考えていると、私には珍しいパンが思い浮かんだ。

私はあまりパンが好きではない。いや、好きなのだけど、そこまで食べたいとは思わない。

しかし唯一好きなパンがある。それはベーコンエピだ。

ベーコンエピを好きになったきっかけは、バゲット。昔風に言うならフランスパンだ。

私の母はパン派で食パンは毎日、フランスパンは毎日ではないが頻度高く買っていた。私は食パンをそこまで好きにならなかったが、フランスパンは違った。クラスト(外皮)にハマったからだ。

クラストは子どもにしては硬い。しかし、あれをグッと踏ん張って噛みちぎるのに快感を抱いた。噛むほどに旨みが伝わってくるのもいい。パリッと焼き上がるのも好き。クラストの後にはふわっと柔らかいクラム(中身)が続き、口の中に優しさが広がる。硬さから柔らかさにつながるあの感じが大好きだった。

ベーコンエピも外側は硬く、内側は柔らかい。それに加えてベーコンが入っている。ベーコンは個人的に万能と考えていて、何に入れてもたちまちおいしくなる。大好きなハードブレッドにベーコンの組み合わせは私にとって最強かつ最高。駅ビルに向かう道中は思わず胸が高鳴った。


おそらく片手で数えられるくらいしか入ったことがない駅ビルのパン屋には、女性客が多かった。男性客は一人もいなかったように思う。いたとしても一人か二人くらい。どんどんパン屋に女性が入店し、真剣にパンを物色したり、お目当てのパン目がけて足早に歩いたりと、パン好きであることがビシビシと伝わってきた。

世の女性はこんなにパンが好きなのか?
パンってそんなにおいしいのか?
あまりパンが好きでない私は珍しいのか?

そう思うくらい、みんな目がパンになっていた。

お目当てのベーコンエピと彼が好きそうなバナナマフィンを買い、早々に帰宅。ミネストローネを温めている間に、ベーコンエピを焼くことにした。そのままかぶりついてもよかったが、せっかくわざわざ買いに行ったのだから、パリッと焼いて味わいたい。

食器は気持ちキレイめのものを選んだ。見慣れた食器なのに、ちゃんと料理と向き合って選ぶと特別に感じる。ミネストローネを盛るのもいつもより丁寧に、慎重になった。

2日目のミネストローネは味しみしみで格別。具材の柔らかさが増して、優しく口の中に広がる。

きれいに盛ったはずなのによれた笑

思いのほか焼き過ぎたベーコンエピ。いかがなものかと思ったが、食べたらちょうどよい焼き加減で皮がパリッと音を立てる。中はふわっ。これよこれ!

ベーコンがもう少し長いといいのになぁと思いながらベーコンを噛み締める。でも、やっぱりおいしい。ベーコンエピは正解、正義。

エピとはフランス語で「麦の穂」という意味らしい。

ベーコンと味わえなかった部分はスープにつけて食べる。

あ〜まいうぅ。

至福の時間だった。おいしくて、ベーコンエピを食した後もミネストローネをもう一杯。我ながら品が良く上等な味にできた。

こうやって、自分のためにわざわざ買いに行って、温め直して、食器にもこだわってという工程が加わるだけで、食事は格段においしくなる。時間と手間をかけるとは、なんと贅沢なことか。時間を惜しまず食べたいものを用意し、下準備をし、料理に合う食器を選ぶだけで心が満たされる。心身ともに満たされたのか、晩御飯まで空腹にならなかった。

「丁寧な暮らし」というのが雑誌やSNSで流行っているが、何が丁寧なのかわからなかった。だが、ようやく今日になってわかった気がする。自分が喜ぶために手間暇をかける。妥協しない。これが丁寧な暮らしなのではないだろうか。

もっと自分のために時間をかけて、満足できる時間を持とうと心から思えた昼食だった。

あー、幸せだ。

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