BBAが気づかせてくれた彼の優しさ
悲しいかな、無礼な輩とは自分の無礼を知らずにお気楽に生きている。昨日は久々に無礼な言葉を受け、非常に腹が立った。
昨夜は、知人たちと飲み会。事の発端は私の絵だ。酔った勢いで、今一生懸命に描いている愛猫の絵を見せたくなった。絵を褒められて良い気分になった後、愛猫の写真を見せた。
すると、一緒にいたBBAが一言。
「あはは!ぶさかわ〜」
……はっ?
「いや、かわいいじゃないですか!」
「いや、これはぶさかわよ!ぶさかわ、かわいい〜」
私がいくら否定してもぶさかわ、ぶさかわと言ってくる。決めつけてくる。なんなのこのBBA?
確かにうちの子は丸いしぽちゃっとしてる。それは認めるが、ブサイクではないだろう。とはいっても人によってかわいいの基準は違うし、見る人によってはブサイクかもしれない。
けれどもだ。絵に描くほど溺愛し、かわいがっている大切な猫に対して言わなくてもいいじゃないか。そもそも、そう思ったとしても、前々から付き合いがある人に向けての言葉ではないだろう。その場は笑って濁したが、腹わたが煮え繰り返るくらいムカついた。
これさえなければ楽しい飲み会だった。
こ・れ・さ・え・な・け・れ・ば!!
ムカつきながらもかなり酔っ払っていたので、帰宅してすぐに寝てしまった。このまま朝寝坊するかと思いきや、喉の渇きで早朝に目が覚めた。すると、途端にあのBBAの言葉をフラッシュバックのように思い出した。
あんな無礼なことを言うなんて……。
失礼では済まない。礼というものがあのBBAには無い。
怒りがワナワナと込み上がってくる。
だいたいこのBBAは、以前から空気を読まずにズゲズゲと言うところがあり、周りを考えずに突っ走ることが多々ある。私はこの手のタイプが嫌いだ。でも、悪い人ではないし優しい面もあるから、関わりたくなくても片目を瞑ってうまくやろうと接していた。
だけど、愛猫への発言だけは許せない。考えれば考えるほどむかっ腹が立って、アドレナリンが出たのか眠れなくなってしまった。
リビングで愛猫にごはんをあげた後もモヤモヤとして、ソファに寝転んだり愛猫と戯れたりしていた。あっという間に2時間が経ち、彼が起きる時間に近づいていた。
彼と入れ替わりで寝ようと寝室に向かい、ベットに入ると彼が目を覚ました。
まだ寝るの? うんあと少しと言う彼。そのまま眠らせてあげようと思ったが、BBAへの怒りが収まらなくて昨日のことを言ってしまった。
へぇと言いながら彼はまた目を瞑った。やっぱり眠るのかと思いきや、彼はパッと体を起こして素早く1階のリビングに向かった。私も彼を追ってリビングへ。
ソファに腰掛けてテレビをつけると、彼は淡々と話し始めた。
「その人さ、猫好きじゃないんじゃない?」
「う〜ん、わからない。そうだとしてもさ、BBAムカつかない?」
「失礼だよね。いくらそう思ったとしても、普通は面と向かって言わないでしょ。人がかわいがっている猫に対して失礼すぎる」
彼は私とは反対で、嫌なことを言われたりされてたりしても、笑いながら受け流せる人。しかし、さすがに愛猫のことになると怒りを感じたようだ。愛猫のことを「俺たちの宝物」と言うだけある。私が短気なのか、気にしすぎなのかと思ったが、怒って当然とわかって少し安心した。
「あのBBA、前々から空気読めないところがあってあんまり好きじゃないんだよ。今度また言ってきたらキレてやろうかな」
「いや、それはやめなよ。そんな人にキレるのはもったいない。キレたほうが損するじゃん。そもそも、うちの子はブサイクじゃないし。ぶさかわって不適切。不適切にもほどがある。でもさ、そういう相手のことを考えない人が不適切なことを言うんだよな。しれっと問題発言して辞職する政治家と同じタイプだよ」
確かに。とても納得した。
モラハラ・セクハラを平気でする政治家は悪気なく言っているだろうが、そもそも相手に対する配慮や気遣いがないのだろう。このBBAも周りに対する気配りが欠けていて、自分の主張やこれと決めたことは周りへの影響を考えずに押し通すし、発言する。
彼は私を納得させるのが上手い。怒ったり悩んだりしている私にいつも優しく、時にはふざけてなだめてくれる。周りからは落ち込まなさそうと言われる私だが、実は些細なことで凹んで傷つき、その悲しさから怒りに変わることは多々ある。そんな私の性質を彼はいつも理解したうえで、抜群のコミュ力で対応してくれる。この人はいつだって私のことを見て接してくれるんだなぁ。
それにしても、本当に無礼なBBAだ。私たちにとって愛猫は子ども同然。どれだけかわいがっているのか知らなかったとしても、人を不快にさせる言葉を平気で言うなんて。人付き合いのマナーを持ちあわせていないのか。あ、持ってないから問題発言するのか。
平気で誰にでも気持ちを削ぐような言葉を放つ限り、このBBAから人は離れていくだろう。そういえば、友人と会うとかほとんど聞いたことがない。あまり人付き合いが得意じゃないみたいなこと、言ってたな。やっぱり人望はなさそうだ。
「そういう人にはさ、キレずになんて言えばいいかわかる?」
あれやこれや考えていると、シャワー上がりの彼がニヤつきながら私に言ってきた。
「え、なんて言えばいいの?」
「その人の孫や子どもの写真を見せられたら『あはは、ぶさかわですね』って言ってやったらいいんだよ。そうしたらきっと怒るから、『同じこと私も言われたんですよ』って言えば少しはわかるでしょ。こっちから怒るのは損だよ」
なるほど。相手にも同じ言葉で同じ嫌な思いをさせればいいのか。こちらから怒らなくても、確実に一発かませる。自分が愛するものを見下されることがどれだけ腹立たしいのか思い知ればいいんだ。
しかし、いざ写真を見せられるシーンがあっても私は言わないだろう。BBAと同じレベルになるのは嫌だからだ。
でも、私の怒りを汲み取り、無駄なエネルギーを使わないようにやり返す方法を教えてくれた彼には感謝感謝だ。
誰にでも大切なものはある。はたから見たら大したことないと思っても、その人にとっては必要不可欠で最大の愛情を注いでいるかもしれない。どれだけ大切にしているのかわからないとしても、軽口を叩いて相手を不快にさせるのは無礼。うん、やっぱりこのBBA嫌い。
改めてBBAへの嫌悪感を感じる私の側で、あっという間にスーツに着替えた彼。彼はどんな時でも動きが早い。この人、できる人なんだなぁとしみじみ思った。
それと同時に、彼の優しさをひたすらに感じた。朝からこんな愚痴を聞きたくないだろうにちゃんと聞いて、私の怒りを収めてくれた。今日だけじゃない。どんなに長くてもうんうんと聞いて、私が欲しい答えをさらりとくれる。
それに対して私は、彼に優しさが足りないと痛感した。彼が愚痴る時は話が長いから、適当に相槌を打っていた。もう少しちゃんと聞いて、励ましや労いの言葉をかけないとと思った。
BBAには心底ムカついているし、今回の件で一層嫌いになった。もう飲み会は避ける方向で、極力接したくない。
だけど、感謝できることもある。まずは、こういう無礼な人間にはならんぞと心に強く誓えたこと。そしてもうひとつは、彼の優しさを再び実感するきっかけをくれたこと。BBAのおかげで彼に対する愛情も改めて感じられた。
「朝から愚痴ってごめんね。ありがとう」
「おう!」
「いってらっしゃい! 頑張ってね!」
「はーい!」
颯爽と家を出る彼を誇らしく感じた。
この人は、私にとって欠かせない存在だ。
いつもいつも、本当にありがとう。
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