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第9回ちば映画祭

第8回ちば映画祭に参加したとき、映画祭スタッフの鶴岡明史さんが千葉大学教育学部の神野真吾先生とのトークを企画してくれて、会場になる千葉市生涯学習センターのロビーで30分ほどお話した。神野先生は、事前に私の作品を過去作も含めて見て、このnoteに書いた文章も読んでくれてた。一般の人たちとの関わりから映画活動をつづけてきた部分に、とくに興味を持ってくれたみたいだった。教育現場を中心に映画ワークショップは15年以上つづけてる。そこで身についてきた言葉がきっとあって、それをこんなに汲みとってくれる人がいるのだと、うれしかった。鶴岡さんは、ふたりはぜったいに合う気がしたんですと、その後もよく伝えてくる。

映画祭が終わってまもないころに神野先生から連絡があり、千葉大学と千葉市美術館が共同でつづけてきた千葉アートネットワーク・プロジェクト(WiCAN)の、2016年度のゲストとして呼んでくれた。手はじめに、大学の授業にお邪魔してiPhoneを使ったワークショップを何度か行った。学生のみなさんだけでなく、神野先生、縣拓充先生、千葉市美術館の山根佳奈さん、畑井恵さんも積極的に参加してくれた。18時すぎのスタートで、夜までつづく授業なのに出席率も高かった。これなら宿題のようなものを出しても、たのしんでやってくれるかもしれないと思い、提案した。千葉のなかの好きな場所をピンポイントで選び、ぜんぶで7日間、iPhoneでそこの動画を撮ってくるというものだった。住んでるアパートのベランダに面した公園を撮る人、自転車でよく通る坂道を撮る人、千葉駅から発車する電車の窓から見える景色を撮りつづける人、毎回同じベンチから道行く人を撮る人。雑草が伸びっぱなしだった公園は、ある日すっかり刈られてた。

その流れのまま、各自が千葉の好きな場所を選び、そこにいる人を撮りつづけるという活動に発展していった。対象が人になると、交渉や関係づくりが必要になってくるし、許可が出たあとも、さらにその人にレンズを向けるむずかしさが生じる。責任も出てくる。たいへんそうだった。他の授業もあるし、テストやレポートもあるし、アルバイトもある。そんななか、気持ちにかなり負担のある課題を出してしまった。でも進めてくれた。近所にある夫婦経営の中華料理店に通う人、路上ミュージシャンに会いにいく人、子どものころに通ってたバレエ教室の先生や生徒たちを撮る人、一人暮らしの同級生の部屋で寝泊まりする人、さまざま。全員分の撮りっぱなしの映像を見るのは時間がかかったけれど、たのしかった。その場所や人以上に、撮影してる人自身が写ってた。写ってないけど、写ってる。

それをつないだものが、『映像で問う“日常の感度”』として、あさって18日土曜日に、第9回ちば映画祭の前夜祭で上映される。1年を経て、もう一度神野先生とトークする。

19日日曜日に上映される1本、沖川泰平さんの短歌を原作にした映画『100円の傘を通してこの街の看板すべてぼんやり光る』は、ぜんぶ千葉で撮影した。第8回のときに上映した短歌映画シリーズをちば映画祭が気に入ってくれて、同じシリーズの新作を、第9回でも上映する可能性について話してくれた。予定してた2本のうちの1本を撮り終え、2本目も動き出さないとというころには、WiCANの活動でたびたび千葉に通うようになってた。学生のみなさんが撮影することになった場所を可能な限り回ると決めた日、ひとりの学生が案内してくれるはずだった中華料理店のシャッターは閉まってて、本日休みの紙が貼られてた。その店でみんなで昼ごはんを食べることにもなってたから、残念そうにしてる。ちょっと待っててと伝えて、こっちにいくとよさそうと感じた角を曲がったら、表に洗濯物がきれいに干してある定食屋を見つけた。その並びには古本屋。そこが『100円の傘〜』のメインのロケ場所。たかふじさんとMoonlight Bookstoreさん。

その前に撮影した、宇津つよしさんの短歌を原作にした『自販機の光にふらふら歩み寄り ごめんなさいってつぶやいていた』はガソリンスタンドがメインのロケ場所だった。脚本を書こうと決めた日、車でファミリーレストランに向かう前に近所のガソリンスタンドに寄った。その数日前に、二代目の店長からもうすぐ店を閉じると知らされてて、そこはまだ店長が初代だったころ、父が買ってくれたオロナミンCを待合所で飲むという、子どものころの最初の記憶が残る場所で、思いきって撮影の相談をしてみるつもりだった。急すぎてびっくりしたと思うけれど、それもいい記念になるかもしれませんと店長は快諾してくれて、どさくさで出演もお願いすると、困惑しながらも引き受けてくれた。その日のうちに脚本を書いた。柚木石油さん。いまは給油機も屋根もなくなって、待合所だけが残ってる。

呼ばれた街で映画を作った。呼んでくれたのはちば映画祭。育った街でも映画を作った。ふたつの街で作った3本の作品。これを書いてるうちに、あさってがあしたになった。


第9回ちば映画祭用の短歌映画新作予告編

第9回ちば映画祭公式サイト

千葉アートネットワーク・プロジェクト(WiCAN)公式サイト

第9回ちば映画祭会場への道案内ビデオ

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