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”血塗られたドールハウス”を作成し「科学捜査の母」とよばれたアメリカのおばあちゃん

The Nutshell Studies of Unexplained Death
「未解決の死の、ひとめでわかる研究」
by Corinne May Botz
September 2004 (Monacelli Press)

ミニチュアが好きだ。

たぶん前から好きだったのだが、はっきり自覚したのは、ミニチュア作家の田中達也さんの作品を見てからだ。

2017年NHK朝の連ドラ『ひよっこ』オープニングのタイトルバック。畳のへりが道路で、畳がたんぼだったり、コッペパンを新幹線に見立てたり。何回見ても飽きなかった。

高島屋でやっていた「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」にも行った。

個人的には、チャーハンをあおっているフライパンでサーフィンしてる「チャーフィン」が好き。

2000年代初頭に、江崎グリコがグリコのお菓子のおまけとして「タイムスリップグリコ」というミニチュアシリーズをつけたことがあった。

「なつかし20世紀フィギュアコレクション」と名づけられたシリーズは、鉄人28号やボンネットバスなどの昭和の乗り物、白黒テレビなど家電や日用品という、昭和の懐かしいものをミニチュアで再現した全15種のおまけで、どちらかというと子供よりも大人が食いついた。

私は鉄人28号や乗り物には興味がなかったが、昭和のくらしシリーズには心が動いた。

とくに第2弾の「ちゃぶ台と朝ごはん」とか「学校給食」は、ホントに小さくてかわいくて、「ほしい~」となってしまった。

しかし、グリコのおまけは買って開けてみないと中身がわからない。いくらくらしシリーズがほしくても、いざ買って開けてみると鉄人28号ということはよくある。

マニアならとりあえず大人買いして集めるんだろうけど、そこまで熱心でもなかったので、たまに買ってみて、当たったらラッキーぐらいな感じでぽつぽつ買ってみた。

というわけで、「ちゃぶ台と朝ごはん」だけはなんとか手に入れた。お醤油さしや皿にのったメザシまで精巧に作られている。製作は、フィギュアと言えば定評のある海洋堂である。仕事がていねいでこまかい。さすが海洋堂。

第何弾まであったのか知らないが、シークレットという、ノーマルとはちょっと違うバージョンもあったらしく、これはかなりマニア泣かせな品揃えだったのではないか。

さて、今回紹介する本は、ミニチュア好きやドールハウス好きのための趣味の本ではない。純然たる仕事のため、それも犯罪捜査の訓練のために作られたものだ。

作り手は、フランシス・グレスナー・リー。1878年生まれのアメリカの女性法科学者。1878年は日本だと明治11年。与謝野晶子と同い年だ。

裕福な家に生まれ育ったフランシスは、男兄弟の友人の影響で、法医学に興味を持つ。ハーバード大学法医学部の設立や、ハーバード警察科学協会の設立に寄付し、プロの検視官の育成に力を入れた。

検視官育成のための学校で、フランシスは、他殺事件捜査にかんするセミナーをおこなうことになり、実際の殺人現場を再現した精巧なジオラマを作成した。生徒たちはそのジオラマに残された手がかりから、死因や容疑者を推理する。(ところで「ジオラマ」って英語でdioramaって書いて、「ダイオラマ」って発音なんだねー。知らなかった。)

このジオラマは非常に精巧にできており、なんと今でも捜査官の訓練用に使用されているらしい。と同時に、芸術的価値も認められ、2017年には、スミソニアン・アメリカ美術館のレンウィック・ギャラリーで展覧会が催された。

この展覧会を紹介している上記のサイトの動画を見てほしい。フランシスの作ったジオラマ=”血塗られたドールハウス”を見ることができる。とにかくすごいのだ。皿やカップの模様、瓶のラベルといったこまかいところまで、病的といっていいぐらい精巧に再現されている。うわーすげー。すげーよ、フランシスおばあちゃん。もう口あんぐり。

それに、死体さえなかったら、すごくカワイイ。ミニチュアのドールハウスとして家に飾りたいぐらい。この、かわいらしさと凄惨な「犯罪現場」というミスマッチ。なんだろうなー、このおばあちゃん。どうしてそういう方向にいったのかなぁ。

フランシス・グレスナー・リーに興味がわいたところで、本書の紹介に戻るが、もちろんこのジオラマがカラー写真でたっぷり紹介されているのだが、そのほかに、フランシスの家族や警察の同僚から聞いた話も載っているらしい。フランシスおばあちゃんの人となりが、少しでもわかればおもしろいな。


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