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100年前、戦争で破壊された図書館再建のために心温まる国際支援があった

Japan's Book Donation to the University of Louvain:
Japanese Cultural Identity and Modernity in the 1920s

「ルーヴァン大学へ寄贈された1920年代の日本の書物」

Edited by Jan Schmidt, Willy Vande Walle, and Eline Mennens
October 2022 (Leuven University Press)

本を扱う仕事をしているので、図書館を見学できる機会があれば行くことにしている。

国立国会図書館では、地下8階の書庫まで降りた。地下8階って、たぶん人生ではじめてだな。書庫を地下にした利点は、地震のとき揺れの影響が大きくないこと、それから外気の影響を受けないので、温度湿度などの空調管理に適していること、などがあるらしい。

書棚が壮観だったのが、東洋文庫。

「東洋文庫は、広くアジア全域の歴史と文化に関する東洋学の専門図書館ならびに研究所です。
約90年に及ぶ歴史を有するアジア最大の東洋学センターであり、国際的にも世界5指の1つに数えられています。」(東洋文庫ホームページより)

ミュージアムに展示されている「モリソン文庫」。オーストラリア人G. E. モリソン博士が、東アジアに関する欧文の書籍・絵画・冊子等約2万4千点を収集し、それを東洋文庫の創設者、岩崎久彌が購入したものだそうだ。

ミュージアムのホームページに画像がのっているが、ナマでみると「壮観」としかいいようがない。

東京大学附属図書館のなかの、本郷の総合図書館に行ったのは、今から8年ほど前。別館を建設中で、正面玄関ではなく、わきのほうから入った記憶がある。

図書館ができたのは1877年の東大の開学と同時だが、関東大震災で焼失してしまう。しかし、アメリカのロックフェラー財団からの多額の寄付で1928年に再建。そのほか世界25か国からもさまざまな形で支援を受けたらしい。図書の寄贈もあり、森鴎外の遺族が、鴎外の収蔵していた書籍を寄付し、今では「鴎外文庫」と名づけられている。

鴎外は、ドイツ留学中に膨大な量の洋書を収集している。多くはドイツ語の本だろうが、英語の本もきっとあっただろう。でも見学したときは、何点かを司書の方があらかじめ持ってきてくださっていて、見学者は手を触れずに見るだけだった。持ってきてくださっていたのが、ドイツ語の本だったので、まったくわからず、そのとなりにあったカラフルな和書の写本しか記憶に残っていない。

そのカラフルな和書は『膳部乃事』(ゼンブノコト)という本で、鴎外の自筆写本。料理の配置や献立、食器類の説明などがイラスト付きで書かれている。ちょっと鴎外らしくない、かわいらしい本である。あのひげ面のしかつめらしい顔で、鯛の尾頭付きに色をつけている鴎外を想像するとおかしくなってしまう。

それはともかく、今回紹介する本である。

ベルギーのルーヴァン・カトリック大学は、第一次世界大戦の空襲により図書館を破壊されてしまう。図書館再建のため国際的な支援の声が上がり、その一環として日本政府が大量の図書を寄贈したのだそうだ。

関東大震災により焼失した東大図書館の再建のために国際的な支援があったことに驚いていたが、同じころに日本政府がベルギーに図書の寄贈をしていたとは。このころはそういう支援が世界中でさかんにおこなわれていたのだろうか。だとすると、知的財産を共有・保護していこうという、とても美しい図書館の共存のしかただと思う。

ルーヴァン大学に送られた日本の書物は、じつに3,000タイトル以上、計14,000冊ちかくにのぼるという。本書は、どのような本が寄贈されたのかを豊富な図版とともに紹介している。

出版社のホームページからサンプルページが見られた。中を見てみると、ちょうど表紙の絵がでてきた。これは、山東京伝の『骨董集』の挿絵らしい。紅絵という吉原の美人姿絵を売って歩く行商人の図。気になるのは、山東京伝の名前がローマ字表記のあとに漢字でも書かれているのだが、「三東京伝」となっていることだ。日本文学にはくわしくないが、山東って三東とも書くの??それとも誤字??

この本には、英語のあい間にひんぱんに日本語が出てくるけど、ちゃんと日本語ネイティブが校正してるんでしょうね?

日本関係のことが書いてある洋書でよくあるんだよね、日本語のまちがい。

まあ、日本でも街中でおかしな英語がたくさん使われてるからね。。。お互い様というかなんというか(苦笑)

そしてこの本は、寄贈100周年の記念特別展にあわせて刊行されたものなのだ。特別展は、2022年10月28日から2023年1月15日までルーヴェン・カトリック大学(KUL)図書館にて開催中である。

この本について調べていて、KU LeuvenとUCLouvainというのがあるのに気づいた。さいしょは同じ大学の英語表記とフランス語表記かと思っていた(ベルギーってフランス語だよね?)。
でもよく調べたらちがった。KU Leuvenはオランダ語圏の、UCLouvainはフランス語圏の、別々の大学。もとは同じだったのが、1968年に分離したそうだ。ちなみにKU Leuvenは日本語表記はルーヴェン・カトリック大学、UCLouvainはルーヴァン・カトリック大学、だそうだ。まぎらわしい。。。

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