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ディスクレビューの公募によせて - アンテナライターはどんなレビュー書いてる? -

レビューってどんな風に書くの?

どうもこんにちは。アンテナライターのあべです。私たちアンテナでは、先日からディスクレビューの公募を行なっています。この公募企画、応募大殺到で困っちゃう!とはいきませんが、ありがたいことに熱意溢れるディスクレビューが何件か届いており、編集部内でも「おお!」「すごい!」「おもしろいな!」「やるう!」となっております。ありがたや。

募集要項となんでそんなことしてるん?っていう文章を載せているので、詳しくはこちらをご覧ください。

さて、この公募企画は9月の末まで受け付けているのですが、「こんなんいきなり言われてもどう書けばいいのか…」なんて思う人もいるんじゃないかと思いまして。

そこで、今回はアンテナライター3人が昨年夏の『音楽ライター講座 in 京都』で書いた原稿を一例として紹介したいと思います。これは2018年夏前後にリリースされたの楽曲を対象としたレビューですが、アルバムのレビューも本質的には同じことだと思うので、手前味噌ながら参考にしてもらえる部分もあるんじゃないかと思っています。それぞれのレビューがどういう視点で書かれているかに注目してみていきましょう。

では、まず僕、阿部の原稿から。自分のものを紹介するのはなんだかこそばゆいですね。

レビュー①:社会的な視点からサウンドへ

アーティスト:Moses Sumney
楽曲:Rank & File

これは呪詛か、或いは解放への祈りか

2014年に黒人青年を射殺した白人警官が不起訴となったマイケルブラウン事件からインスパイアされたというこの曲。不穏で重厚なコーラスは抑圧された叫びを思わせ、言い回しを変えながら執拗に繰り返される「Rank & File(兵隊)に堕ちる」はまるで呪詛のように響く。ガーナにルーツを持ちながらLAで活動を続ける黒人シンガーの歌声は、モダンR&Bのスタイリッシュなフィーリングを纏いながらもひたすらに妖艶で生々しい。

そして無機質にループするフィンガースナップが絡み合い事態は複雑化していく。リズムは拠り所を失って右往左往し、プロテストのように響いていた鋭利な言葉は不意に僕らの方を向く。これは遠くの国の他人事ではない。混迷を極めるこの時代に無自覚に流されていたら、かの警官のように、或いはそれを不起訴としてなんとなく流してしまった社会のように、僕らは簡単にRank & File(無力な大衆)へと堕ちていく。幾重にも折り重なるリズムに彩られ生々しさを増した歌声はそんな警鐘のようにも聞こえ、僕らは当惑してしまう。

だが何も怖れることはない。この当惑に身を委ねていると徐々に新たなグルーヴが浮かび上がってくる。それは不確かでおぼろげなものかもしれないが、他ならぬ自分自身の身体の鼓動でありこれこそがスタートラインだ。不揃いでもいい。見せかけの正しさが横行する昨今だが、どうか惑わされず各々のリズムで踊ってほしい。フィジカル全開に奏でる彼の音楽はそんな解放への祈りなのだ。(阿部 仁知)

ちょっとイキってますよね(笑)。でもそういうのってきっと大切。

Radioheadが大好きな僕としてはやはり社会性や思想性がベースになるのですが、そのことがどうサウンドや歌詞にあらわれているか。講師の岡村詩野さんや他の参加者の方々と一緒に検討したことを覚えています。

続いて、家ガールこと小倉さんの原稿です。

レビュー②:楽曲のエッセンスから全体のコンセプトへ

アーティスト:スーパーノア
楽曲:なつかしい気持ち

眩い始まりの歌

人は彼らのことを「京都の至宝」と呼ぶ。2004年に結成されたスーパーノアは、ゆっくりながらも着実に音楽活動を続けてきた。そんなスーパーノアが2017年のフルアルバムに続き、7月に6曲入りミニ・アルバム『素晴らしい時間』を発表。“なつかしい気持ち”はそのラストに収録されている。

夏を思わせるようなギターサウンドに音の粒がキラキラ弾ける演奏。そして井戸健人(Vo. / Gt.)の、風のようにやさしく耳解けの良い歌声が美しいメロディを連れてくる。こんなにも透明感のある音に<苦しい><通り魔><殺しにくる><残酷>といった毒々しい単語が整然とした佇まいで並ぶ。光の眩さをしっかりと陰で表現するスーパーノアの楽曲は、無形の音楽を無形の情景に映し、私たちの感覚の中にカタチを残す。

しかしこの『素晴らしい時間』に収録されている楽曲は、全てが別れや離れゆくものをテーマにしていて、全体に「バイバイ」という単語が非常に多く登場する。こんなにも色んな人や色んなものとバイバイして、まさかスーパーノアと私たちがバイバイ、なんてことはないだろうかと一瞬不安になった。しかし、6曲通してまだまだ丁寧に音を磨き新たなアプローチと出会いたいという未来を感じられた。

“なつかしい気持ち”の中の<あきらめてないことがあるなら それはきっと大切なことだよ>というフレーズに、スーパーノアにもまだあきらめていない大切なことがあるのだと信じることにする。前に進もうとする人々にとって普遍的で宝物のような一曲であると同時に、この次のスーパーノアの一手に期待する、そんな大切な楽曲だ。(小倉 陽子)

これは楽曲からスタートしてアルバム全体へとも話が及んでますね。ここでは楽曲に帰っていきますが、このアプローチをもっと拡大すれば、一曲を軸にアルバムを語るなんてこともできるかと思います。歌詞と音楽性のギャップ、そしてそれがなにを表現しているかということがやはり肝要なのだと思います。

さて最後に、吉田さんの原稿をみてみましょう。

レビュー③:ルーツやシーン、外側から見えてくる作品性

アーティスト:ザ・なつやすみバンド
楽曲:蜃気楼

ポスト“東京インディー”をとらえる投げ縄のような1曲

中川理沙 (Vo. / Piano)とMC.sirafu (Steelpan / Trumpet)、個性ある2人のソングライターによる瑞々しい楽曲が魅力の4人組、ザ・なつやすみバンド。この曲は9月5日にリリースされた4thアルバム『映像』の先行7インチ・シングルで、ミツメとのコラボレーション・ナンバーだ。両バンドのメンバー全員によるツインドラム&ツインベースの8人編成、ドラム同士の立体的なフレーズの絡み合いやローファイなミュート・トランペットのソロからは、野性味と構築美をあわせ持つブラジル・ミナス音楽の要素が濃く感じられる。何よりマイナーキーでたゆたう起伏の少ないメロディ、朴訥とした散文詩からなる歌詞は、これまでスピッツや空気公団の影響下でエバーグリーンな音楽性を貫いてきた彼らからすれば異質なものだ。それらはミツメのフロントマン・川辺素(Gt. / Vo.)の作風に通じているものの、本曲のクレジットは詞・曲ともに共作ではなく中川となっている。曲がミツメを呼び寄せたのか、それともミツメの存在が曲を導き出したのか。筆者は前者ではないかと思っている。

これまで彼らの曲たちは、NHK番組への提供曲など朗らかで清涼感あふれるものを中川が、それよりややひねくれていたりルーツ色の強かったりするものをMC.sirafuが手がける傾向にあった。人気の発端となった1stアルバム『TNB!』(2012年)から6年も続いてきたそれがここで破られたのは、本曲が2年ほど籍を置いたメジャーレーベルから離れて最初の音源であることと無関係ではないだろう。

そもそも『TNB!』のころ、彼らは当時のceroを中心とした東京インディーポップ・ブームの潮流の中でブレイクを果たしていた。しかし特に昨年以降、当のMC.sirafuがサポートから外れたceroや『Popcorn Ballads』を出したサニーデイ・サービスがそのフォーマットから距離を置きはじめたこともあって、DIYで活動を続けているアーティスト達は再び過渡期に直面しつつある。当時のインディーシーンでラジカルに鳴らせたポップと今のそれはもはや同じではないのだ。とすればこの“蜃気楼”で彼らがみせた取り組みは、古巣へ戻ることへの意気込みや開放感というものでは全くないはず。今の東京のインディー・シーンが彼らの知るどこでもない新天地であるとして、そこで鳴らして最もシビレる音楽はなにか。この曲はきっと、第一線で活躍する盟友の手を借りてそれを追求した結果なのだ。(吉田 紗柚季)

インフォメーション的な記述の中にうまく音楽性やルーツを組み込んでいて、流れがスムーズです。そしてシーンの中でどういった立ち位置にいるか、シーンがどう移り変わってきたのかということに話が及んでいます。いいですね(誰目線)。

このように、三者三様の原稿となりました。やっぱり人の数だけ感じ方や解釈があって、そこに正解はない、だからおもしろいのだと思います。ちなみにアンテナではアルバムのレビューをアーカイブしています。今後さらに拡充したいと思っていますが、今も見直すと結構いろいろ載っていますね。

こういう風にバラバラなものが並ぶことでそこに文脈ができる。あなたの想いが加わればそこにまた違うものが生まれてくる。素敵じゃないですか?

今だからこそ作品と向き合う

聴くにせよ観るにせよ、読んだり書いたりするにせよ、すべてが圧倒的なスピードで流れていって付いていくのがやっと、そんな現代の情報社会です。だからこそ、一度立ち止まって作品と向き合いじっくり咀嚼する、そしてそれを後から振り返れるようにアーカイブしていくことは、とても貴重なことだと僕は思っています。

また、ブログ等で個人で書いている方々(尊敬すべきジーニアスが沢山います!)にとっても、普段とは少し違ったメディア感覚を持って書いてみることは、いい経験としてもらえるのではないかと考えています。ライター講座とまではいきませんが、アンテナは可能な限り編集者としてあなたの文章と向き合うつもりです。なので、第三者的な目線を交えて自分の文章を吟味したいという方も歓迎しています(結構楽しいんすよこれ)。

ではではこんなところで。皆さんの文章と出会えることを楽しみにしています!

ライター:あべ

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