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大阪都構想住民投票に見る世代間対立

大阪都構想の住民投票の結果を見ると、明らかに市内中心部の市民に賛成派が多く、郊外に反対派が多かったことが分かります。

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賛成派が多かった中心部の特徴

賛成派が多かった中心部には「梅田」「心斎橋」「なんば」といった市内屈指の繁華街が連なり、「新大阪」「京橋」「十三」「淡路」といった主要交通結節点もあります。「大阪城」「通天閣」というランドマークもあり、「鶴見緑地」はファミリー層に人気の住宅街です。

反対派が多かった郊外の特徴

一方、反対はが多かった郊外には巨大ターミナル駅「天王寺」があり、「ユニバーサルスタジオジャパン」「海遊館」「天王寺動物園」「京セラドーム大阪」といったレジャー施設が有名です。日本一高いビル「あべのハルカス」があるのも、いわゆるドヤ街である「あいりん地区」があるのもこちら側です。

世代間での意見の違い

みなさんもお気づきかと思いますが、投票後の様々な寸評を見ても、比較的都会で若者が多い中心部において賛成が多く、高齢者が多い郊外で反対が多かったという考察が多いようです。NHKの出口調査によると、たしかに30~代を中心に若年層において賛成派が多く、高齢になるほど反対派が多くなっていることが分かります。

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ただ実際に、中心部に若年層が多く、郊外に高齢者が多いのかどうかまでは、出口調査からは把握できないので、大阪市の統計を確認してみました。するとやはり、賛成区(中心部)のほうが若年層が多くなっていました

大阪年代分布

さらに、各区の平均年齢と投票結果の関係を見てみましょう。平均年齢算出の対象は、集計に利用した統計が5歳ごとの区分でしか集計されていないため、20歳以上を対象としました(18-19歳の方、申し訳ありません)。20-24歳階級の人口の年齢は22歳、25-29歳階級の人口の年齢は27歳、といった要領で仮定し、各年齢階級の人口で加重平均を行った結果を、有権者の推定平均年齢としました。

縦軸を平均年齢、横軸を賛否がリードした程度(左側が賛成、右側が反対)とし、統合された後の特別区ごとに色分けを行ってプロットした結果は、以下のとおりです。

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こうして見ても、綺麗に右肩上がりの関係になっており、若年層が多い区ほど賛成が多く、高齢者が多いほど反対が多いことが分かります。若年層は、都構想に対して変革を期待する一方で、高齢者は住民サービスの低下等に対する懸念から変革を拒んだ、という一般的なイデオロギー構造が透けて見えます。

両極端な"中央区"

とくに、都構想下における"中央区"は二極化が著しいです。"中央区"は、大阪市内でも平均年齢が低い中央区、西区、浪速区と、逆に市内でも平均年齢が高い西成区、住之江区、大正区、住吉区が合流することになるので、仮に都構想が実現していたとしても、禍根を残すことになっていたんじゃないかと思います。

世代バランスがよい”淀川区”

一方で、"淀川区"は、対象となる5つ区のあいだの年齢格差が、4つの特別区のなかで最も小さくなっています。統合後もそのまま名称を受け継ぐ淀川区は、市内24区で2番目に賛成が多かったこととは裏腹に、港区は24区で最も反対が多い地域となりました。世代間ギャップが最も小さいエリアであるにも関わらず、なぜここまで大きな差が生まれたのでしょうか?

この要因は、大阪の地理に詳しい方ならなんとなく察しがつくのではないかと思います。わからない方は、以下の図を御覧ください。

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過去の記事なので、名称が"東西区"となってますが、これが"淀川区"ですね。この"淀川区"という名称、西淀川区、淀川区、東淀川区と、淀川という字でゲシュタルト崩壊させんがばかりに淀川が並んでおり、区を貫くように淀川が流れていることからも、素直なネーミングだとは思います。

淀川に面していない港区

ただここで、港区の位置をよく見てみましょう。実は、港区は淀川には面してないんですよね。交通も、どちらかというと西区や大正区との便がよく、"淀川区"に編入されることの違和感は否めませんよね。港区民が市内で最も反対が多かった理由は、既得権益だとか行政サービスといった実利面の論点ではなく、そもそもこの名称の違和感だったんじゃないかと思います。上記の記事で紹介されている"東西区"という名称もイマイチですが、このとき"淀川区"という名称案になっていなかったのは、この違和感を避けるためだったんじゃないでしょうか。今にしてみると、維新の方々はもっと区の名称にこだわっておけば良かったと悔やまれているのかもしれません。

年収と投票結果の関係

参考までに、世帯年収との関係を確認した結果もご紹介しておきます。

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"北区"は、キレイな相関関係があることが分かります。収入が多いエリアほど、行政サービスに依存している人が少なく、都構想に対する不安よりも期待のほうが大きかったということでしょう。"中央区"も相関関係は弱めですが、概ね同様の構造になっていると考えられます。

"淀川区"は、年代分布と同様、年収も5つの区で差があまり無いにも関わらず賛否が分かれたということで、やはり「区の名称問題」は致命的であったのではないかと思われます。

"天王寺区"は、年収と賛否の相関関係は無く、高所得層も低所得層も総じて反対にまわったと言えます。要因としては、阿倍野区、生野区、東住吉区、平野区の4区によって構成される衆院大阪府第2区が、維新王国といわれる大阪のなかで未だに自民党が議席を守ってきている土地柄ということが挙げられるんじゃないかと思います。

住民投票の限界

今回の住民投票、様々な情報が飛び交うなかで、投票に悩まれた方は多かったかと思います。しかしながら、世代や所得という投票行動に影響を与えるであろう属性とは無関係に、行政区の境界や名称が結果を左右してしまった部分は、多少なりともあるんじゃないかと思います。

統治機構の改革という高度な判断は、本来は議員や専門家によって十分な議論を行い、論点を明確にしながら解決していくべきものであり、すべての住民に単純な賛否を問うというアプローチには、さすがに無理があったんじゃないでしょうか。

今晩の米国大統領選挙にも似たようなものですが、こちらは州ごとに勝者総取り方式以外の投票も可能ということになっています。すべての人間が難しい問題に対して正確な判断を下すことは難しいものですが、身近な人間を信用できるかどうかという判断は、誰しもが自分なりの価値観に基づいてある程度の精度で行うことができるはずです。今回の反省を活かして、日本の選挙制度や議会制度が成熟に向かって欲しいものです。

僕は大阪市民でも府民でもないので、都構想に対してはニュートラルな立場ですが、二重行政や既得権益の解消は地方自治における重要な課題だと思います。こうした議論の先駆けを大阪が担ってくれることに期待したいと思います。

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