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京都大学学術出版会 月間ニュース No.4 (2024年1月)

いつもご愛読ありがとうございます。
2023年12月〜2024年1月の新刊、イベント情報をまとめてお届けします。どうぞよろしくお願いいたします。


・概要


新刊4冊、近刊8冊、受賞作1冊をご案内いたします。動画は3本更新しました。

・新刊案内


『中国前近代の貨幣と財政』

中国歴代王朝は試行錯誤を繰り返し、貨幣を厳格に確定させようとした。銅銭と布帛(実物貨幣)が用いられた春秋戦国から唐末五代、銭・幣が用いられた宋代から明初まで、実物貨幣と財政貨幣の変遷を通史的に描く。

『ドイツ国民への講話』

フランス軍占領下で哲学者は何を国民に訴えたのか.本書は本体,偏狭なナショナリズムを煽るものではなかった.ナポレオンによる祖国の占領という政治的現実の中で,フィヒテはいかなる秩序の構築を目指したのだろうか.

『南方熊楠と猫とイスラーム』

南方熊楠(1867-1941)は、天才的な資質をもった博物学者、民俗学者であった。そのために、尊敬のまなざしから書かれた「熊楠本」は数多い。若い頃に、大英博物館で膨大な資料群に対峙した熊楠の奮闘ぶりには感銘を受けるが、一方で熊楠が用いた情報は、資料考証が十分でないところもあり、その取扱いにおいて杜撰と思えるところもみられる。本書は、ロンドン滞在期間の研究活動に焦点を当て、同時代の資料をもとに検証することによって、等身大の熊楠像を提示する。

『東アジア都城と宗教空間』

儒教による正統性の誇示と、仏教による安寧の保証。王権の支配には、常に「信仰」が伴う。儒教的空間を作り出す古代都城に、仏教が寺院を構える多様な宗教空間という東アジア共通の都の在り方に、各国独自の祭祀形態が生み出されていく。権力装置との影響関係、祈りの場としての重層的構造。宗教空間に焦点をあてる画期的な古代都城史。

・近刊予告


『「大学の森」が見た森と里の再生学』

100年続く大学の森である芦生研究林が、地元美山町の住民と、森と里の共再生を目指し本気の超学際研究に取り組んだ。多様な価値観と立場が交錯する中での協働のコツや苦労、研究者の変化、継続のヒントまで。

(1月20日発売予定)

森の来歴 二次林と原生林が織りなす激動の物語

小見山 章・加藤 正吾 著 (2月上旬発売予定)

基層政権 中国農村制度の諸問題

張 静/金 山・韓艶麗・王艶珍 訳 (2月10日頃発売予定)

戦場に忘れられた人々 人種とジェンダーの大戦史

松本 悠子 (2月中旬発売予定)

アエタ 灰の中の未来 大噴火と創造的復興の写真民族誌

清水 展 (2月中旬発売予定)

アンチ・ドムス 熱帯雨林のマルチスピーシーズ歴史生態学

安岡 宏和 (2月下旬発売予定)

変動帯の文化地質学

鈴木 寿志 (2月末〜3月初旬発売予定)

自己否定する主体 一九三〇年代「日本」と「朝鮮」の思想的媒介

郭 旻錫 (2月末〜3月初旬発売予定)

・受賞速報


◉ 2023年国際開発学会奨励賞
  池田真也著『商人が絆す市場――インドネシアの流通革命に交わる伝統的な農産物流通』(地域研究叢書)

・今月の一冊


『商人が絆す市場』

 人口2億7000万人、世界4位の人口を抱えるインドネシアはグローバリゼーションの影響を受け経済成長著しく、世界的にも注目されています。私も一度現地に赴いたことがありますが、ジャカルタは活気にあふれ、摩天楼の街並みは東京や上海などと遜色ありません。なぜか現地では外国人と写真を撮るのがブームなのか、ボロブドゥール遺跡では「Photo, please!」と言って追いかけてくる元気な子どもたちを掻きわけるのに必死だったのを思い出します。

 さて、その成長から想像するに、よほど近代化が進み先進国と同様に伝統的な生活様式が失われつつあるのではないか……と思われるのですが、あにはからんや、こと商業の面では伝統的流通を担う商人たちが、近代化をも飲み込むしたたかさを見せている、と本書はいうのです。どういうことでしょうか?

 ジャワ島の市場は現地語でパサールと呼ばれます。ペルシア語の「バザール」を語源とするイスラーム由来の伝統的な市場です。商人は農家と交渉して農作物を仕入れ、パサールで売り出します。価格は商人と買い手の交渉により決まり、公式なルールもない、慣習によって運営されていく市場です。商人たちは農家と市場をつなぐ(絆す)ものとして、農家と商人、買い手と商人の駆け引きが展開されます。

 ここに近代的な流通が入り込んできました。スーパーマーケット、コンビニが増え、流通システムにおいても消費者や産地の零細農家を囲い込もうとする熾烈な競争が繰り広げられるようになったのです。流通論の通説であれば、ここで零細な商人や市場は駆逐され、大型店舗が全国を破竹の勢いで席捲していく(日本のように)、という流れになるのですが、ジャワ島ではそうではありません。主役の座を、農家と商人の駆け引きによる伝統的流通が手離さないのだといいます。

 たとえば、スーパーなどが構築する近代流通の担い手そのものは伝統的商人であり、そこで得た果実から成長した農家が今度は農家謙商人となって伝統的流通へと帰っていく、という流れがあるといいます。近代流通との邂逅が、商人も農家も成長させ、逆に伝統的流通を活性化させるようです。このように、けして伝統的流通が主導権を渡さない裏側には、近代流通の歯車へと飲み込まれてしまわない、むしろ飲み込んでしまおうとする個人商人、企業的農家のしたたかさがあります。

 彼らは先進国が示してきた道行きとは全く違う経路を見せてくれます。個人的には、何度追い払っても「Photo, please!」といって私を追いかけてきた子どもたちのエネルギーと、エネルギッシュなパサール・商人の姿が重なりますが、このエネルギーが日本の現状からするとうらやましくもなります。通説にはまらないしたたかな商人たちを追った一書、ぜひご一読ください。

・SNS/イベント情報


◉YouTube動画更新
 下記、それぞれのリンクよりご視聴ください。
[地]第4回②『オデュッセイア』(おこしやす! 西洋古典叢書)
[地]第4回③『オデュッセイア』(おこしやす! 西洋古典叢書)
2023年の新刊を振り返る(おこしやす!西洋古典叢書)

◉書店フェア 開催中
『西洋古典名言名句集』刊行記念フェアを各地で開催中です。詳細な開催情報はこちら


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京都大学学術出版会 月間ニュース No.4
2024年1月17日 配信
(毎月 第3水曜日 配信予定)
発行:一般社団法人京都大学学術出版会
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