京都大学学術出版会

「学術書を小説のように読むことは可能でしょうか。」新人スタッフが自ら毎月小会の既刊書か…

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「学術書を小説のように読むことは可能でしょうか。」新人スタッフが自ら毎月小会の既刊書から一冊を選んで、20頁ずつ読みながら読書日記をお届けします。ぜひ読んでみてくださいね〜🐾😺

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  • 京都大学学術出版会 月間ニュースまとめ

    京都大学学術出版会の新刊近刊案内、イベント情報、動画配信お知らせ、色々まとめて発信中!

  • 『歌川広重の声を聴く』【新人読書日記/毎日20頁を】

    新人読書日記シリーズ、5冊目です。

  • 『中国ジェンダー史研究入門』【新人読書日記/毎日20頁を】

    新人読書日記シリーズ、4冊目。

  • 『人間性はどこから来たか』【新人読書日記/毎日20頁を】

    新人読書日記シリーズ、3冊目。

  • 『ブッシュマンの民話』【新人読書日記/毎日20頁を】

    新人読書日記シリーズ、2冊目です。

最近の記事

京都大学学術出版会 月間ニュース No.7 (2024年4月)

いつもご愛読ありがとうございます。 2024年3月〜4月の新刊、イベント情報をまとめてお届けします。どうぞよろしくお願いいたします。 ・概要新刊8冊、近刊4冊をご案内いたします。動画は2本更新しました。 ・新刊案内『春秋戦国時代の青銅器と鏡』 『海を越える水産知』 『語りの場からの学問創成』 『レジリエンスは動詞である』 『三蘇蜀学の研究』 『ローマ帝国を生きるギリシア都市』 『田辺 元』 『医師の「献身」』 ・近刊予告『民主政アテナイに殉ず』(学術選書)

    • 大学新入生のあなたへ

      この1ヶ月間、新入生は合格発表や入学式を経て、 4月8日から本格的に京都大学での学びがスタートしました。 これを機に京都大学学術出版会より、京大の6人の先生に、学部学生を対象に、学生時代に読んでおくべきと思う本、最近読んで(読み直して)学生にすすめたいと思った本などを教えていただきました。専門にこだわらず、新旧をとわず、広く「読書」という視点から、先生の推し本を紹介させていただきます。 ⚪︎推しメッセージ: 京都大学理学部の元教授であり、世界的に著名な研究者である著者が、

      • 京都大学学術出版会 月間ニュース No.6 (2024年3月)

        いつもご愛読ありがとうございます。 2024年2月〜3月の新刊、イベント情報をまとめてお届けします。どうぞよろしくお願いいたします。 ・概要新刊10冊、近刊8冊をご案内いたします。動画は2本更新しました。 ・新刊案内『アエタ 灰の中の未来:大噴火と創造的復興の写真民族誌』 『アンチ・ドムス:熱帯雨林のマルチスピーシーズ歴史生態学』 『INDIGENOUS PEOPLES AND FORESTS』 『哲學研究 第六百十一號』 『作田啓一 生成の社会学』 『変動帯の

        • 浮世絵VS.写真【新人読書日記/毎日20頁を】(80)

          『歌川広重の声を聴く』、読了です。 スマホのシャッターを押すだけで、誰でもいつでも好きな景色を保存することができる時代において、人々が風景に託した思いは、江戸時代とどんなふうに変わったのでしょう。名所を宣伝するための浮世絵には、そのものに取り上げた場所の風景に気づいてほしい情熱と、風景から独立した芸術の美が含まれているからこそ、鑑賞する趣があります。絵師の「目」と「技」を通じて風景の「美」を知るより、今の私たちは自分の「目」と「技」で「美」を発見し、データ化することが日常に

        京都大学学術出版会 月間ニュース No.7 (2024年4月)

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        • 京都大学学術出版会 月間ニュースまとめ
          9本
        • 『歌川広重の声を聴く』【新人読書日記/毎日20頁を】
          14本
        • 『中国ジェンダー史研究入門』【新人読書日記/毎日20頁を】
          23本
        • 『人間性はどこから来たか』【新人読書日記/毎日20頁を】
          15本
        • 『ブッシュマンの民話』【新人読書日記/毎日20頁を】
          14本
        • 『人生の意味の心理学』【新人読書日記/毎日20頁を】
          14本

        記事

          名所江戸百景【新人読書日記/毎日20頁を】(79)

          『歌川広重の声を聴く』、241〜260頁、読了です。 最終章で、著者は広重がほぼ同じ時期に描いたもう一冊の名所案内記、「名所江戸百景」を「絵本江戸土産」と対照しています。「百景」は鮮やかな錦絵なので、「土産」より摺り色にもっとこだわりがあるわけです。たくさんの挿絵を堪能することができて、見ていてとても楽しいです。「百景」では多用される近像型構図が目立ちます。馬の足からの構図などを見ると、写真家エリオット・アーウィットの撮った写真が思い浮かびます。もしかしたらアーウィットも広

          名所江戸百景【新人読書日記/毎日20頁を】(79)

          日常風景から美を見出す【新人読書日記/毎日20頁を】(78)

          『歌川広重の声を聴く』、221〜240頁、読了です。 著者にならって、「絵本江戸土産」に広重個人の風景観の「呟き」に耳を澄ましてみましょう。雪化粧をした「深川木場」、白と青のシンプルな色の配置で、身近な日常生活に潜んでいる美を描き出しています。「赤坂桐畑永田馬場山王社」に付けられた紹介文では、人々が見慣れた景色の美しさを称することがあまりないことに対して、広重は「遺憾」の意を表しています。 高校の頃、映画監督アッバス・キアロスタミの詩集を読んだことがあります。詩人としての

          日常風景から美を見出す【新人読書日記/毎日20頁を】(78)

          「賑わい」の風景【新人読書日記/毎日20頁を】(77)

          風邪で一週間ダウンしていました。季節の変わり目に皆さんもぜひお体に気をつけてお過ごしください。 『歌川広重の声を聴く』、201〜220頁、読了です。 四季それぞれの美を持つ江戸から望む山、川と森、そして、賑やかな江戸の街。広告看板が林立する商店街の絵から、当時の街の活気ある声が聞こえてくるような気がします。「王子料理屋河部の宴席」という絵の中に描かれている、料理屋で食事を楽しんでいる客と、川の流れに足を浸して遊んでいる人々を見ると、現在の鴨川沿いの料理屋さんが目に浮かびま

          「賑わい」の風景【新人読書日記/毎日20頁を】(77)

          200年咲き続ける花菖蒲【新人読書日記/毎日20頁を】(76)

          『歌川広重の声を聴く』、181〜200頁、読了です。 「遊観するに良い場所」の節で、今でもよく知られている名所の「堀切の花菖蒲」が取り上げられています。著者の解説によると、絵に添えられている言葉で、広重は次のように菖蒲園をアピールしているそうです。 この文を読んで、頭の中に艶やかな菖蒲園が浮かんできます。ところが、挿絵では、色の表現として、黒と白の菖蒲しか見えないのです。なるほど、つまり、絵で省略した部分を言葉で補完するという宣伝戦略ですね。

          200年咲き続ける花菖蒲【新人読書日記/毎日20頁を】(76)

          風景を見る癖【新人読書日記/毎日20頁を】(75)

          『歌川広重の声を聴く』、161〜180頁、読了です。 第8章では、僧侶であった十方庵敬順の眼で見た耕地・広野が、広重とどのように違うのか、議論されています。敬順の場合、農村の営みに対して「面白い」「珍しい」といった言葉の表現が多く使われているのに対し、広重の場合は、「風雅」といったコメントが多いそうです。僧侶と絵師、違う経歴で育った違う目で見る風景はそれぞれです。個人的には、遠くから山の頂上を眺めるとき、いつも、山の上にポツンとある木のシルエットを巨人のシーシュポスだと想像

          風景を見る癖【新人読書日記/毎日20頁を】(75)

          賑わいから逃げ出す【新人読書日記/毎日20頁を】(74)

          『歌川広重の声を聴く』、141〜160頁、読了です。 「絵本江戸土産」と「江戸名所図会」に描かれる同じ場所の浮世絵を対照すると、両者の景色の表現の差がとてもわかりやすくなります。例えば「湯島天満宮」の例では、一方は全体の俯瞰、一方は雪化粧をした天満宮の風雅な姿といったように、絵からもたらされる印象は大分違います。また、名所ではない耕地・広野などを多く取り上げる広重は、おそらく末期の大都市江戸の賑わいに疲れて郊外の景色にゆとりを求めていたのでしょう。

          賑わいから逃げ出す【新人読書日記/毎日20頁を】(74)

          京都大学学術出版会 月間ニュース No.5 (2024年2月)

          いつもご愛読ありがとうございます。 2024年1月〜2月の新刊、イベント情報をまとめてお届けします。どうぞよろしくお願いいたします。 ・概要新刊4冊、近刊9冊をご案内いたします。動画は2本更新しました。 ・新刊案内『戦場に忘れられた人々:人種とジェンダーの大戦史』 『「大学の森」が見た森と里の再生学』 『基礎政権:中国農村制度の諸問題』 『森の来歴:二次林と原生林が織りなす激動の物語』 ・近刊予告『アエタ 灰の中の未来:大噴火と創造的復興の写真民族誌』 清水 展

          京都大学学術出版会 月間ニュース No.5 (2024年2月)

          風景を眺める時、何を見ているのか【新人読書日記/毎日20頁を】(73)

          『歌川広重の声を聴く』、121〜140頁、読了です。 「絵本江戸土産」の風景画に添えられた文章より、広重の風景に対す着目点を分析する章です。著者が整理した風景評価の着目点数を見ると、由来、場所以外、名所における特徴的な事物、山水美、霊験、名物、遊観、季節・天候・時刻などが殊に取り上げられた頻度が高いそうです。私たちが名所について考える時気になるところとどんなふうに違うでしょう。特に変わったところはなさそうですよね。むしろ、あの時代から定着した風景観で、今の私たちも名所を楽し

          風景を眺める時、何を見ているのか【新人読書日記/毎日20頁を】(73)

          近く、そして細かく【新人読書日記/毎日20頁を】(72)

          『歌川広重の声を聴く』、101〜120頁、読了です。 第五章には「『土産』の絵と『図会』の挿絵における構図の類型」という表があります。「絵本江戸土産」と「江戸名所図会」の両書における各構図の類型の数をデータ化した表です、これを見ると、「土産」は「図会」より俯瞰景が圧倒的に少なくなり、「対象物に近接する描写」が多いことがわかります。もっと身近な視点で描かれた絵は読み手に臨場感を与えます。「芝浦」の絵を見るとき、遠く離れた場所に身をおいた状態ではなく、実際に船に乗って景色を眺め

          近く、そして細かく【新人読書日記/毎日20頁を】(72)

          文化としての風景【新人読書日記/毎日20頁を】(71)

          『歌川広重の声を聴く』、81〜100頁、読了です。 第四章では、これまでの浮世絵に関する様々な議論がレビューされています。晩年に入り、広重は臨場感を創出する近像型構図で描いた絵が多くなったこと、「名所案内記」に知られている「名所」ではない所を絵にする謎など、広重自身の風景観に迫る興味深い課題が続々と立ち現れてきます。広重初代・広重二代目により描かれた『絵本江戸土産』の事例と、「江戸名所図会」といった他の名所案内記との比較分析から、「文化現象」としての名所案内記出版ブームの熱

          文化としての風景【新人読書日記/毎日20頁を】(71)

          実用性と芸術性【新人読書日記/毎日20頁を】(70)

          『歌川広重の声を聴く』、61〜80頁、読了です。 浮き浮きと楽しい旅の流行のおかげで、美人画や歌舞伎の役者絵から浮世絵風景画が登場し大人気を博しました。その実用面では観光宣伝冊子として津々浦々の観光スポットを絵にすることで、人々に行ったことのない名所への憧れをもたらし、芸術面では、蘭画から空間透視法を習得した絵師たちが、西洋の技法を日本伝統的な絵画技法と融合して、新たな芸術のジャンルを生み出しました。ここで大学の美術史の授業の一コマを思い出しました。「アジアの芸術は実用性を

          実用性と芸術性【新人読書日記/毎日20頁を】(70)

          浮き浮きと楽しく暮らそう【新人読書日記/毎日20頁を】(69)

          『歌川広重の声を聴く』、41〜60頁、読了です。 「浮世絵」の「浮世」という言葉の意味が江戸時代の繁栄と平和とともに、元の「苦しいこの世」から「浮き浮きと楽しいこの世」へと定着したことがわかりました。まるで悲しい顔から嬉しい顔に一変したようなことです。また、浮世絵は絵師だけにより描かれた「絵」というより、絵師、彫師などの協働で作られた「作品」だと勉強になりました。出版業界、印刷業界との関連性が想像以上に深く、いわゆる「量産品」といえそうです。

          浮き浮きと楽しく暮らそう【新人読書日記/毎日20頁を】(69)