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「支える生徒指導」の始め方――「改訂・生徒指導提要」10の実践例

生徒指導提要の12年ぶりの改訂

 2010年に公刊された『生徒指導提要』が12年ぶりに改訂されました。その背景には、少子高齢化やSNSの急速な普及、家庭や地域のつながりの希薄化など、子どもを取り巻く社会環境が大きく変化し、不登校やいじめ、自殺など子どもが抱える課題の深刻化が見られるなかで、いじめ防止対策推進法や教育機会確保法、こども基本法など様々な法律が成立・改正され、生徒指導を取り巻く状況が新たな局面を迎えたことが指摘できます。

 新たな『生徒指導提要』では、時代の変化に合わせて、子どもたちが未来の社会において充実して生きる力を身につけるために、
「させる生徒指導」から児童生徒の主体的な成長・発達を「支える生徒指導」への転換をめざすこと
②「学習指導と生徒指導の一体化」により教科の学びを社会のなかで生きる力につなげること
③学校内外の連携に基づく「チーム学校による生徒指導体制」を築くこと
という改訂の3つの柱が示されました。

 また、2軸3類4層の重層的支援構造をモデルとする組織的・計画的な生徒指導の実践、多様な背景を持つ児童生徒へのアセスメントに基づくきめ細かな対応、子ども支援の視点に立った児童生徒の権利の擁護関連法規についての正しい理解に基づく適切な対応、なども重要なポイントです。

誰もが安心して居られる学校をつくるために、「生徒指導」観のアップデートが必要

 一方、学校現場では、教員の多忙化による疲弊が深刻化するなかで、働き方改革の要請や教員不足の問題、ベテラン教員の大量退職と若手教員の増加などによる学校としての指導力の低下など、様々な課題が見られます。

 また、教員免許更新制の発展的解消により、それぞれの教員が興味のあることやニーズに応じて、校長や教育委員会などと対話をしながら自ら学んでいくという研修システムへの移行が進められています。生徒指導に関する研修を全体計画に体系的に組み込むマネジメントの方法や研修のコンテンツの開発などが、いっそう求められることも予想されます。

 2021年6月に発足した「生徒指導提要の改訂に関する協力者会議」においても、今の子どもたち、そしてこれからの子どもたちにとって大切な視点が盛り込まれたこの改訂の趣旨を、「いかに学校現場に浸透させていくかが重要である」という声が数多くあげられました。同時に、いくら生徒指導の理念を示しても、「実際に子どもと関わる先生たちがその趣旨を理解して実践しなければ、子どもたちには届かない」という危惧も示されました。

 各学校に対して、また教職員一人一人に対して、従来の「生徒指導」観をどうアップデートしていくのか、新『生徒指導提要』の理念や内容をどう具体化していくのか、誰もが安心して居ることのできる学校をどうつくっていくのか、という問いが投げかけられていると言えるでしょう。

 その問いに答えて、各学校が「児童生徒一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支える」場となっていくために、新『生徒指導提要』をどう受けとめ、どう活用していけばよいのかを探っていくことが、本書の目的です。

「支える生徒指導」を実現するための手がかりに

 そこで本書では、第Ⅰ部で『生徒指導提要』の改訂により、今後の生徒指導のあり方、ひいては学校のあり方はどう変わるのか、学校現場にはどのような課題がありどのように対応していくのか、その方向性について検討しました。
 そのうえで、第Ⅱ部で改訂の趣旨を先取りしている生徒指導の実践や学校づくりの取組を取りあげ、「支える生徒指導」を各学校が創造していくための手がかりと意欲を共有することをめざしています。

 本書を、新『生徒指導提要』で示されたこれからの生徒指導の理念の共有と、各学校現場での子どもたちの主体的な成長・発達を支える生徒指導の実践にお役立ていただければ幸いです。
            (本書「はじめに」〈編著者 新井肇〉より)

本書の目次

第 Ⅰ 部 生徒指導提要の基本的な方向性と総合的な実践
『生徒指導提要』の改訂でこれからの生徒指導に求められること
 はじめに:生徒指導をめぐる状況と4つの問い
1⃣ 『 生徒指導提要』改訂の背景
 児童生徒の問題行動・不登校の深刻化/社会環境の変化と多様な背景を持つ児童生徒の増加/変動する社会状況と「未来を生きぬく力」の獲得/法の理解に基づく生徒指導の必要性
2⃣  新たな『提要』が示すこれからの生徒指導の方向性
 成長・発達を支える生徒指導の展開/学習指導と生徒指導の一体化/チーム学校による生徒指導体制の構築 (1)「社会に開かれたチーム学校」とは/(2) 実効的な生徒指導体制の構築/(3) 多職種の専門家・保護者等との連携
 おわりに:負の力(Negative Capability)の必要性

子どもの成長・発達を支える生徒指導――山県市立美山中学校での総合的な実践
「成長・発達を支える生徒指導」の展開/学校におけるピア・サポート/生徒指導の重層的支援構造といじめ防止/学習指導と生徒指導の一体化の取組/チーム学校による生徒指導体制の構築

クロストーク】
子どもたち、先生たちを信じて任せる生徒指導をどう実現していくか
――美山中学校の実践をもとに考える
教育課程にどう位置づけているのか/教職員のモチベーションをどう高めるか/「生徒の力を信じる」をどう実現したのか/キャリア教育への子どもたちの反応/学校と地域・関係機関とのつながりをどうつくっているか/教職員の成長が子どもたちの幸せにつながる

第 Ⅱ 部 生徒指導提要の趣旨をふまえた実践
1章 いじめ

生徒の自主的活動を教員が支えるいじめ防止の取組
〈改訂の方向性とポイント〉
「いじめ防止対策推進法」と学校のいじめ防止対策の方向性/『提要』が示すいじめ防止に関わる生徒指導の方向性/児童生徒の自主性といじめ予防活動
〈改訂の方向性をふまえた実践〉
中学生自身によるいじめ防止活動の展開/生徒主体の「いじめ防止活動」実践例/教員が行う「いじめ防止に関わる教育活動」の実践例

2章 暴力行為
児童生徒の内面を支える暴力行為防止の取組
〈改訂の方向性とポイント〉
暴力行為の状況/小学校における暴力行為増加の背景/今後求められる対応
〈改訂の方向性をふまえた実践〉
暴力行為防止につながる発達支持的生徒指導/課題未然防止教育としてのアンガーマネジメント/内面に働きかける課題早期発見対応および困難課題対応的生徒指導/関係機関との連携の重要性

3章 自殺予防
児童生徒が「未来を生きぬく力」を身につける自殺予防教育
〈改訂の方向性とポイント〉
これからの自殺予防において学校に求められるもの/自殺予防のための教育相談体制の充実/重層的支援構造に基づく自殺予防/学校内外の連携・協働による支援
〈改訂の方向性をふまえた実践〉
児童生徒が「未来を生きぬく力」を身につけるために/自殺予防教育の実際/これからの自殺予防教育の方向性

4章 不登校
学校が取り組む不登校児童生徒支援の実際
〈改訂の方向性とポイント〉
不登校の現状と支援の考え方/不登校支援の目標と方向性/不登校支援に向けた学校組織体制の充実/重層的支援構造に基づく不登校支援
〈改訂の方向性をふまえた実践〉
「気づき」から始まる不登校支援/アセスメント(見立て)に基づく不登校支援/言葉にならない叫びを「聴く」児童生徒理解/不登校児童生徒と「関わる」/社会的自立をはぐくむ「豊かな関わり」

5章 高校中退
将来に向けて自己を俯瞰するキャリア教育活動の進め方
〈改訂の方向性とポイント〉
高校中退の現状/「在り方生き方」を支える生徒指導のかたち/校種を超えたプロアクティブな視点
〈改訂の方向性をふまえた実践〉
改めて、「キャリア・パスポート」とは何か/「高校中退予防」に資する「キャリア・ポートフォリオ」の活用実践の可能性

6章 児童虐待
学校とSSWが協働した児童虐待への対応の実際
〈改訂の方向性とポイント〉
児童虐待の現状と求められる対応/法の理解と一体的な運用の意義/多面的な子ども理解とアセスメントの重要性/校内体制の整備と関係機関連携の必要性/子育て世帯への包括的支援へ
〈改訂の方向性をふまえた実践〉
【不適切な言動の背景にある児童虐待事例】学校で問題行動を繰り返す中2男子のさとしくん/校内連携による情報整理とアセスメント/通告から関係機関連携による支援へ/アセスメントに基づいた支援プラン実行へ/実践事例からみる虐待対応のポイント

7章 インターネット・携帯電話
インターネット等を利活用し、よりよく生きる力を身につける児童生徒主体の取組
〈改訂の方向性とポイント〉
児童生徒を被害・加害両面から守るための関係法規等への理解/インターネット等の特徴をふまえた指導・啓発/未然防止に重点を置いた重層的支援/校内外の連携促進
〈改訂の方向性をふまえた実践〉
「令和の日本型学校教育」を進めるうえで必須の取組/【実践例1】養護教諭中心のチーム学校による未然防止教育/【実践例2】全県規模での児童生徒が主体となった取組の推進

8章 性に関する課題
養護教諭としての「性に関する課題」へのアプローチ
〈改訂の方向性とポイント〉
「性に関わること」のイメージとアプローチの難しさ/「チーム学校」として性に関する課題にアプローチする
〈改訂の方向性をふまえた実践〉
高等学校での実践:困難課題対応的生徒指導としての性の課題への取組/中学校での実践:個別指導の視点と集団指導の視点を生かした課題予防的生徒指導/小学校での実践:「性」に関する授業での学びを「多様性を認め合う力」につなげる発達支持的生徒指導

9章 多様な背景を持つ児童生徒
多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導
〈改訂の方向性とポイント〉
背景について理解することの重要性/児童生徒の課題を生み出す多様な背景/個別支援と集団への働きかけ

1 多様な背景を持つ児童支援の全校的展開
〈改訂の方向性をふまえた実践〉
多様な背景を持つ児童一人一人の成長・発達を支えて/多様な背景を持つ児童への重層的支援構造に基づく生徒指導の実際/児童理解に基づく多様な子どもを支えるチーム支援の実際

2 外国籍の児童生徒への支援と共生社会としての学校づくり
〈改訂の方向性をふまえた実践〉
外国籍の児童生徒への支援の実際/家庭との連携にかかわること/関係機関やボランティアとの連携と様々な配慮/学校施設や教室環境に関する配慮/国際理解教育に通じる相互理解

コラム1
学習指導と生徒指導の一体化をめざした全校での取組
現状分析による課題の設定/授業で取り組んできたこと/5つのキーワードを生徒に示して

コラム2
特別活動と生徒指導――学びの伴走者として生徒の成長を下支えする
関わりの中でこそ育まれるもの/学級ミーティングの実践/特別活動のPDCAサイクル/学びを下支えするために/巣立ちの会の実践から/学びの伴走者として

コラム3
校則見直しの方向性と課題――高校での校則見直し調査から見えてきたもの
校則の周知状況/生徒・保護者・地域の人々の意見を反映した校則の見直しへ/服装規定/髪型および髪の加工に関する規定/スマートフォン・タブレットの扱い/おわりに――校則見直しの先にあるもの

コラム4
特別支援学校における生徒指導
特別支援教育と生徒指導/障害のある子どもの主体性を育む必要性の高まり/不適応行動を示す子どもへの教育的対応/特別支援教育と生徒指導の協働による学校づくり

おわりに

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