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英映画「バビロン」--"移民"たちの怒り

イギリス映画「バビロン」は1980年に公開されたのだが、日本では2022年に初公開となった。

日本公開はピーター・バラカンさんの尽力によるものだが、40数年経った現在見ても、映画に溢れる「怒り」は、生々しいものだ。


1970年代末のロンドン市内、ブリクストンが舞台。

主人公ブルーは工場で働きながら、仲間たちと「サウンドシステム」を持ち、DJをしている。

ブルーたち移民二世は、ナショナル・フロント(NF)や町の白人たち(大人も子どもも)による直接的な差別言辞や暴力、さらに、今では廃止されたらしいが、その成立が信じ難い悪法である「サス法」を濫用した警察による不当逮捕までに襲われる。
こういった場面には、心底から胸糞が悪くなる。

ブルーと同居する家族との会話から、構造的かつ相続的とも言える貧困が示され、一方でパーティや教会といった、一世二世による移民たちのコミュニティ・カルチャーも描かれる。

この時代のイギリス移民は、同国の政策によるもので、産業人口の不足を補うために中米から多くの人たちが「招かれて」、そして不景気になると今度は邪魔者と扱われたのだ。

この映画は、多数者である英国人が自分たちだけの都合で、他国人を切り捨てたこと、それを政策で行ったことへの怒りに満ちている。

登場人物の会話は、私には単語すら、ほぼ聴き取れない独特なもので、その言葉にベースとダブを強調した音楽が重なっていき、クライマックスのDJバトルへ行き着く。

ちなみに、サウンドシステムとは「自前の音響システムを持ち、流行りの曲とともにアーティストに特別に歌ってもらったカスタム・メイドのダブプレートをかける、レゲエの玄人集団」と、オーディオテクニカのウェブサイトにあるが、非常に分かりやすい説明だと思う。※リンクを貼ります。
(上記の「ダブプレート」はカスタムメイドのアナログ・レコードのこと。)

主人公ブルーを演じたブリンズリー・フォードは、ブリティッシュ・レゲエ・バンド「アスワド」のヴォーカル&ギターとして今も活躍している。

私はアスワドのライブを、1984年に後楽園ホール(!)で見た者だが、途轍もなくエネルギッシュなライブだったし、ダブをライブで演奏するのを初めて見たので、とてもびっくりした。

なお、映画には出演していないが、アスワドの名ドラマー、ドラミー・ゼブは2022年に亡くなってしまった。

サウンドトラックはデニス・ボーヴェル。
ヒリヒリしたストーリーが、いつも曇っている(または雨)空の下で、ベース音の強い音楽と共に語られる。


カタルシスや救いは殆ど無いが、いずれ再見するだろうな、と見終えて直ぐに思った。

「もしも」1980年から程なく公開されていて、それを観ていたら、私は自分でもPAやミキサーを持って、サウンドシステムを演ったろうな、と思った。

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