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ETV特集「ルポ 死亡退院」

2月25日放映されたETV特集「ルポ 死亡退院 〜精神医療・闇の実態」は、60分でまとめざるを得ないのが勿体無い、とつくづく感じる、極めて意義があり、しかし非常に暗鬱とさせる内容だった。

東京の八王子市の山腹にある「滝山病院」に勤務する看護師が2月、入院患者への暴行容疑で逮捕され、監督行政である東京都も調査に入った。

「死亡退院」とは、東京都内の精神科病院70箇所の死亡退院率は平均3%であるのに対し、滝山病院の死亡退院率が65%と、正に異常に高いことを指している。
恐ろしい言葉だ。

看護師逮捕以後の一部報道でも、看護師等による患者への暴力や暴言、暴虐行為が取り上げられていたが、この番組では長い時間に及ぶ実際の録画映像が含まれていた。

ベッド上の患者たちの胴や足は、ひどく痩せ細っていて、リハビリや運動が行われていないことが瞭然である。
臓器が露出している程の褥瘡(床擦れ)のできた人もあり、この人は「死亡退院」となった。
日常的に手足をベッドへ紐などで縛り付ける"拘束"も映像に残っていた。

医師や看護師長、看護師たち同士の会話からは、医務記録の捏造も日常的な様子でもある(「また一人逝っちゃったな、まあ、しょうがないんだよな(笑い声)」「根本的に治すなんて、とんでもないんだよ」云々)。

この滝山病院のウェブサイトを見ると「診療科目」は精神科、内科、人工透析、認知症介護とあり、同じく「設備・施設」にはICU(集中治療室)もある。
(なお、このウェブサイトは「今どき珍しい」、良く言えばシンプルで、情報は最小のもの。悪く言えば、詳しい情報をウェブに載せる必要がない、広報する必要もない、と理解できる。)

つまり、精神疾患や認知症のある人に対する血液透析やICU管理といった診療報酬の高額な行為の可能な医療機関であり、卑俗な言い方をすれば「安定的な儲けを確保することができる」ということだ。

事実、番組で紹介された元・現患者たちの殆どは「精神疾患や認知症があり、人工透析が必要」な人たちだった。

これは私見だが、精神や認知症を患う人が家庭にいる場合、当人の家族が介護する時間が多くなり、やがて家族の体力・心理・資力面で限界は来る。

家族(或いは本人)は医療機関・行政等の専門機関に相談し、状況によっては、入院・転院を進めることになるが、医療者というプロの手を借りることはむしろ必要だろう。

私は家庭での介護を否定も肯定もできない。家族という「アマチュア」に担わされる介護負担は非常に巨大と思うからだ。
ホームヘルパーや訪問看護を使ったとしても、24時間の殆ど、食事や排泄対応の多くは家族が担わざるを得ない。
その負担は、身内だからこそ、痛切となる面もある。
ヤングケアラーは大変な問題と思うが、児童以外の家族ケアラーについても深刻な問題と認識されるべきだと思う。

また、日本の精神医療・行政総体には改善の進まない重大な問題があり、それこそが根幹とも考えられる。

国内の精神科病床(ベッド)数は、OECD加盟国全体の病床数の4割弱を占めている、という事実(2022.10.28.東京新聞社説)がある。

厚労省はベッド数を減らす目標を掲げ、僅かに達成されてはいるが、他加盟国に比べ、まだまだ遥かに多い。

邪推かもしれないが、患者本人や家族の事情よりも、(ごく特別な、一部の)病院や行政は、本音では「ベッドを減らしたくない」と考えているのではないか。

精神疾患は、誰でも罹るものだし、症状の治癒・軽減は可能だ。
私自身、悲しくないのに、いつの間にか涙が流れ出ている朝が続いたことがあったが、幸いなことに、周りの人たちの援けもあり、短期間で症状が治った経験がある。
そして、民間・公立を問わず、懸命に福祉・医療に取り組んでいる人たちや団体もたくさん存在している。

しかし。
誰でも、滝山病院、滝山病院的な場所へ送り込まれる可能性がある。
送られたら、死なないと、家にも一般社会に戻れない事実がある。
自分が送り込まれたら、という不安を抱いてしまうのは、私には「杞憂」とは思えない。
誰にも起こる可能性のある事態なのだ。

最後に、滝山病院の院長は朝倉重延氏という医師だが、彼は2001年に内部告発により発覚した、40人以上の入院患者が亡くなった
「朝倉病院事件」で保険医資格を剥奪された人だ。
しかし彼は、その資格をいつの間にか再度保有し、滝山病院に勤務していた。
番組は厚労省へ質問したが「個別事案には回答できない」とのこと。
この保険医資格の再付与"案件"に、業界・行政・立法府の絡む"疑惑"の強い臭いを感じるのは、穿ち過ぎだろうか。

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