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舞姫(令和ver)ⅱ

こんばんは🐶

前回投稿した舞姫(令和ver)の続きです。

3回に分けて投稿するので今回は真ん中のお話になります(´ー`)

エリスに一目惚れをした豊太郎。2人の行く末はいかに…?


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彼女は何かとんでもなく辛いことがあって周りの目を気にする余裕もなく、ここに立って泣いているのだろうか。
俺の臆病な心は彼女を可哀想だと思う気持ちに負けて、気づけば彼女に近寄って、「なぜ泣いているんですか?こちらに友人知人もいないような他人であればかえって力を貸しやすいこともあるかもしれません。」と声をかけていた。我ながら自分の大胆さに驚くものだ。

彼女は驚いて異邦人の俺の顔をじっと見つめたが、俺の正直な心が表情に出ていたのかもしれない。
「あなたは良い人みたい。あの人のようにひどくはなさそう…それから、私の母のように。」
そう言って、少しの間枯れていた涙がまた可愛らしい頬に流れ落ちた。

「私を助けてください、お兄さん。…私がダメ人間になってしまわないように。母は私が言うことを聞かないからと言って叩きました。父は死にました。明日は葬儀をしなくてはいけないのに、うちには一銭の貯金すらありません。」
あとはすすり泣く声ばかりだった。そして俺の目は、目の前で俯いて震えて泣く少女のうなじにばかり注がれていた。

「とりあえず君のことを家まで送りましょう。だから、落ち着いて。周りに泣き声を聞かせてはいけないよ、ここは道路だから。」
彼女はしばらく話をするうちに、無意識に俺の肩に寄りかかってきたが、ふと頭を持ち上げ目が合うと、俺のことを初めて見たかのように恥ずかしく思ったのか決まりが悪そうに俺のそばを飛び退いた。

人に見られるのが嫌なのか、足早に行く彼女についていき寺院の向かいにある大きな扉をくぐると、欠けた石のはしごがあった。
これを登ると、4階くらいに腰を折って潜ることができるくらいの戸がある。少女が錆びた針金を扉の金具に引っ掛けて強く引くと、中からしわがれたおばあさんの声がして「だれだ。」と尋ねた。
「エリスだよ。」と答えると間もなく、扉が荒々しく開き、悪い外見ではないが白髪で苦労が染み込んだ顔をしたおばあさんが古びた服で出てきた。
エリスが俺におじぎをし、家に入ってくるのを待ちかねたようにエリスが家に入るとすぐに戸を激しく閉めたのだった。

俺はしばらく呆然と立っていたが、ふと街灯の光にすかして戸を見ると「エルンスト・ワイゲルト」と書いてあり、下に仕立物師と記してある。これは「死んだ」という少女の父親の名前だろう。
中では言い争いの声が聞こえたが、やがて静かになって戸が再び開いた。先程のおばあさんは丁寧に自らの無礼を詫びて、俺を迎え入れた。
戸の中は台所で、右のほうの小さな窓には真っ白に洗った布巾をかけている。左の方には粗末に積み上げたレンガのかまどがある。正面の一室の戸は半ば開いていて、中には白い布で覆った寝床がある。横になっているのは亡くなった人だろうか。
エリスは扉のそばにある戸を開いて俺のことを招き入れた。立てば頭がぶつかるであろうところにベットがある。中央の机には綺麗な敷き物をかけて、うえには書物23冊と写真立てをならべ、花びんにはここに似あわない高価な花束を入れている。そのそばに少女は恥ずかしそうに立っている。

彼女はすごく美しい。色白の顔は明かりに映って、うす紅の色にほおを染めている。手足が細くてしなやかなのは、まずしい家の女らしくない。おばあさんの部屋を出たあとなので、少女はすこしなまった言葉で言った。「ごめんなさい。あなたをここまで無礼にも連れてきてしまったこと。あなたはきっといい人だから私を恨んだりなんて、まさかしないでしょう。明日にせまるのは父の葬儀です。頼りにしていたシヤウムベルヒ…あなたは彼をご存じないでしょうか。彼はヴィクトリア座という劇場の座長です。彼に雇われてから、はやくも2年になるので、『もちろん私たちを助けてくれるだろう』と思っていたのですが、人の弱みに付けこんで、身勝手なことを言ってくるなんて…。私をお助けください、お兄さん。お金は少ない給料からさし引いてお返しいたします。たとえ食べていけなくなったとしても。」彼女は涙ぐんで体をふるわせている。その見あげている目には、人に「いやだ」と言わせない媚態がある。この目のはたらきは気づいていてするのだろうか、それとも自分では気づかずにするのだろうか。

俺のポケットにはいくつかマルクの銀貨があるが、それでは足りるはずもないから、俺は時計をはずして机の上に置いた。
「これで一時的に急を凌ぎなさい。質屋の使いがモンビシユウ街3番地に太田をたずねてくるときには代金を渡すから。」
少女はおどろいて感動しているようで、俺が別れのために出した手を唇にあてて、はらはらと落ちるあつい涙を俺の手の甲にそそいだ。

ああ。何の悪い偶然だ。この恩に礼を言おうと、みずから俺の住まいに来た少女は、一日中じっと座っている俺の読書の窓のそばに、一輪の名花を咲かせていた。このときから、俺と少女との付き合いはしだいに頻繁になっていって、同郷の人にまでも知られてしまったので、彼らは早とちりをして、私を「恋人を舞姫(踊り子)の中から漁るもの」と言った。俺たちふたりのあいだにはまだ無邪気な楽しみだけが……言ってしまえば俺は彼女の処女を奪ったりしてなかったのに…。
誰のことかは言わないけれど、同郷人のなかにはふざけた奴がいて、俺がよく芝居に出入りして、女優と付き合うということを上司に報告した。そうでなくとも俺がずいぶん学問のわき道に逸れていくのを知って恨んだ上司は、とうとうそのことを留学先の上司に伝えて、俺の役所の仕事をやめさせて職務を解いた。上司がこの命令を伝えるときに俺に言ったのは、「君がもしもすぐに日本に帰ったら、旅費を給付するだろうが、もしもこのままここにいるなら、政府の援助を求めることはできない」とのことであった。
俺は一週間の猶予をたのんで、「あれかこれか」と悩み散らかすうちに、俺の生涯でもっとも悲痛を感じさせた2通の手紙を受け取った。
この2通はほとんど同時に出したものだけれど、ひとつはおかんの自筆で、もうひとつは親族が、おかんの死を、俺がふたつとなく慕うおかんの死を知らせた手紙だった。俺はおかんの手紙のなかの言葉を読み返すのが堪らず、涙がせまってきて何も手につかなくなってしまった。

私とエリスの交際は、このときまで他人が見るよりも潔白だった(※えっちしてないぞ😠!)。彼女は父が貧しいため、じゅうぶんな教育を受けず、15才のとき舞の先生の募集に応じて、このきまりが悪い技術を教えられ、「クルズス(講習)」がおわったあと、ヴィクトリア座に出て、今はそのなかで2番目の地位を占めている。
しかし、詩人のハツクレンデルが「今の世の奴隷」と言ったように、たよりないのは舞姫の身のうえだ。少ない給料でつながれ、昼の練習、夜の舞台と厳しく使われる。メイク室に入って化粧も施し、美しい衣装も身にまとうが、劇場の外では自分の衣食も不足がちなので、親兄弟を養うものはどれだけ大変だっただろう。
だから、「彼女たちの仲間で夜の世界に堕ちないものは少ない」と言うらしい。エリスがこれから逃れたのは、分別ある性質と、強くていさましい父の守護によってである。彼女は幼いころから本を読むのがやはり好きだったが、手に入るのは下品な「コルポルタアジユ」という貸し本屋の小説ばかりだった。私と知りあったころから、私が貸した本を読んで、しだいに趣味も広がり、言葉のなまりも正し、まもなく俺に送る手紙にも誤字が少なくなった。
こんなふうにして、俺たちふたりの間には、まず師弟愛のようなものが生まれていた。俺の思いがけない免職のことを聞いたときに、彼女は顔色が青ざめ、俺に「母にはこのことを内緒にしてください」と言った。これはエリスの母が、俺が学費を失ったことを知って、俺を疎ましく思うことを恐れたからだ。
ああ、詳しくここに書き記し必要もないのだけど、俺が彼女をかわいがる心が突然強くなって、とうとう、離れがたい仲になった…まぁつまりえっちしたのはこの時だった。
俺の一大事は目のまえに横たわって、本当に危機がせまって生きるか死ぬかのときなのに、そんな時に女を抱いて!と非難する人もいるだろうけど、俺がエリスを愛する気もちは、はじめて知りあったときからずっと変わらない。いま俺の不運を哀れんで離れるのを悲しみ沈む顔、耳の側の髪の毛が解けてかかっているその美してくて可愛らしい姿は、俺がつらたんすぎて普通じゃなくなってる脳髄を貫いて、心を奪われてうっとりしてるあいだに、ここに及んだことはどうしようもないじゃんか。(開き直り)

留学先の上司に約束した日も近づき、俺の天の定めは迫った。このまま日本に帰れば、学問が成就せずに汚名を背負った俺自身の運が再び開ける機会もないだろう。だからといって留まるなら、学費を得られる手段がない。
このとき俺を助けたのは、いま俺と同行するうちの一人である相沢謙吉だ。彼は東京にいて、すでに天方伯の秘書官だったが、社内新聞に私が免職されたことが出たのを見て、新聞紙の編集長に説明して、俺を新聞社の通信員とし、ベルリンにとどまって政治学芸のことなどを報道させることとした。まじ神。
新聞社の報酬は言うほどもないくらいのものだけど、住まいを移しランチに行くお店も変えれば、ささやかに暮らしていくことはできるだろう。(とてもじゃないけど、おやつに3000円するパンケーキを食べたりなんて出来ない。)
かれこれ考えるあいだに、助けのつなを俺に投げかけたのはエリスだった。彼女はどのように母を説得したのだろうか、俺は彼女ら親子の家に住むこととなり、エリスと私は「いつから」というわけではないが、あるかないかの収入をあわせて、つらたんな中にも楽しい月日をおくった。
朝食を済ませると、彼女は練習に行き、そうでない日には家にとどまって、私はキヨオニヒ街の間口がせまく奥行ばかりたいへん長い休息所に行って、あらゆる新聞を読み、鉛筆を取り出してあれこれと材料をあつめる。
この切りひらいた引き窓から光を取った部屋で、することが定まっていない若者や、多くもない金を人に貸して自分は遊んで暮らす老人、証券取引所の仕事のひまを盗んで足をやすめる商人などとひじを並べて、つめたい石机の上で、いそがしげにiPhoneの画面をスクロールし、一杯のコーヒーがさめるのも気にせず、新聞を何種類となく掛けてならべてある片方の壁に、何度となく行き来する日本人を、知らない人はどう見たのだろうか。
そして1時近くになるころに、練習に行った日には帰り道に立ち寄って、俺とともに店を出るこの軽く手のひらの上での舞もきっとできるだろう少女を、変だと思って見送る人もいたはずだ。

俺の学問はおとろえた。屋根裏の明かりがかすかに燃えて、エリスが劇場から帰って、椅子にもたれてTikTokなどを見ているそばの机で、俺は新聞の原稿を書いた。
昔、法令や条目の枯れ葉を紙のうえに搔きよせたこととは違って、今は活発な政界の運動、文学美術にかかわる新現象の批評など、あれこれと結びあわせて、力の及ぶかぎり…以下略。(※難しい説明だから、気になる人だけ読んでくれ🙂。ベルネよりはむしろハイネを学んで考えを組み立て、さまざまの書類をつくったなかにも、ひきつづいてヴィルヘルム1世とフレデリック3世の崩御があって、新帝(※ヴィルヘルム2世)の即位(※1888年)、ビスマルク侯の進退のゆくえなどのことについては)特に詳しい報告をした。
だから、このころからは、思ったよりも忙しくして、多くもない蔵書をひもとき、以前していた仕事に手をつけることも難しくて、大学の籍はまだ除かれていないけど、受講料を収めることがむずかしいので、1つだけ取っていた講義さえ聴きにいくことも滅多になかった。
俺の学問はおとろえた。しかし、俺はそれとは別に一種の見識を成長させた。それはどんなものかと言うと、数百種類の新聞雑誌に散見される議論にはそりゃぁ高尚なものも多くて、俺は通信員となった日から、以前大学によく通った時に培って得た鑑識眼によって、読んでは読み、書き写しては書き写していた。そしたら、いままで一筋の道だけを走った知識は自然とまとめ合わされたようになって、同郷の留学生の大部分が夢にも知らない境地に至ったのだった。彼らの仲間にはドイツ新聞の社説さえ、よくは読めないものがいるのに。

冬が来てしまった。リアルガクブル。表の街の道は路面凍結してしまわないように砂も撒いている。クロステル街のあたりはでこぼこして困るところは見られないようだけど、表面だけは一面凍って、朝はやく戸を開けると飢えて凍えたすずめが落ちて死んでいてサゲぽよだ。部屋を暖め、かまどに火をたきつけても、壁の石をとおし、服のわたを突き抜く北ヨーロッパの寒さ、まじで無理…。エリスは23日前の夜、舞台で倒れたといって、人に助けられて帰ってきたが、それから「気分が悪い」と言って休み、ものを食べるたびに吐くから、「つわりじゃない?」と気がついたのはエリスの母だった。ああ、そうじゃなくたって、気がかりなのは俺自身の将来なのに、もしも本当だったらどうしよう。

今朝は日曜日だから家にいたが、テンションが上がらない。エリスは、ベットに横になるほどではないけど、小さい鉄の暖炉のそばに椅子を引き寄せて口数もすくない。このとき戸口に人の声がして、ほどなく台所にいたエリスの母は、郵便の書状をもってきて俺に渡した。
見ると見おぼえのある相沢の字で、郵便切手はプロイセンのもので、消印にはベルリンとある。不審に思いながら開いて読むと、「急のことであらかじめ知らせるのに方法がなかったが、昨晩ここに到着された天方大臣に付き添って私も来た。彼が『あなたに会いたい』とおっしゃるので早く来い。お前の名誉を回復するの、今でしょ。とりあえずなる早でと思って、用事だけを言ってよこした」とある。
読みおわってぼう然とした表情を見て、エリスが言う。「故郷からの手紙?まさかわるい便りじゃないよね…?」彼女はいつもの新聞社の報酬に関する書状と思ったのだろう。「いや、心配するな。エリスも名前を知っている相沢が、大臣とともにここに来て俺を呼んでいるんだ。急ぎだと言うから今から。」
かわいいひとりっ子を遠くへ出す母でもこうは気を遣わないだろう。
「大臣にお目にかかったりもするのかな」と思ったからだろう、エリスは病気をおして起きあがり、ワイシャツもめっちゃ白いのを選んで、丁寧にしまっておいた「ゲエロック」という二列ボタンの服を出して俺に着せ、タイピンまでも俺のために自分の手で付けた。
「どう見たってイケてるよ。ほら、鏡見てみて。なんでそんなつまんなそうな顔してるのよ!私もいっしょに行きたいくらいなんだからね!」一通り騒いだ後、すこし落ち着いて、「ううん、こんなふうにカッコよく着飾ったのを見ると、何となく私の豊太郎くんには見えないな…。」そしてエリスは、さらにすこし考えて、「もし、君が成功してお金持ちになったりしても私のこと捨てたりしないよね?私のこの病気が、母が言ってるようなことじゃなかったとしても…。」
「俺が金持ち?」俺は優しく微笑んだ。「表舞台に立つような望みを絶ってから何年経ったと思ってるんだよ。大臣には会いたくもないよ。しばらく会ってない相沢にだけは会いたいから行ってくる。」
エリスの母が呼んだUberは、タイヤの下にきしむ雪道を窓の下まで来た。俺は手袋をはめ、少し汚れたコートを背にかぶせて手を通さず帽子を取ってエリスにキスして建物をおりた。彼女は凍った窓を開け、みだれた髪の毛を北風に吹かせて俺が乗った車を見おくった。


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…なんか、嫌なフラグ立ってますよね🙂

エリスのお母さんがつわりなんじゃない?って言った時の豊太郎の反応。おこ。

自分の身が心配ならちゃんと避妊せんかい🙂

と、少し豊太郎に腹が立っている私です( 笑 )

さて、次回。豊太郎は相沢と大臣の元に行ってどうなってしまうのか。どんな決断をして、どんな終わり方をするのか。

乞うご期待です🙂!!



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