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すみかじ的レビュー@「Mozuアートワーク ちいさなひみつのせかい」

先日、Mozuさんの個展に行ってきた。
その名も、「Mozuアートワーク ちいさなひみつのせかい」。

2021年8月30日までの開催ということで、すでに終わっていはいるのだが、そのときの感想を書いていこうと思う。

Mozuさんとは

まず簡単に今回の個展に飾られた作品の作者、Mozuさんの紹介から。
紹介も何も、Twitterを見てもらえば早いので、そうしてくださいと言う感じだ(Mozuさんのプロフィールはこちら)。

一言でいえば、日常の風景をジオラマにしたものが、彼の作品には多い。

自室に始まり、電柱、ゴミ捨て場、教室などの現実のものから、「こびと」が住んでいることを思わせるような不思議でおかしみのある空間まで。

いやほんと、文字で説明するより写真を見たいいと思うので、Twitterで一通り画像を見てほしい。
その画像に惹かれた私は、ぜひ一度間近で本物を見たいと思い、個展に足を運んだわけです。

ミニチュアの中の生活感

Mozuさんの作品のいいところは、なんといっても親近感とおさまりの良さ、そして遊び心でしょう。

通常、ジオラマやミニチュアと言えば、ビル群や荒野を背景に、大怪獣がいたり、戦車がいたり、広大な街中を電車が走っていたりと、規模が大きいものを想像する。
しかしMozuさんの作品はそれとは少し異なる。
まず規模が小さいのである。例えばこの作品。

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自室をモデルに作ったというミニチュア。
ミニチュア特有の「神の視点」というおもしろさを残しつつ、そこに生活感をプラスすることで、等身大のドラマをそこに思い描くことができる。

ここに手のひらサイズの人間が暮らしていると想像すると、なんとも楽しい気分になる。しかも彼らは私たちと同じように、家族と話し、学校に通い、勉強をし、漫画を読み、ミニチュアを作っているわけだ。

そうした微笑ましさといういか、かわいさのようなものがミニチュアの随所にちりばめられており、見る者の想像を掻き立てる。
写真では確認できないが、積み上げられてた漫画のタイトルにも細やかな作りこみがしてあるなど、そのこだわりは尽きるところがない。

あとこれはほんとに見苦しい嫉妬なのだけれど、これを高校生で作ったと聞いたときには、本当にびっくりした。
他人と自分を比べても仕方ないんですけどね、はい。好きなことに夢中になって打ち込めるその情熱。見習いたいですね。

教室

次に紹介するのはこれ。

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自分が通っていた教室をモデルにしたらしい。これまたすごい。

しかし私は、この作品を見たとき、ある違和感を覚えた。

「あれ? この机、高すぎないか……?」

私が高校生のころ、座っていた椅子と机の間の空間はもっと狭かったような気がする。天板の下にある金属の空間は、もっと大きかったような。
つまり、脚がながすぎるんじゃなかろうかこの机……。

と、このように思ったわけだが、それは思い違いだった。

この後のコーナーでこの教室を舞台にしたビデオ作品(これは撮影不可だった)があったのだが、カメラを通し、キャラクターの背景と化した教室は、まさにぴったりのサイズ感でそこにあった。

机のフォルムバランスがどうだとかは、おそらく俯瞰でみたからそう思っただけであって、実は机のフォルムは遠くで見ると細く見えるのではないか、という風に感じた。
何を言っているか、あまりよくまとめられないが、あのミニチュアはそういういみで、現実に即したものだったのだ。

ミニチュアから現実のものの実態を考えられる好例であった。

壁の中に電車があああ!!!

この作品が一番好き。

画像5

壁の中に電車がああああ!!!!(そういうタイトルではない)

「壁のなかにこびとが住む空間があったら」はMozuさんの十八番だが、これはその中でもとびきりの作品だ。

構造を説明してしまえば、壁のなかにホームの内装を施し、その向こうにプラレールの電車を走らせる、というものなのだが、そこに一工夫が加えられている。

電車までの距離を長く見せる、つまり、ホームの奥行を出すため、内がわの壁が極端に斜めに配置されているのだ。

ミニチュアの手法としては珍しくないのかもしれないが、私は、ただのプラレールをこのひと手間で各段にかっこよく見せたMozuさんの技量に感動した。
実際は近くにあるプラレールが遠くにあると思うことによって、急に重量感を持った、リアルな鉄の塊に見えた。
実際はただのプラレールのはずである。しかし現場では、私にはそうは見えなかった。子どもの頃親しんだプラレールを遠くの存在に変えられた気がして、私はそのマジックに感動し、嫉妬した。

どうするのが一番リアルで、感動に近づけるのか、ということを常に考えている。作品作りにそれが現れている。看板の文言もいちいち面白いし。彼の世界がふんだんに盛り込まれている。

Mozuさんのアイデアノート

個展の終盤、Mozuさんのアイデアノートが展示してあった。
これも撮影禁止だったため写真はないが、

たったの見開き2ページの展示だったが、十分にそのすごさが伝わった。

まず綿密なのだ。ミニチュアの想像図を中心に様々な設定が細やかに、しかし整理されて書き込まれていた。

アイデアを形にするのにはいくつかの段階があるが、ノートに書く時点でそれはずいぶん固まっているのだなと感じた。その強固なイメージがあるからこそ、立体にしたときにぶれない。現実に負けないリアルさを突き詰められるのだろうか。

一週間ぶりにnoteを更新している私だが、発信を諦めないようにしようと思った。
まずは形にすることを身に着けなければ、どのルートを通るにしても、その先の感動には到達できない。
創作意欲を与えてくれたMozuさんに感謝しつつ、私は会場を後にした。

【蛇足】個展以外の感想:人混みと孤独

会場周辺はめちゃくちゃ混んでいた。前売り券を買ったのだが、それでも40分以上は待った。待ち時間の間に時間を潰そうにも、同建物のどのフロアも混雑しており、カフェにも入れない。
おまけに個展内はカップルと親子連れであふれていた。単身乗り込んだ私は、久しぶりに味わう孤独感と疎外感とに打ちひしがれながら、感傷に浸り鑑賞をしていた。
昔は一人でどこへでも行き、誰に話すでもなく作品を味わっていたはずなのに。いつの間にかすっかり弱くなってしまった自分に気づいた。

人間の弱さは強さである。一人が怖いならとことん繋がろう、発信を続けよう、と開き直った。



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