note出版塾「セミナー行くより○○行け!」
ネットサーフィンをしていたら「出版セミナー」「ライターセミナー」という告知を複数見つけた。それぞれ全く別のセミナーだが、いずれも、どこかの「業界」の著名人だったり、自らが著者としてベストセラーを出したりした人が手がけるセミナーだった。
濁したうえでわかりやすくたとえるなら、「かつて一発ギャグで人気を博し、ベストセラーを出した芸人が手がけた出版セミナー」とでも言えばいいだろうか。
一方、いずれの人物もその「業界」で人気とされる時期、つまり”ピーク”を過ぎている印象があるうえ、ベストセラーの後もたくさん本を出していた。そのため、編集者として「今、執筆をお願いしたい相手か」といえば「ない」と感じる印象の二人でもあった。
そんな人たちが自らの出版経験を元に「本を出す方法」を教えるセミナー。一時間の相談で数万円とか、数日の宿泊を兼ねてウン十万円とか、そんな設定になっていた。
■なぜベストセラー著者が「出版セミナー」をやりたがるのか
ここで「出版社の現役編集者」という立場から「受講を考えている人」を前に、このセミナーへの感想を言わせてもらうなら、もちろん意味がまったくないとは思わない。通うことで本当に本になる可能性も少なからず高まるだろう。
一方、「セミナーを主催する人」に対して感想を言えば、こちらは実にうまい商売だと思わざるを得ない。
というのも、このセミナーのカラクリは単純だ。
もちろんテーマの選び方とか書き方とか、必要な力を時間をかけて伝授することが想定される。学校の授業のようなもので、受けることによって通過しやすい企画書や原稿を書くテクニックは高まるだろう。
しかし、セミナー主は編集者ではないし、自ら本を出す権限も持たない。つまり、そのセミナー会場でいくら力を伸ばしても、実際の本にはなり得ない。
だからこそ、セミナーの核心の部分とは、おそらく「それまでの出版歴で培った編集者とのネットワークを紹介すること」に帰結するはずだ。
時間を費やして企画書や原稿をそれらしく整えたら、馴染みの編集者にメールや電話でコミュニケーションをとる。
もしその編集者が紹介者と本当に親しかったり、あれこれの関係性があったりすれば、企画が通る確率は何もないより高まるだろう。「買い上げ」といった条件を加えられればなおさらだ。
そもそも、多くの編集者は絶えず新しい企画を求めているもの。だから、どんな形だろうと、企画が流れてくるルートが一つでも増えるのはありがたいことでもある。
「自分をネタに、ベストセラーを出すことはもう難しい」
セミナーを主催するような立場に至るような人であれば、自らの価値や力をよく理解していることだろう。また、もとの「業界」で旬を過ぎてしまっていることなど、とうに気づいているはずだ。
だからこそ、ネームバリューを使ってフォロワーを拾い上げ、過度なリスクを背負わずに、それまでに培った経験や人脈で新しいマネタイズポイントを増やしていく。フランチャイズのラーメン屋のようなものだろうか。
やはり、つくづく美味しい商売である。
■出版と鉱山
やや話が脱線した。本筋に話を戻せば、今回書こうと思ったのは、こういったセミナーに、読者の貴重な時間とお金を使われる前に、手っ取り早く「本を出す方法」を伝授してしまえ、と思ったからだ。
本を出す。
それは一度コツさえつかめば実はそれほど難しいものではない。ただ、コツをつかまなければ、なかなか刊行までたどり着けるものでないのも事実だ。
ここでのイメージは鉱山に近い。
鉱山で一度鉱脈を見つけることができれば、続けてそこで貴重な鉱石を得る可能性は高い。しかしその鉱脈を見つけるまではとても大変、ということだ。
たった一人で、あるかないかわからない鉱石を探し回るのは不安だろう。そこに誰か案内をしてくれる人がいればどんなに楽だろう。
ただし、案内をしてくれる人が優しい鉱主でもない限り、やはり怪しい。それは遠回りであって、結果として見つからないかもしれない。さらには途中でピンハネされるかもしれないし、騙されるかもしれない。価値ある鉱脈は、結局自分で見つけるしかないのだ。
■セミナー行くより本屋に行け
ということで、以後機会を見つけては「note出版塾」という名称で、手っ取り早く本を出す方法を伝授していきたいと思う。
その第一回として今回お伝えしたいのは「セミナーに行くまえに、まず本屋に行け」ということ。つまり今回のタイトルの○○とは”本屋”だ。
これはどういうことか。
多くの人が日常的に本屋に足を運んでいることだと思う。それなのになぜいまさら、「本屋に行け」と言うのか?
その理由は簡単。
自ら編集者になって痛感したことでもあるが、ただ「欲しい本を買いに本屋に行く」という事と「本を出すという立場で本屋に行く」のは全く違うという事実があるからだ。
どんな本が今ウケているのか? どんな本に読者はお金を払っているのか?
たとえば自分が編集者となって、「次にどんな本を出そうか」という視点を持って、書店内を歩き回って欲しい。すると本屋で一番目立つスペースに並んでいる本が、とあるジャンルに割かれているスペースの大きさが、全く違う意味を持って目の前に立ち上がってくるはずだ。
これを前提に本屋に行ってみると、ほかにもいくつかのことに気づくと思う。
たとえばそのうちの一つが、「同じ著者が何冊も本を出していること」なのかもしれない。
たとえば、日本史。たとえば、コミュニケーション論。たとえば、心理学。そういったジャンルだと1人で数冊どころか100冊ぐらい出している著者がいることに気づくと思う。本を出したいと考えるあなたなら、羨ましいと感じるかも知れない。
ではなぜそんなことができるのか? この答えも単純。それは、そのジャンルが読者から求められているからに他ならない。
勘違いしないで欲しいのは、その人の本が多く刊行されているのは「著者が書き手として特別優れているから」と限らない、ということである。
あくまでその著者や手がけるジャンル、業界やコンテンツが、「本」というモノに収める意味で、そして「本」として売るという意味で相性が良かった。その可能性が極めて高い。
この視点は非常に重要だ。
と言うのも「本を出したい」という思いの先で出来上がるのは、当たり前だけれど「本」でしかない。つまり本屋に並びにくい商品をいくら作っても、それは本屋になかなか並ばないし、そもそも実現しにくいと言うことである。
** 簡単に言えば、八百屋ですばらしく良い牛肉を売っていても、野菜を買いに来た人は決して買ってはくれない。そういうことだ。**
以上、書いてしまえば、我ながら大したことのないノウハウである。しかしこうしたノウハウ一つだけで、あなたの書こうとしているものが、「本」になる可能性は大きく変わる。
そして、これらのノウハウとは高価なセミナーに、時間を費やしてわざわざ行かなくても、ちょっとのアドバイスですぐに理解できること。単純で、しかも残酷で、また真実でもある。
以降「note出版塾」の名の下に、何度かに分けて、今回のように読者にとって役立ちそうな出版へのヒントや近道について、現役編集者の立場で思いつく限り記していきたいと思う。あまり期待しないで、それでいて楽しみにお待ちいただけたなら著者として幸いだ。
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