父ちゃん、マジで頼むよ。俺、もう二十歳だよ。いい加減子離れしてくれよ。俺は父ちゃんの子守じゃねえんだ。
朝から晩まで「ケンタ、ケンタ〜！」ってさ。朝は起こしてやらないと絶対起きねえし、落ち込んでる時は慰めてやらないと立ち直れんし、愚痴は年中聞かされるし…。
　父ちゃんはもう４２だろ？　いい大人じゃん。最初の結婚に失敗したからって、全地球の女に絶望するのやめなって。そろそろ立ち直って結婚考えないと、ひとりぼっちの老後送ることになるんだよ。俺を頼るのはナシだからね。
　あ、そうそう最近メシ行ったりしてる朱音ちゃん、どうよ。いい子そうやん。
いやいやいや、少しくらいポチャっとしてる方が可愛いって！ガリボソで胸だけデカイ女なんか滅多にいないってば。
　俺さあ、もっと前に1８くらいでこの家出ていくつもりだったのに、父ちゃんのことが心配で、ズルズルと父子家庭続けちゃったんだよなあ。
　ずっと二人で生きてきたから、俺も実はファザコンなんだ。
あの震災の時、つぶれちまった家の中で、瓦礫(がれき)に埋まって救助を待ってた時だって、父ちゃんと一緒に死ぬならいいかって思ったもんなあ。余震が来るたびに、もうダメかと思ったよ。父ちゃんは俺をぎゅうっと抱いて「大丈夫、父ちゃんがいるから大丈夫」ってずっと言ってくれたこと覚えてる。レスキューの人達が助けに来た時、父ちゃんは「俺はいいから、この子をお願いします！」って叫び散らかしてたっけ。
　ああ、もう、そんなにしょんぼりすんなよ！　子離れしろよ〜。もう泣くなってば。鼻水拭きなよ。全く手がかかるったらありゃあしない。
　そりゃあ俺だってずっと一緒にいたいさ。父ちゃんのことが世界で一番好きだからさ。照れるけど、愛してるよ。
だけど、もう一度言うよ。俺、もう二十歳！！　猫の平均寿命って１６歳くらいなんだよ。
さてと、そろそろ行くよ。父ちゃんの抱っこ、最高に気持ちいいや…。じゃあな。父ちゃんには見えなくても俺はずっと見守ってるから。そしていつか必ず必ず帰ってくるから！それまであんまり泣かずに待っててくれよな。父ちゃん、大好きだよ。いってきます。ちょっとの間、バイバイ。