菊様のおかかおむすびの秘密


 あれがただのおかかおむすびだと思ったら大きな大きな間違いである。
和泉さんと二人で暮らしていた家のキッチンをよ〜く見て欲しい。カウンターに何があるか。若い人はきっと、それが何かわからないものがあるはずだ。
 細長い黒っぽいものは本物の鰹節、それもおそらく極上の「本枯れ節」という熟成させた鰹節だと思う。そして細長い木製の箱は鰹節削り器。その上カンナ刃調整用木槌まであるのだ!
 あのおかかおむすびは、スーパーなどで売っているパックのおかかを混ぜたおむすびじゃない。菊さまはせっせと鰹節を削って、それを混ぜていたのである。
 あれは結構大変なのだ。鰹節は石みたいに硬いから力がいる。だんだん小さくなってくると、とても削りにくい。菊さまは、毎日たくさん削っていたわけだから、その時間と労力たるや気が遠くなりそうだ。それに鰹節一本、結構なお値段する。たくさんのおむすびを作るとなると、少なくとも毎日一本は必要だったに違いない。
 私は娘達が子供の頃、毎日鰹節を削っていた。お味噌汁や煮物を作るのに、昆布と削った鰹節を使って出汁をとっていたのだ。娘達は子供の頃虚弱児でその上アトピーだったので、食事にはすごく気を使っていたのである。お菓子も手作りしていたし、出来合いのおかずや冷凍食品は買ったことがない。今の私のグータラぶりからは想像もできないほど真面目にお母さんをやっていたのである。別人としか思えない。
 あの頃に力を使い切ったせいなのか、今ではすっかり振り子が触れ過ぎてテイクアウト大好き、ファストフード大好き、デパ地下大好き、料理したくないという体(てい)たらくだ。
 料理を卒業した私の代わりに台所に立っているのは、娘たちである。ありがたいことに二人は結構料理上手なので、毎日美味しいものを食べさせてもらっている。
 「休日というものが一年に数日しかない超多忙な漫画家の脛(すね)をかじっている上に、料理までさせて、お前は鬼母か!」
 と石が飛んできそうであるが、もし私が毎日料理をしてたら、娘たちは仕事場の椅子から立ち上がる時間がほとんどなくなる。それは腰に大変な負担がかかるのである。
 座りっぱなしはとても体に悪い!だから私は心を鬼にして料理をしないと決めた(大嘘)
ま、それはどうでもいいとして、菊さまのおむすび、食べてみたい!!
 菊さまの新メニューの塩むすび、あれヒマラヤ岩塩? ピンクソルト? どっちにしても高そうだ。菊さまは、公安のお仕事だけじゃなく、おむすびごろりんも真剣にやっている。中途半端なことが嫌いで、誠実で完璧主義な菊さまらしいではないか。
 この日本のどこかに、あのおむすびごろりんの可愛いお店があって、今日もきっと美味しいおかかおむすびと塩むすびを売っているのだろう。菊さまの可愛い笑顔つきで。
 そしてきっとその近くには優しい眼差しで見守る泉さんもいるのだ…。 

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