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元気を出して

恋人と電話をしていて、彼の自宅で使っている電動灯油ポンプの吸い上げが悪くなって寿命かと思ったが電池を交換したら勢いよく動き出して復活した、という話を聞いた。やはり、動力というかエネルギーが満ちた状態であるというのは大事なことだ。見ている方も安心できる。

ところで、私の家のリビングでは数年前に購入した無印良品の鳩時計が活躍している。時計を見なくても時間になると「ぽっぽー、ぽっぽー」鳴いて時を知らせてくれるので、重宝している。

その鳩時計のはとこちゃん(名前をつけている)が、最近元気がない。時間になっても動作がのろのろとしており、ふいごを使用したというあたたかい音色の鳴き声も「…ホ…ホゥ…」みたいに息も絶え絶えだ。勢いを要するP音のような破裂音が出せず、消え入るようなh音(しかも小文字)しか出せなくなっている。

原因はわかっている。
恋人の灯油ポンプと同様、電池切れが近いのだ。

一般的には時計の電池の変え時は、遅れたり止まったりしたタイミングだろう。しかしながら、はとこちゃんは弱々しいながら時間を違えることなく鳴いているので、電池を交換するにはまだ早い。もうちょっと、時計が止まるまではこのまま鳴いてもらうしかない。

せめて早く時計が完全に止まってくれれば、電池を交換する口実ができる。というか、変えざるを得ない。にもかかわらず、はとこちゃんは最後の力を振り絞りながら、かれこれ一月近くもこの状態で鳴いている。なんだか自分が社員に鞭打ち働かせるブラック企業の悪徳経営者になったような気分で、そろそろいたたまれない。もういい、もう止まっていいんだよはとこちゃん。

はとこちゃんには明かりセンサーがついていて、夜間に部屋の照明がついていないと鳴かない。それは、ユーザーの就寝中に鳴いて安眠を妨げないためなのかもしれない。けれど私には、はとこちゃんにせめて夜の間だけでもひとときの休息をもたらす創造主の慈悲に思えてならない。

明日の朝こそ、時計がその動きを止め、電池の交換をすることができれば。
そう祈ることしかできない自分の無力さを噛み締めながら、私は今日も眠りに就くのである。

単三電池のストックは確認済みだ。
だから、いつでも止まっていいんだよ、はとこちゃん。

そして、電池を交換した暁にはまた、「ぽっぽー」と元気に鳴く声を私に聞かせて欲しい。

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