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【シャニマス・考察】七草にちかの、幸せな未来。


他人の靴を履く。

靴に自分を合わせなければ、私はきっと輝けない。

でも、もう私ではない私はいったいどんな風に笑っているかさえ、もうわからない。

鏡を見て思う。

映っている私はいったい誰、と。
あなたのフリをし続けている私は、本当に私なの、と。


◆ ◆ ◆


2021年4月5日、午前12時。

新アイドル『七草にちか』が実装された。
前情報や実際に実装された際に触れた第一印象は、『元気で溌剌』といった感じだった。

だが彼女のコミュを読み、彼女に触れる事で、彼女が有する危うさ、彼女がただアイドルに憧れる少女ではない事がわかる。

今回の記事ではそんな彼女の共通コミュについて触れる。

本記事では七草にちかのコミュ、それに伴った七草にちか自身の人間性、また彼女を語る上で欠かせないイベントコミュについて触れていく。そのため、ネタバレを考慮しない。また、個人的な解釈を含むため激しい解釈違いを含むかもしれない事や、読み切るのにかなりの時間を要する解説とも考察とも言えない怪文書である事に注意されたし。

また本文中で補足というか、考察を伸ばすために赤の他人のツイートを勝手に引用している。
そのためなにか問題があればその部分は訂正し、削除させて頂く。


0.偽りの伝説


 七草にちかを語る、その前に、避けては通れない『彼女』の存在について触れていく。

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彼女の名前は、「八雲なみ」。

二十数年前に、彗星のように現れ大ヒットし、瞬く間に消えた、伝説のアイドルとして知られている。

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八雲なみが行った路上ライブは、その路上がまるでステージのように見え、歌声も特別な物に聞こえた、という逸話を持つ。
その路上ライブがきっかけでスカウトされアイドルとしてデビューすることになる。

だがこれは表向きに脚色された、『偽りの伝説』である。

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スカウトなんて大嘘で、オーディションもあちこち落ち、歌もお世辞にも上手かったとは言えなかった、と当時の関係者は語った。

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それを当時のやり手のプロデューサーが、アイドル【八雲なみ】という"偶像"を作り出し、伝説を作った、と言う。

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しかし当時のプロデューサーが作り出した偶像と、八雲なみ自身の実像のギャップに八雲なみ自身は苦しみ「こんなの私じゃない」と、そう言った。

それでも売れるために、実像の自分を殺し、プロデューサーの意向に従い、アイドル八雲なみを演じた。
そしてプロデューサーの狙い通り、偶像としての彼女は成功し、大ヒット。

しかし、いつまでも自分を殺し続け、偶像を演じる苦しみに耐えられる訳もなく、彼女は伝説となって、消えた。

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そして、その八雲なみの当時のプロデューサーは他でもない、283プロダクション現社長『天井努』である事が明かされる。

そんな天井社長の過去については、イベントコミュ「きよしこの夜、プレゼン・フォー・ユー!」にて明かされている。

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売れるため、売れる事が彼女のためになると信じて、女優志望であった彼女に半ば強引にアイドルの道を示した。

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天井社長が八雲なみに用意した靴。
それを、もう履けません、と言い一度は捨てた靴を天井社長に返すシーン。

天井社長が用意した靴、すなわち天井社長が用意した『アイドル 八雲なみ』という【偶像】だ。

そして、「足に合わせるんじゃない、靴に自分を合わせるんだ」という天井社長の教え。

これは用意された偶像に自分を合わせろ、という意味。

靴に合わせれば、私の言う事を聞けば、売れる、そう言う意味だ。

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大ヒットしたのは天井社長のおかげだ。

そのことを八雲なみは勘違いしてはいない。
天井社長にここまで連れてきて貰った、と彼女は思っている。感謝もしている。

だが。それでも。
もうこれ以上あなたの用意した靴は履けない。自分を殺し続けて苦しむ事に、もう耐えられない。

彼女はそういって、彼の前から姿を消した。


1.やまびこ

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七草にちか、彼女との出合いはショップだった。

彼女はアイドルたちのCDやレコードを取り扱うショップの店員で、283プロダクションのアイドルたちのCDやグッズもそのショップでお世話になっている様子だった。

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アイドル志望であったにちかにとって、プロダクションのプロデューサーと直接話せる機会というのはチャンスでしかなく、これを機に283プロダクション入りを果たそうと彼女は考えていた。

ショップのバックルームにプロデューサーを呼び出し、歌とダンスを見てほしいと言った。

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彼女のパフォーマンスを見てプロデューサーは思った。

アイドルが好きで、アイドルに憧れている気持ちは伝わってくる。
だが『平凡』である、と。

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彼女をなぜプロデュースしようと思ったかわからない、そう思うほど、彼女は特別ではなく、平凡だった。

彼女は大声を出しますよ、とプロデューサーを脅す。
それほどプロダクションに所属したいという真剣さは伝わってくる。

だがそのやり方は不器用で遠回りだ。

プロデューサーは彼女にちゃんとオーディションを受けるように、と伝える。

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オーディションの連絡をするから名前と連絡先を教えてくれるかな、とプロデューサーは彼女に問う。

彼女は咄嗟に「八雲ななみ」と嘘をつく。
だが名札に「七草」と書いてある事からすぐにバレ、姉に反対されているから、と嘘を付いた理由を明かす。

そう、彼女の姉とは283プロダクションに所属する事務員、「七草はづき」だったのだ。

七草はづきは、283プロダクションの事務員としてアイドルと接し、レッスンや仕事、あらゆる面でアイドルをサポートしている。
アイドルを、知っている。

その姉に反対されているとなっては、確かに言いづらい部分もあるかも知れない。

結局、姉であるはづきには秘密で(すぐにバレているが)オーディションを受け合格してしまう。

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にちかはプロダクション屋上で「合格したぞ」と叫んだ。

そして返ってくる声に「やまびこだ」と彼女は笑った。

余談だが、七草はづき、七草にちかの名前について少し。
七草葉月、七草日華と仮に漢字を当てはめた時に「葉」と「華」が、「月」と「日」が、それぞれ対応する。
葉というのは花を咲かせるために支えとなるもの。
月というのは日が沈んだ頃、明るく照らしてくれるもの。
にちかには太陽のように明るい華であって欲しいと、私は思っている。


2.レプリカ

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七草にちかはアイドルとしてスタートラインに立つことが出来た。

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ただ、姉である七草はづきとの条件付きだ。

「WINGで優勝出来たら、続けてもいい」
「できなかったら……そこで諦める」
「……約束できる?」

今回の挑戦を最初で最後にする。
駄目だったらそこでアイドルへの道は諦める。

これがはづきからの譲歩。

つまり、にちかにとって今回の挑戦は"絶対に"失敗出来ない夢への挑戦であり、細く薄い未来への足がけなのだ。

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「基礎って……どのくらいでつきますかね……!」

これは私の考えだが、基礎というのは身につけるものではない。
何度も何度も反復練習をし、いつの間にか身についているもので、身についた後はその基礎のレベルをずっと長い月日をかけて研磨していくものだ。

にちかが早く基礎を身に着けたい、はやく次のレベルに行きたい!と焦る気持ちもわかる。

だがそんな事は言ってられないのだ。

なんせ、最初で最後の挑戦で、もう後がない。

基礎をいち早くつけたいにちかというのはは焦っている、という印象付けに最適

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また、その努力の道は険しいかも知れないが、楽しむ気持ちを忘れてはならない。

苦しく、投げ出したいようなものであってはならない。

アイドルとは、人に楽しさを分け与えるものだから。
アイドルが楽しくなければ、そもそも成り立たない。

だが、にちかには楽しむ余裕すらない。

それを見かねてプロデューサーは、『楽しんでいこう』と声をかけたのだと推察できる。

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また、にちかはもう1つ問題を抱えていた。

彼女自身、とても明るくて、楽しそうでみずみずしい輝きに満ちている。
それは紛れもない、彼女自身の輝きで、彼女自身の美徳で、彼女自身が有する魅力だ。

だが、パフォーマンスをした瞬間に、それらの魅力は失われ、くすみ、何かのコピーとなる。

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これは後ほどわかる事だが、七草にちかは『アイドル 八雲なみ』に憧れ、その輝きに魅入られ、その輝きに近づこうとした。

きっかけは八雲なみだった。

どうやら、七草にちかは八雲なみの真似をする事で、その輝きを失うようだ。

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くすんだままの、誰かの真似をしたままの七草にちかでは『優勝』は現実的な目標なんだろうか。

そう思ってしまうほど、遠くのものにプロデューサーは感じてしまう。

誤解してはならないのは、『パフォーマンスをした瞬間に輝きを失う』という事。
しばしばTwitter等で、にちかは輝きも才能も無い凡人、といった書かれ方をされるが、これは間違いだと思っている。

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前述の反芻ではあるが、
とても明るくて、楽しそうで
みずみずしい輝きに満ちているのは、紛れもなくにちか自身の輝きで、にちか自身の美徳で、にちか自身の魅力であるはずなのだ。
明るく笑うことも、楽しそうに笑うことも、甘え上手で皆の妹『七草にちか』ならばちゃんと出来るのだ。
にちか自身にも輝き、にちかの輝きがちゃんとそこにはあるのだ。
それを『八雲なみの真似をする事』すなわち
『八雲なみの靴を履く事で失っている』という点を誤解しないようにしたい。

また『優勝』というのは目標であり、目的になってはならない。

WING優勝するためにアイドルになったわけではないはずだ。

アイドルを続けるために優勝を目指してしまうと、優勝した時に何も残らなくなってしまう。

他のアイドルはまさしくそうだが、こういったアイドルを目指したい、こういったアイドルになってどんな人を勇気づけたい。
そういった『その先』がある。

にちかにはそれがない。

だからプロデューサーは『優勝出来るように頑張ろう』と言いかけて止めたのだと推察できる。

今のまま、八雲なみの真似をしたままの七草にちかでは、仮に優勝したとて、『何も』残らない。


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にちかに『八雲なみ』の映像を見せてもらった事があった。

八雲なみのパフォーマンスを見て、プロデューサーは、ぽつりと呟いた。

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「にちかだ」

七草にちかが八雲なみの真似をしているので順序は逆かもしれないが、少なくともプロデューサーは八雲なみの中に、にちかの面影を見た。

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そして、悲しそうに、苦しそうに笑う、その顔が、八雲なみに似てる。
そうプロデューサーは言った。

八雲なみの映像をプロデューサーに見せている時のにちかはとても明るくて、楽しそうでみずみずしい輝きに溢れている事にも注目したい。


3.靴擦れ

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にちかはなかなか思うようにステップを踏めなかった。

上手くいかない。
上手く行かなければ優勝出来ない。
優勝出来なければ、アイドルは諦めるしかない。

焦りと焦りと焦りが幾重にも積み重なり、そのプレッシャーからか、にちかは無理なオーバーワークをしていた。

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実はにちかが上手くいかないのには、原因があった。

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にちかは、八雲なみの真似をし続けていた。

八雲なみの真似をする事が『自分のためになる』ーーーーいや、この表現は正確には正しくない。『WING優勝のためになる』と信じ、疑わず、たとえステップが上手く踏めなくなろうとも、たとえ余計なものだろうと、八雲なみの真似をすることを止めなかった。

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プロデューサーは、自分なりに工夫して八雲なみのステップを取り入れることは良い事だが、課題であるステップが現実的にこなせていない事を指摘しようとする。

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にちかは心の底にあるものを吐露した。

誰も私の事なんか見ない。
誰も私の事なんか気にかけない。
私は、人ごみの内の一人でしかない。

ならば、八雲なみの力を借りるしかない。

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八雲なみの輝きを借り、八雲なみの靴を借り、足りない私を補わなければ。

ライトなんて当たるわけない。

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私が私のままならば、私だけの輝きでやれることなどたかが知れている。
それで自己満足したって何の意味もない。

それは、わかりきった事でしょう?

彼女はそうプロデューサーに問いかけた。


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プロデューサーは、そんなのわからないよ、と言った。

わかりきった事なんかじゃ、ない。
そうプロデューサーは言った。

確かに、八雲なみは凄いアイドルで、にちかにとって特別な存在かもしれない。

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だが、アイドル全てが八雲なみではないし、八雲なみがアイドルの全てではない。

色んな魅力を持った、色んな輝きを持った、色んな人がいるはずなのだ。

そして、にちかには、にちかなりの輝きがあるはずなのだ。

プレッシャーはにちかにそう諭した。

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しかしにちかの意思は固く、「八雲なみの真似は止めない、やるしかない」と彼女は言った。

人ごみの中の一人でしかない私。
そしてこれが最初で最後のチャンス、故に絶対に失敗出来ないプレッシャー。

所詮私はモブでしかないという自己肯定感の低さ、そして実際に上手くいかない私、そして最初で最後のチャンスという焦り。

あらゆる要因が重なって、にちかは藁にもすがる思いで、八雲なみの靴を履いている。

いや、にちかは履くしかない、そう言っている。

それ以外私に道はない、と。

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「にちかには、楽しいステップを踏んでもらわなきゃ、それこそ意味がないって……思ってる」

プロデューサーは、去りゆく彼女に向けて、最後にそう伝えた。

プロデューサーがにちかが楽しまないと意味がない、と伝えるのは2度目だ。

だが、1度目からもにちかには楽しむ余裕など無かった。
どころか、その時よりも彼女は追い詰められていた。

アイドルとは人に楽しさを分け与える存在だ。
そのアイドルが、アイドルを目指すまでの道のりが、たとえ険しいものであっても苦しいものであってはならない。

プロデューサーは、にちかに苦しんで欲しくない、と遠回しにそう伝えていた。

なぜなら、にちかは現在進行系でもう苦しんでいるから。

八雲なみの真似をする事、八雲なみの靴を借りる事、その靴に自分を合わせる事、自分を殺す事、八雲なみになること。

そうすることで、にちかは苦しんでいるから。

別に八雲なみの真似をする事自体は問題ではない。
八雲なみの真似をする事で、にちかが楽しくない事、にちかが苦しむ事。というのが問題なのだ。

もう苦しまないでくれ、そうプロデューサーは彼女に伝えた。

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というのも、実はプロデューサーは、偶然であろう、当時の八雲なみの関係者に出合い、当時の彼女の話を聞いてしまっていた。

そして、【偽りの伝説】とその【真実】を知ってしまった。

にちかが神格化している八雲なみもまた、天井社長という他人の靴を履いていた事。
こんなの私じゃない、と八雲なみも苦しんでいた事。
それでも他人の靴を履き続けた結果、破滅に向かっていった事。

八雲なみとにちかが今似た境遇にあること。

それら全てをプロデューサーは知ってしまった。

プロデューサーは八雲なみと同じ苦しみを、にちかに味わって欲しくなかったのだ。

そのプロデューサーの祈りは彼女に届く事なく、夜に溶けた。

靴ずれとは、自分には合わない靴を履き続けることで生まれる痛み、苦しみである。


4.音楽が終わらないように


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社長室。
にちかがそこで八雲なみのアルバム「そうだよ」の白盤、つまりプロトタイプを見つける事で物語は動き出す。

その白盤にはにちかが知っている「そうだよ」というタイトルではなく、「そうなの?」と問いかける形のタイトルになっていた。

これは八雲なみの気持ち「私が本当にしたいことはこれなの?本当にそうなの?」という気持ちを当時の天井が「そうだよ(俺の言うとおりにすれば売れるんだよ)」と八雲なみの気持ちを一蹴し、タイトルを書き換えリリースした、と解釈出来る。

拭えぬ違和感を抱えたまま、にちかはダンスレッスンに励んでいた。

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相変わらずオーバーワークのにちか。

しかしプロデューサーはもうにちかに休んでくれ、とは言わない。
言わないが、身体を壊してステージに立てなくなって困るのはにちかだぞ、と注意を促している。

にちかは、そんなのわかってますと返す。
ステージに立てなくなれば、それが『最後』になるから。

ステージに立てなければWINGに優勝出来なくなるから。
WINGを優勝出来なければアイドルの道を閉ざすことになるから。
アイドルとしての七草にちかではいられなくなる。

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アイドルでいられる最後、すなわちWINGでの敗退を意味する。

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プロデューサーは、一見どういう意図かわからない質問をにちかに投げかけた。

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それは八雲なみの真似をすることで、にちかが苦しんでいること。

苦しんでいることはアイドルでいることなのか。

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アイドルでいるなら、アイドルでいることに喜びと楽しむ気持ちがないと、アイドルではいられなくなってしまう。

これも前述の反芻になるが、アイドル自身が楽しくなければ、観ているファンに楽しさを分け与える事が出来ない。

アイドルが苦しんでいる姿を見ても、ファンは楽しさを共有することが出来ない。

アイドルとは呼べない。

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もし、全てプロデューサーの勘違いで、にちかには何か目指すべき目標があって、それに向かって邁進していて、その努力を楽しめていて、喜ぶ事が出来ているならば。

にちかは輝けるはずだ。

それほどの輝きを放つのならば、にちかは人ごみなんかじゃないし、雑草なんかでもない。

WINGなんかで負けることはない。
これがにちかの『最後』なんて事にはならない。

プロデューサーの勘違いであるのならば、だ。
本当ににちかが楽しめていて、八雲なみの真似をすることで苦しんでいないと心の底から言えるのならば、だ。

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プロデューサーは、にちか自身が持つ輝きを信じている。

誰かの靴なんか履かなくたって、にちか自身の靴と足でステージに立つことさえ出来れば、『最後』になんてならない。

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プロデューサーは、にちかと、にちかの持つにちか自身の輝きを信じている。

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仮に、にちかがここで『最後』なんて事になるならば。

もっと『アイドルにちか』でいる時間を大切にして欲しい、一回きりなんだから、本当ににちかがしたいことをやってほしい。

そうプロデューサーは言う。

WING優勝のために八雲なみの真似をするのではなく、にちかがアイドルになってしたい事、伝えたい事。

本当にこれが『最後』になってしまうのなら、手遅れになる前に、にちかが本当にしたい事して欲しい(八雲なみの真似はやめて欲しい=もう苦しむのはやめて欲しい)と、彼女に言う。

それでも誰かの靴を履くのを止められないのらば。
自分が持つ輝きを、自分が信じられないのならば。

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「最後かもしれないな」

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抽象的な部分が多いので、具体的に言い換える。

にちかが誰かの真似をする事で苦しむのが、最後になればいいって思うよ。

WING優勝のその先にある、なりたいアイドルの理想像、ファンに伝えたい事、それに向かって努力して苦しんでいるのならば、ある意味正しい苦しみのはずだ。

だけど、目標と目的を履き違え、WING優勝のためにアイドルをしているようなWING優勝のことしか見えていない様ならば、優勝出来なかったときに全てが無駄になる。

にちかが憧れたアイドルは、そんな苦しい顔をするアイドルだったのか?

プロデューサーはにちかにそう問うていた。

もう、にちかの苦しむ姿を見たくない、もう苦しむのは止めてくれ、誰かの靴を履くのは止めてくれ。
そんなプロデューサーの祈りが聞こえてくるようだ。

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にちかは、戸惑う。

そんな図星を突かれたって、そんな正論を言われたって。そんな事を言われたって私には。

WING優勝しなければ、アイドルを続けられないのは事実だ。
きっと人ごみの中の一人でしかない私が、ライトを浴びるためには八雲なみの靴を履くしかないのも本当の事だ。

他に、選択肢が、ない。

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にちかは社長室で見つけた八雲なみの白盤の事を思い出していた。

迷いがあった時も、本当にこれでいいのだろうかとそう思った時も、私がしたいことは本当にこんな事なんだろうかと疑問に感じた時も、苦しんでいる私がしている事は正しいのだろうかと葛藤した時も。

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そうだよ、そうだよにちか。
これが正しい道なんだよ。

そう背中を押してくれた八雲なみの言葉。
私が知っている八雲なみの言葉。

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その八雲なみすらも迷ってしまったら。

本当に、そうなの?そう彼女が言ってしまえば。

にちかは信じる物を失ってしまう。

だが、にちかは自分の事を信じることは出来ない。
にちかは、誰かの靴を履くことを止められない。

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にちかは、決して才能がない訳ではない。
目を瞠るほど彼女は成長している。

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『平凡』な少女には到底できないような事をにちかはやって見せた。

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にちかには思う存分、本当にやってほしい事をやってもらいたい。

でも。それでも。

彼女は苦しみ続ける道を選んでしまう。

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例えば誰かの靴を履くことも『楽しくてしあわせ〜』に思えたならばそれは彼女の美徳になり得ただろう。
何かを伝えるために、何かを成すために崇高なる思いで努力出来ているのならば、それが例え上手くいかなくたって、その経験が彼女を強くするだろう。無駄な事なんて何1つなかった、と自信を持って言えるだろう。

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5.鏡に映る私

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にちかは、WING準決勝の舞台袖に立っていた。

結局、にちかは他人の靴を履くことを止められず今もなお、履き続けている。

結果完全ににちか自身の輝きを見失い、自分自身を見失い、自分自身の輝きを最後まで信じる事が出来なかった彼女は、もう、自分がどんな顔で笑っているかさえわからなくなっていた。

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「優勝させてください……
 もう苦しまなくて済むように……」

このプロデューサーが祈るシーン。

優勝させて下さい、もう苦しまなくて済むように……とプロデューサーが祈ったのには間違いないが、それはにちかが勝てると信じていなかったからというわけではないと私は思っている。

少なくとも、プロデューサーはにちかに「最後にはならないよ、俺はそうは思わない」と伝えているし、彼女自身が持つ輝きを信じている。

にも関わらず、祈ったのはなぜだろうか。

それはシンプルに、もうにちかが苦しむ様を見てられない、見たくないから、にちかに苦しんで欲しくないからだと考える。

優勝すれば、にちかの【研修】も終わり、アイドルを続ける事が出来る。
WING優勝のために焦ることもしなくていいし、にちかがやりたい事を出来る。
にちかが、八雲なみの真似をしなくても良くなる。

にちかが、もう苦しまなくて済む。

にちかが、にちか自身の輝きでステージに立てるように。
にちかが、にちからしい笑顔でまた笑えるように。

にちかがもつ輝きを信じ、その先を見据えているからこそ、苦しまなくて済む【未来】を祈っている。
少なくとも私はそう解釈した。

最初からにちかが勝てると思ってないのなら『最後にはならないよ』なんて伝えない

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だからこれは【未来】のための戦いなのだ。

苦しまないためじゃない、にちかがにちか自身の力でステージに立ち、明るくて楽しそうでみずみずしい輝きに満ちている笑顔で再び笑えるようにするための戦いなのだ。

その【未来】のために今彼女は苦しんでいる。


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「……これって……続くってことですか……?」

準決勝を見事勝ち抜き、決勝へと駒を進めた彼女はそう呟いた。

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「……うそ……」

これってまだ続くんですか…?嘘…?という文脈を見て、準決勝を勝ち抜いて嬉しい気持ちとは、とてもじゃないが解釈出来ない。

どころか、続いてほしくなかった、と解釈する方が自然とすら言えてしまう。

実際にそうなのだろう。

彼女は、もう限界だった。

苦しみに耐えられなくなっていた。
もう終わって欲しいとすら思っていた。

実際に、準決勝敗退したコミュでは

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「やっと……やっと……終わった……」

やっと終わった、と苦しみからの解放に安堵している様子が伺える。

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「なみちゃんは……楽しかったかな……
 楽しかったかな……アイドル……」

自分が履き続けた靴の持ち主である八雲なみ。

その彼女は楽しかったのだろうか、とふと疑問に思う。

疑問に思う時点で、少なくともにちかは楽しくなかったと思っていると推察出来る。

おそらく八雲なみも楽しくなかっただろう、たくさん苦しんだだろう。
八雲なみも苦しみに耐えきれず、靴を脱ぎ捨てた。

自分も苦しんで苦しんで苦しみ抜いて、八雲なみと同じ苦しみを味わった事で、なみちゃんもきっと楽しくなかったのだろうな、とようやく気付く事が出来たのだろう。

そして決勝戦に進めるんだぞ、もっと喜んでいいんだぞとプロデューサーに言われても、なお暗い表情のにちか。

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嬉しいがどうかわからないのは、もう終わって欲しい、終わって楽になりたい、苦しみから解放されたいという願望が心の底にあるからだ。

もちろん決勝に進めて嬉しい気持ちは少なからずあるだろう。
ただ、それ以上に楽になりたい気持ちが強いのでにちかは素直に喜べずにいたのだろう。

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決勝の舞台袖で震えるにちか。

自信がないのは、自分を信じていないからだ。
履いている靴こそが正しいのだと信じているからだ。

いや、ずっと履いてきた靴さえも「そうなの?」と自分へ問いかけている事から信頼が揺らいでいる。

怖くて、怖くて怖くて怖くてたまらないのは、信じる物を失ったからだ。
心の拠り所を失ったからだ。

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そのにちかの様子を見てプロデューサーは、声をかける。

もう笑わなくていい、仏頂面してたっていい。
もう苦しまなくていい、もう誰かの真似をしなくてもいい。
にちかは、これまでにちかが努力して掴んだものだけで十分やれる。

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もう鏡を見ないと、自分がどんな顔で笑っているか、どんな顔をしているかさえわからない。

自分を殺し、他人の靴を履き続けた私は本当に私であるのか。
果たして、鏡に映る私は本当に私であるのか。

鏡に映る私はいったい誰なのだろうか?《who》

鏡を見つめるにちかは何を思うのだろうか。

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最後の最後まで、他人の靴を履き続けたにちか。
他人の靴を履いたまま、最後の最後まで苦しみながら、にちかは優勝してしまった。

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苦しそう……けれど笑えている。
笑っている……けれど苦しそうなのだ。

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けれどWING優勝を勝ち取ったにちかは、その先の【未来】へ繋ぐことが出来た。

これからは、WING優勝のためじゃない、売れるためじゃない。
にちかがにちかの為に、にちかが本当にやりたい事、にちかが本当に伝えたい事、にちかが本当に歌いたい事が出来るようになる。

そんな未来。

にちか自身が掴み取った、そんな未来で、にちかは思い切り笑えるのだ。


6.少し先の、幸せな未来

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優勝のその後、八雲なみの曲を聞いてにちかは泣いていた。

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「これからはもっともっと思い切り……自由に活動していける。
にちかが、自分でつかんだ時間だから」

これは前述の通り、もうWING優勝のためではなく、にちかがやりたい事を出来る時間をにちか自身が掴み取ったことを表している。

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そしてずっと借りてきた靴の持ち主、八雲なみに思いを馳せる。

たくさん苦しんだ。たくさん悩んだ。
それでも彼女の力を借りてここまできた。

八雲なみがいなければ、にちかがアイドルを志すことも、アイドルを志したにちかがここまで来ることも無かっただろう。

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同じ苦しみを味わった事で、八雲なみの苦しみに触れることが出きたにちか。

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たしかに八雲なみは大ヒットし、伝説になったが、はたして八雲なみが幸せだったかどうかはわからない、とプロデューサーは言った。

八雲なみも特別な存在ではなかったし、最初は人ごみの中の一人でしかなかった。

その八雲なみがこうして大ヒットしていること、おそらく彼女も誰かの靴を履いていたのかな(彼女も苦しかったのかな)と思う事は不思議ではない。

その八雲なみを神格化し、彼女の靴を履けば間違いない、彼女は絶対だ、と信じていたにちかも「彼女が幸せかどうかわからない」と言った。

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「……なんでわからないんだろう」

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「……わかってます」

基本的に今までのにちかは、私はわかっているけどプロデューサーはわかってない、八雲なみの真似をすれば間違いない事ををプロデューサーはわかってない、というスタンスだった。

そのにちかが「わからない……です……私も」というのは、これまでのにちかとの対比になっている。

にちかは八雲なみが絶対とは言えないのかも知れないと思えるようになっていた。

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八雲なみは苦しんでいたかもしれない、そう思ったきっかけは彼女のアルバムにもあった。

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にちか自身が苦しんだ頃、「私のやっている事はこれで正しいの?」「私のやりたい事はこれで本当にこれなの?」という葛藤があった頃。

八雲なみの「そうだよ」という言葉が自分の背中を押してくれていた、と彼女は語る。

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その支えとなっていた「そうだよ」という言葉が、本心では「そうなの?」と疑問に思い迷っていた。

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自分が信じて疑わなかった輝き、八雲なみも悩み惑い、誰かの靴を履き苦しんでいた事を知る。

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人ごみの中の一人でしかない私、そして実は同じ人ごみの中の一人だった八雲なみが歌う歌。

どこか感じる物があったのだと思う。

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「にちかは幸せになるんだ」

誰かの真似じゃない、誰かの靴を履くことじゃない、自分自信の輝きでステージに立つこと。そこで自分らしく笑うこと。

それは幸せな事なのだ。

そしてにちかは幸せになるのだ。

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プロデューサーは彼女と出合った時、なぜ彼女をプロデュースしようと思ったかわからなかったと言った。

そして、こういうことだったのかと腑に落ちていた。

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とても元気で明るくて、楽しそうで、みずみずしい輝きに満ちている。

けれど、どこか悲しげで苦しんでいる少女。

その少女を苦しみから解放し、幸せになるための手助けをする。

俺はそのために彼女のプロデューサーになったのだ、と悟った。

苦しみぬいた、その先。
にちかが報われる幸せの未来。


7.あなたが羽ばたくために

七草にちかの考察を一通りやってきて。

あまりにも気が滅入ってしまった。
アイドルを育成するコンテンツで、苦しみ続けるアイドルなんてはじめて見た。

そして、小糸の時にすら感じなかった『輝き』を意識した。

羽ばたくためには努力が必要で、努力は出来るのにその努力した自分を信じる事が出来ない。

結果何かに頼るしかなくて、その頼りだった物も失って……。

コミュを読んでいるだけの私も苦しくなった。

苦しみぬいた彼女が、報われる【幸せの未来】を信じ、彼女が彼女らしく笑える事を切に祈っている。

最後にオタク特有の、なんでもかんでも「いやこれ推しの事歌ってるやつや〜ん!!」になる病を発症しているので、七草にちかとプロデューサーのキャラソンを紹介して本記事を〆ようと思う。

坂本真綾/Gravity

been a long to follow
been there and gone tomorrow
without saying goodbye to yesterday
are the memories i hold still valid?
or have the tears deluded them?
maybe this time tomorrow
the rain will cease to follow
and the mist will fade into one more today
something somewhere out there keeps calling

am i going home?

will i hear someone singing solace to the silent moon?
zero gravity what's it like?
am i alone?
is somebody there beyond these heavy aching feet
still the road keeps on telling me to go on
something is pulling me
i feel the gravity of it all
足に絡みつく鈍い痛みを振りほどいた先に
誰かはきっといるのだろう

“進み続けろ” 道が僕に語る言葉

見えない何かに誘われるように
世界の重力を 体ぜんぶで感じている

きっと八雲なみの靴はにちかを縛り付けておく重力みたいなものだったと解釈した。

それではみなさんご機嫌、またどこかでお会いしましょう。

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