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七つの大罪と七つの美徳(2)

前回に続いて美徳virtueのお話です。

聖書の「七つの大罪」vs 「七つの美徳」

  1. 淫蕩・色欲 Lust(山羊・堕天使アスモデウス)  ⇔ 純潔 Chastity

  2. 貪食 Gluttony (豚・堕天使ベルゼブブ)⇔ 節制 Temperance

  3. 強欲 Greed(狐・堕天使マモン)⇔ 慈善 Charity  *拝金主義のマモニズムmammonismはここから来ています。

  4. 怠惰 Sloth (熊・堕天使ベルフェゴール)⇔ 勤勉 Diligence

  5. 憤怒 Wrath(狼・堕天使サタン)⇔ 忍耐 Patience

  6. 嫉妬・虚栄心 Envy(蛇・堕天使レヴィアタン)⇔ 感謝する人徳 Kindness

  7. 傲慢 Pride(獅子・堕天使ルシファー)⇔ 謙虚 Humility

これらの大罪や堕天使は旧約聖書や新約聖書、またイスラム教やユダヤ教でも若干解釈が異なるようです。

儒教の5つの美徳

  1. 仁 Benevolence

  2. 義 Righteousness > Justice

  3. 礼 Respect > Courtesy

  4. 智 Wisdom

  5. 信 Truthfulness > Sincerity

仁義礼智信の概念を英語で表現するのは難しいですね。しかし、ちょっと考えてみました。

はbenevolenceが一番よく当てはまると思います。
仁をPerfect virtue(完全な美徳)と訳す場合もあるようですが本質的ではありません。bene-良く、velle願うに由来するので、「自分ではない誰かの幸せを願う、慈悲深さや情け深さ」という仁徳を表しています。
この「仁」は対象が味方であれ敵であれ、年齢・性別・人種・職業を問わずに効力があるので、やはり最高の美徳であると思います。聖書の大罪のうち、強欲・憤怒・嫉妬・傲慢の4つは「仁」があれば消えてしまいます。

はrighteousnessが良いと思います。justiceという選択もありますが、正義という意味が強すぎるのと、米国の「正義」という建前で軍事介入していく時の常套句なので嫌ですね。戦争する当事者同士にとってどちらも自国の正義なのでご都合主義です。righteousnessは正義という意味もありますが、道徳的なニュアンスが強く、「道徳的な公正さに対する行動規範という価値観」を含んでいるので、普遍的です。そして自分を律することにもつながります。義がこのような感じで伝われば、聖書の大罪の淫蕩・貪食・怠惰の3つが消えると思います。

はrespectが適しています。尊敬というよりも「相手に対する敬意」です。coutesyでは礼儀というかお行儀的なニュアンスが強く、行動様式で心がこもっていない感じがします。

はwisdomで良いと思います。知識だけではなく「経験や知識に基づく正しい判断ができる聡明さ」を表しています。

はtruthfulnessが良いのではないでしょうか。「友情や人情に厚く、人や人からの信頼をあざむかない誠実さ」の意味を伝えたいからです。Sincerityだと単純に誠実な人という感じになりすぎる気がします。

知識や学歴だけのThe Best and the Brightest(最良で最も聡明な人々)を集めても「仁義礼智信に欠けている欠陥だらけの指導層」だからです。この言葉が言われ始めたのは、ベトナムに軍事介入してベトナム戦争を始めた人たちが始まりです。すでに、間違った人たちのことであったわけです。
特に、欧米人には「仁」と「礼」を修得してもらいたいものです

仏教には五悪という概念が存在します。殺生・偸盗(盗み) ・邪淫  ・妄語 (嘘) ・飲酒 です。この五悪は道徳感というよりはタブーに近い概念です。それに対して煩悩があります。除夜の鐘のように百八の煩悩があるようですが、その中で重要なものに、三大煩悩があります。「貪(とん)」と「瞋(しん)」と「痴(ち)」です。 「貪」は物欲、金銭欲、名誉欲などのさまざまな欲のことで、聖書の強欲に似ています。 「瞋」は、すぐ腹を立てる怒りの心のことで、聖書の憤怒です。 「痴」は、物事を正しく判断できない愚かさのことです。聖書の大罪には無いですが、儒教では智を重んじています。

ソクラテスの哲学は謙虚です。「無知の知」のように。「神々への崇敬に加えて人間の知性の限界を前提としており、人間が世界の根源・究極を知ることなどなく神々のみがそれを知る。人間は身の丈に合わせて謙虚に節度を持って生きるべき。」と説いています。

こうやってみると、聖書の美徳、儒教の美徳、仏教の戒め、ソクラテスの哲学は共に道徳の価値観として共通する部分が非常に多いことが分かります。
そして、その道徳概念の太い柱は、前回に書いた縄文人の道徳観とも共通しています


観光客が日本に押し寄せる理由

訪日外国人観光客が2023年には2506万人となり、2024年も3月は308万人と単月の記録を達成しました。10年前の 2014年のほぼ2倍で、2019年の3190万人を抜く勢いです。長い歴史と権威を持つ読者投票で知られる米国旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー』が2023年10月に発表した「世界で最も魅力的な国」ランキングでは日本が1位になったそうです。

なぜ日本はこれほどまでに人気なのでしょうか? 海外のブログの「20 Reasons Why You Should Visit Japan(日本を訪れるべき20の理由)」を見ると、それが見えてきます。以下は、順位を無視していますが20の理由をカテゴリー分けしています。その中では、日本人の国民性に起因する理由が50%を占めます

国民性を表す項目(10項目 50%)

  • 私たち日本人:ゴミ拾いをする日本人、ワールドカップなどで勝敗に関わらず相手チームを称える日本人サポーター、大震災のあとの冷静で団結力のある行動。これらが海外へ知れ渡り、日本人の誠実さや他人を思いやる心など、落とし物を届けてくれたなど、民度の高さを賞賛されるようになってきました。日本人の道徳観からすれば当然のことですが、世界的には異常なほど珍しく、多くの外国人が感動しています。

  • アニメ・漫画&聖地巡礼:40歳以下の世代は日本の文化風習や日本食、日本語などに興味を持ったきっかけとなっていることが多いです。これも日本の道徳観からの日常風景や風習が描かれ、海外には異世界に見えます。

  • 治安の良さ:酔っぱらって電車の中や駅で寝込んでいるサラリーマンや、子どもが一人で地下鉄に乗っている姿などは外国人にとっては驚きの光景のようです。東京のような大都会でも、スリや置き引きの心配がほぼないどころか、落とし物や忘れ物が高確率で戻ってくる、女性ひとりでも夜中に出歩ける、など身の危険を感じることなく安心して旅をできる

  • 街歩き、建築ウォーキング:「まるでアニメの世界みたい」とか「街全体がテーマパークみたい」、などという声が多数上がる日本の街並み。街歩きというのは治安の良さも関係しています。欧米ではうかうか歩いていられない治安の悪い街角が結構あります。

  • 鉄道&交通ネットワーク:技術面、正確さ、快適さ、便利さ、どれをとっても日本の鉄道のレベルの高さは世界中で定評があり、新幹線や観光列車などを中心に電車に乗ることを楽しみに日本を訪れる外国人観光客も多いです。

  • 国の清潔さ:街にゴミが落ちていなく美しいことや、清潔で快適なトイレが至る所にあり、それも無料で使用できることに感動する人が本当においです。ゴミが落ちてないのに道路や公共の場にゴミ箱がほとんど見あたらないことに、多くの外国人観光客は不思議に思うようです。

  • 日本独自の宿泊施設:ハードだけではなく、おもてなしや気配りのソフト面でも人気です。

  • 日本の伝統文化・芸能・工芸:職人の真面目さや伝統と歴史を継承していく日本人の生活態度も含まれます。

  • お祭り&季節のイベント、テーマパーク、エンタメスポット、コンカフェ:アミューズメントも伝統的なものから、最新のポップカルチャーまで、日本人の気質に共感が寄せられています。

国民性以外の集客コンテンツには、日本の食文化、豊かな自然と景色、自然・景勝地・絶景スポット、美しい桜と花見、富士山、神社仏閣&日本庭園、温泉&銭湯、世界遺産や歴史を感じる場所などの風土や、コンテンツとして珍しいアウトドアスポーツ&絶叫体験、相撲・スポーツ観戦、ショッピングなどがあります。

つまり集客コンテンツがきっかけであったとしても、日本人の国民性そのものに対する好感度が人気を支えているわけです。

この国民性は土台に仁義礼智信が根付いているからこそ発揮されているものだと思います。
そして、それは欧米のキリスト教社会やイスラム教においても共通する美徳virtueの概念と類似的で親和性の高いものです。
利己主義化した個人主義に疲れ果てている欧米人が、日本人の国民性に触れて「大事なものを思い出している」のかもしれませんね。

訪日外国人旅行の経済効果は消費額に生産誘発額を加えると8兆円近くになります。日本人の道徳概念に由来する国民性だけで、いかに大きな経済効果があるのかが分かります。日本が大量生産でモノを世界中に普及させる工業的成長だけでなく、世界からの日本に対する評価だけでこれだけのGDP効果があります。九兵衛が人口減少社会でも一人当たりGDPを増やして豊かな暮らしを維持できると主張するひとつの根拠がこの「文化力」なのです。

欧米でも一般国民は、「大事なものを思い出している」のに、政治家やビジネスリーダーは、すっかり忘れ去っているか、または意図的に否定しようとしています。最後に、インドのマハトマ・ガンジーが指摘した社会的罪を掲載します。

七つの社会的罪

  • 理念なき政治(Politics without Principle)

  • 労働なき富(Wealth without Work)

  • 良心なき快楽(Pleasure without Conscience)

  • 人格なき学識(Knowledge without Character)

  • 道徳なき商業(Commerce without Morality)

  • 人間性なき科学(Science without Humanity)

  • 献身なき信仰(Worship without Sacrifice)

どれも、政治家やビジネスリーダーだけではなく、一般国民もこの七つの反省を常に忘れずに心に刻むべきだと思います。


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