【ショートショート】忍者クマ

「ようやく忍びこめた」

俺はひとりごちた。物好きな殿様の命令により、俺は隣国の城からガラスでできたタマゴ細工を盗んで来なければいけないのだ。

俺は忍者クマ。クマの体をしてはいるが立派な忍者だ。先ほども城の二の丸から華麗にかぎ爪を引っかけて窓から侵入したのだ。

さて、ここからが本番だ。
音がしないように慎重に忍び足でめざすお宝のところまで進む。音を立てるようなヘマはしない。

野生の勘でワナを回避しつつ、お宝の間まで進む。ここまではすこぶる順調だ。

しかし、お宝のガラスのタマゴ細工を手に取ろうと近づいたところ、とんでもない殺気を感じて俺は飛びすさった。

ひゅんっ

俺が避けたところにおそろしい風圧を感じた。さっと避けていなければ確実に喉を抉られていただろう。背中に寒いものがはしった。

「よくぞ避けたな」

声をした方をみると奴は現れた。

つぶらな瞳と可愛らしい顔立ち。それとは裏腹な両手の鋭い爪。間違いない、殺人チワワだ。

忍びの世界で知らぬものはいない。ほとんど猟奇的なまでに殺戮を好む殺人チワワの存在を。

「見逃してくれそうもないな」

俺はやつと対峙してある作戦を仕掛けることにした。相手の懐に飛び込み闘うと見せかけて、直前でひねりを加えてかわした。

やつが爪を振るった先には例のお宝があった。

バリリィーーンッ!

ものすごい高音の音が響き渡ってガラスのタマゴ細工がまるで爆発したかのように割れた。割れて散らばる間はまるでスローモーションのようにキラキラしていて美しかった。

「やっちまったな」

城主のお宝を割ってしまったのだ。バレたら奴の命はないだろう。

「そういうお前こそ、割れた宝は戻ってこないぞ。お前もタダでは済まないだろう」
「ひとつ、俺に考えがある」

俺はある提案をした。

「一緒にこの城を抜けて共に自由の忍者にならないか。腕の立つお前と組めばどんな任務もこなせるだろう」
「しかし…」
「どうせ、バレたらお互い死ぬ身だ。時間はないぞ」
「くっ」

殺人チワワは観念したのか両前足のかぎ爪を上げた。

「決まりだな」
「ああ」
「二人の契りの代わりにこれをやろう」

俺はそういうと、とっておきのものを出した。

「これは!?」
「どんな犬でもむしゃぶりつきたくなる牛の骨だ。俺はクマだからいらない。お近づきのしるしにこれをやる
「ワウワウワウ!」
殺人チワワは喜んで飛びついた。

「わうーーーっ!」
しばらくむしゃぶりついた後にそれは起きた。
「ようやく効いてきたみたいだな」
「お前!何をした!」
「その骨にタマネギの毒をたっぷり仕込ませといたのさ。まもなく、お前の体は動かなくなる」
「なんだと…!?」

なおも懸命にもがく殺人チワワの背後から忍び寄り、俺は本当の任務を終えた。

「さて、次の任務だ」

俺は殺人クマ。今日も任務をまっとうする。(了)

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