イラストやスタンプは全て嘉又夢了氏
文中の凌司君は氏のキャラクター。
事前に関係を組んでいます。

主な登場人物

５月７日

千夜の看病を久実と交代して買い物して普通の道で帰ってきたら、ちょうど凌司君が寝不足と肉体疲労と貧血の顔して帰ってきたから、凌司君の点滴にビタミン剤と強壮剤も追加した。
挨拶から話まで精神感応念話で答えてきた所を見ると風邪で声嗄れか。
バンパイアになって自分で風邪引いたヤツなんか初めて見たよ。風邪なんか引いてるニンゲンを吸血しなきゃ感染しねぇモンだ。
凌司君は俺にできねぇ毒の中和ができるのに不思議だよなぁ。

ああ、ベッドで横になって天井向いてる凌司君の顔は確かに、瞼や頬が重力に負ける前の若き美術教師タダマサヒロトだ。
なよっちい見かけによらず冷ややかな眼光と瞬速の蹴りで、殺人級に暴力的な男子高生達を躾けてた。今なら発禁ものの体罰淫行ガン盛りの、性指向的には最先端の異性愛同性愛交差しまくりの深夜ドラマだった。昭和作品のリバイバルだったかもしれん。
当時何かの拍子に、野郎と番わなきゃならなくなったらアレはどうだコレはどうだって久実と放談が始まって、俺はタダマサ先公ならドッチでもイケると答えた。千夜にまで知られる位には結構マジで気に入ってた。
祖母さんと女の恋人には頭が上がらねぇけど、それをビタイチ隠そうとはせずガキ共に揶揄されようと「だから何だ。今の手前等に俺が我儘を認めるだけの価値があると思ってるのか。可能性を担保にできるのはなすべきをなす努力をしている者だけだ。」と上から見下ろして言い放つ姿に痺れた。
ギャップは正義だよ。

５月８日

千夜をニンゲンの病院へ連れて行った。
歳相応のガタだけらしい。一安心。

夜になって俺の担当医からのメッセージに気付いた。
「お疲れ様です。
圭さんの初吸血は万禮さん以外の血は吸わないと決めたそうですね。
不思議な事に圭さんの体内で、バンパイアの血が一定以下に維持されています。
初吸血で大量に摂取した時にイレギュラーな反応を起こす恐れがあるので、減感作療法を採って、万禮さんの体液に圭さんの細胞を慣れさせてください。
輸血、唾液の投与、性交等、日替わり混合で構いませんので毎日欠かさず継続させてください。万禮さんは輸血が苦手な事を伝えたら、万禮さんからスポイトで採取した唾液を自身の舌下に投与する方法を、圭さんが思いついた事を伝えておきます。
返信不要ですが、減感作療法を開始した日付と中断した日付を報告願います。
（目指せ全方良し！のスタンプ）」
外濠が埋まってくなぁ！

５月９日

陽桜の異界が無事消滅した時点で凌司君に初吸血衝動が来てなかったら、慣らし吸血させちまおう。
俺にできたんだから凌司君にもできる筈だし、俺の始祖に教えられたんだから俺にも教えられる筈だ。
病弱なバンパイアなんざデメリットしか無ぇからな。死ねないのに病気の症状に延々苦しむとか残酷過ぎて見てられねぇモンよ。
唾液採取よか吸血の方が断然良いなんて思ってねぇよ？

５月１０日

塩で歯磨き、ポピドンヨード口腔消毒、水嗽を済ませたら、顎の両端で海綿に唾液を吸わせて小瓶に詰める。チンキ職人にでもなった気分だ。
他人事じゃねぇ桔梗院案件がとっ散らかってる内は気が散るから、体繫げるのは俺も延期してぇのは確かなんだ。
繋がっちまったら暫く夢中になっちまうの目に見えてるからなー。
それもこれも初吸血衝動が起きない前提だ。来るなよ…頼むからまじで来るなよ。

５月１１日

予定より早く雨が降ってきたから傘を持って凌司君を迎えに行った。
凌司君は桔梗院探索以外は普段引き篭もりの癖に、一度出掛けると序で序でで帰ってこない鉄砲玉タイプ。なのに！備えねぇ。
ニンゲンみたく風邪引くならせめてバンパイア式ワープを覚えてくれりゃ安心なんだが、その辺りもやっぱまだニンゲンらしい。
俺や俺の直系兄弟分（始祖が同じバンパイア。）はバンパイアになって一週間しない内に、手前の痕跡が残ってる物陰同士を繋いでワープできるようになったのになぁ。
バンパイア式ワープを覚えたての頃は面白くて下らん悪戯に使いまくって、時報のように直系兄貴分に怒鳴られてたが、何人かは痕跡残しのパトロールを日課にするようになったお蔭で、始祖が捕まった時に逃げ果せた。まだ界狭間なんてものを知らなかった頃だ。
俺達が始祖にべた褒めされたのはそれが最初で最後だった。
俺はもっと褒め上手になると決めた切っ掛けだった。

５月１２日

ファッキン！近所で夜明けから金属を叩いてるキチガイが居て寝不足だ。
百パー向こうが悪くてもバンパイアがニンゲンを傷付けたら禁固刑だから、正体を確かめに行くくらいしかできねぇ。
同類やら怪異だったら即〆られるんだが、ニンゲンだった。
屋敷にはバンパイア特有の過敏分の知覚は護れるだけの結界を張ってあるが、普通のニンゲンレベルは知覚できるようにしてある。
屋敷の内外でガスが漏れたり、火事が起きたり、何かが突っ込んできたりに気付かないと二次災害を引き起こしかねねぇからだ。
聞き耳頭巾したら凌司君は咳込んでた。
寝不足のせいで風邪が長引いたな。
風邪が治るまで凌司君の寝室だけ消音結界を張っといてやるか。

５月１３日

紀藤君に作ってもらったパソコンのＡＩに任せてた、俺の１１年分の出勤時の防犯カメラ映像のチェックが終わった。
すげぇな！パソコンってこんな連続で働かせられるモンなんだな！
結果は１１年前から昨日まで縄張荒らしに来た４９人の内、たった１人しか店には来てなかった。
凌司君を襲おうとしてランチャンにぶっ飛ばされたヤツだ。
コイツが嫌がらせの首謀者かと思って当時の映像を吐く程見直したが、俺にはさっぱり恨みを買う要因が見つけらねぇ。
明日家の連中に相談しに行く。

５月１４日

万禮の家に防犯カメラ映像の部分コピーを持って行った。ＣＥＯには了承済だ。
久実「歪んでるヤツって顔が気に入らねぇだけで喧嘩売ってくっから何遍見たって無駄じゃん？」
大空「えらいニコヤカなのにな。二重人格ってヤツじゃないのか？」
千夜「……ん？お前コレ、公にしてないようだが、万引きでも見咎めてないか？精神感応で怒ってる時の顔だぞ。」
俺「俺が？」
千夜「コレ高１の頃じゃないか？」
俺「おう、そんなモンだわ。」
千夜「この頃のヒーはストレス満タンだったみたいでな、結構顔に出てたんだよ。」
大空「ハハァ、ホントだ。捩じ込んでる時の顔だ。」
俺「まじか！」
久実「恨まれて当然ってヤツかー。」
俺「逆恨みだろ。万引きしたんなら自業自得だろうよ。」
千夜「ノリも映ってるから妬まれた可能性もあるな。」
久実「そいやぁ、高校出るまでニコイチだったモンな。」
俺「アー…そう言われてみりゃそうかもな。」
大空「でもライテイヤロウはもっと前から来てたろ。」
俺「アレとか何件かは別件だろうな。」
久実「チーム悪趣味とチーム逆恨み？」
俺「そんなトコだろうな。サンキューな！」
久実「もう帰んの？」
俺「協会に報告してくる。夜飯、何処か食いに行くか？」
久実「凌司君はほっといて大丈夫なのかよ？」
俺「甘酒とボ×ィメンテとイ×ューズ買ってけば大丈夫だ。
点滴したら寝ちまうからな。」
久実「ユキ爺よか長引いてんな。」
大空「お前の血をもっとぶち込めば丈夫になるんじゃないの？」
俺「俺もそう思うんだが、今は未だ異物扱いで中和されちまってるらしいんだよ。」
久実「異物…草。毒だろ。」
俺「ノリリン、晩飯留守番してぇって？」
久実「ウッソ嘘ジョーダンだよ。
焼肉屋予約しとくから早く帰って来いよな。」
俺「おう。」
ニンゲンの家族に何でも話せるバンパイアってのは滅茶苦茶稀なんだよな。
凌司君にも与えてやらなきゃ駄目だよな。