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「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第17話〜Q様宅〜

本日のお客様はQ様。

Q様は時間指定があり、いつも真夜中のご依頼でした。

店舗クリーニングなどは、お店が閉店した後の夜間に作業を行うこともありますが……
Q様は一般のご家庭。

スタッフの一部からは夜遅くの作業は不評でしたが、
「お仕事の都合か、夜行性の方なのかも?」
そう言って、特に理由は聞かずに夜中にお伺いしていました。

お掃除屋さんの礼儀として、お客様のプライベートなことはやたらとお聞きしませんが……

Q様のファッションが独特でいつも全身黒なので、3回目の訪問時にQ様のお仕事について尋ねたことがあります。

「職業としての表現は難しい。やってることは……食っちゃ寝?」

そんな風に会話も独特な方でしたので、それ以上は触れずにもくもくとお掃除していました。

そんなある日。
地元で大きなお祭りが開催されることになり、子ども達を連れてお祭り会場へ遊びに行きました。

舞台でのパフォーマンスや、屋台を堪能して楽しんでいた時、
「お化け屋敷に行ってみたい!」
好奇心旺盛な長女がそんなことを言い出したのです。

(お金を出して怖い思いをするなんて……)
私は内心、そう思いました。

でも、キラキラした目でこちらを見る娘の姿を見て、
(子どもにとって何事も経験よね!)
そう考え直し、一緒にお化け屋敷に入場。

真っ暗の会場内を、小さなランタンを持った娘と手をつなぎ、そろそろと進みます。

時々からみつく蜘蛛の巣や、ヒヤッと冷たい障害物にぶつかったり、
その都度「キャー!!」
と叫ぶ娘の手をひいて、出口に向かって進んで行きました。

入場から5分ほど経ったでしょうか?
【出口】と書かれたドアを見つけて入ると、
「あれ?行き止まり?」
通路の突き当たりになっているようで、どこにも進めません。

小さなランタンをあちこちの壁に照らして見ると……
奥の方に真っ黒の棺桶が置かれています。

「棺桶だ!ドラキュラが入ってるかも!」
娘が大きな声で言ったその時……

『ギーッ!』っとゆっくり棺桶が開き、中から黒装束の人が!

「本物だぁ!キャーすごいっ!」
怖がらず、キャッキャと喜ぶ娘。

すると黒装束の方がゆっくりと近づいてきます。
ぼんやり見える口の周りには大きな牙と真っ赤な血が!

そして、娘の腕を取り大きな牙でガブっと!

かじったフリなのですが、
娘は本当に噛まれたと思ってパニックになり、黒装束の方の頭をバンバン叩いてしまいました。

黒いローブがパラっとめくれ、あらわになったドラキュラのお顔。
なんだか見覚えのある感じ……

「あれ?Q様?」
キツめのお化粧をしていますが、いつも夜中にお掃除に伺うQ様です。

「あら、お掃除屋さん。奇遇ですね」

「おかーさん、ドラキュラと知り合いなの!?」
驚く娘。

「知り合いというか…お客様ですよ」

「この仕事が夜までなので、いつも夜遅くお掃除に来てもらってありがとうございます」

そんなやりとりをしている間に、次のお客さんが近づいてくる声が聞こえてきました。
「それではまた。失礼!」

そう言って、Q様は黒いローブをかぶって、また棺桶の中に戻っていかれました。

「あんなところで、Q様に会うなんて思わなかった〜」
翌日、スタッフにお化け屋敷でQ様にあったことを伝えた私。

「そう言えばQ様、『食っちゃ寝が仕事』だって言ってましたよね」

「確かに…寝て起きて、食べて(噛んで)また眠るお仕事よね」

世の中には、職業の分類や表現が難しいお仕事がある。
そう黒装束のQ様より学んだのでした。


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