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「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第2話〜B様宅〜

本日のお客様はB様。

B様はWebサイトよりご依頼いただいたお客様で、引越が決まり退去後のクリーニングをご希望でした。

事前にヒヤリングしたご依頼内容は、室内全体の簡易クリーニングとリビング床のワックスがけ。

部屋数はなんと8LDKと広めの戸建て。
ひとりで1日では終わりそうになかったので、お掃除仲間2人に応援を頼み、3人工(にんく)で伺うことにしました。

カーナビで住所検索しながら伺った場所は、高級住宅街にある大きな戸建て。
お庭のお手入れをしていたB様が、にこやかに出迎えてくださいました。

B様と一緒に屋根裏部屋のある3階に上がり、下の階へ順番に降りていきながらお掃除箇所の確認をしていきます。

各階に水回りもあり、思っていたより多い作業量になる見込み。

(応援を頼んで良かったぁ)
そんな私の心の声が聞こえたのか、

「実はおひとりで来られるのかと思って、心配していましたよ」
B様に笑いながら言われてしまいました。

お部屋を巡って、最後にワックスがけを希望されていたリビングへ。

リビングというより、まるでダンスホールのような室内。
天井には煌びやかなシャンデリアが光り、華やかな壁紙と広い床を照らしていました。

(照明も壁紙もなんてゴージャス!)

広いリビングを見渡す私に、B様は窓際の床を指差しながら聞いてきました。

「グランドピアノを置いていた跡も……消えますか?」

近づいて床を確認すると、洗えば落ちそうな汚れ。

「ポリッシャーで洗浄した後ワックスがけをするので、全部キレイになりますよ!」

それを聞いたB様は、
「良かったです」
安心した表情で、窓から見える金柑の木を眺めていました。


お見積書にサインをいただき、作業開始!

この日はお掃除業界で数十年働く大先輩もいたので、リビング床の洗浄とワックスがけをお任せして、私は他の仲間と一緒に2階と3階のクリーニングへ。

身長の低い私は、天井の低い3階の屋根裏部屋を担当することに。

(屋根裏部屋は書斎だったのかなぁ?)

本棚と思われる、壁一面の大きな造作棚。

(1時間以内に終わらせよう!)

目標を定め脚立に乗り、上の棚から順番に丁寧に拭いていきます。

簡易クリーニングとは言え、棚の角のほこりなどは細いブラシを使ってかき出すのが私のこだわり。

そうして真ん中の段まで拭いたところで、棚板に張り付いた黄ばんだ封筒を見つけました。

(後でB様に渡そうっと)

張り付いた封筒をそっとはがし作業着の胸ポケットに入れ、残りの棚を拭いていきました。

お部屋周りのクリーニングは順調に進み、1階リビングの応援へ。

でもでも、さすがはお掃除の大先輩。
広いリビングの洗浄が終わり、1回目のワックスをかけはじめたところでした。

「ワックスを乾かしている間に、お昼休憩にしましょう」

お掃除屋さんはお弁当持参の方が多いもの。
それぞれが好きなドリンクを差し入れして、エアコンをつけた車で休憩していただきました。

お掃除仲間が休んでいる間に、お庭にいたB様に声をかけ、屋根裏部屋で見つけた封筒を手渡しました。

「これは……懐かしいなぁ」

その封筒には、年季の入った銀塩写真が入っていました。

「これ、僕と母なんです。今は老人ホームに入居している母ですが……」

見せていただいた写真には、お庭の金柑の木の前で笑っている子ども時代のB様と、女優さんのようにキレイなお母様の姿が写っていました。

「この金柑の木、僕が生まれた時に植えたそうです。家を売却すると決めたのですが、同じ年月を生きてきたこの金柑と…離れ難くて……」

目を細め、寂しそうに金柑の木を眺めていらっしゃるB様。

(なんてお声をかけたらいいのだろう…?)
返事に戸惑う私を察したのか、

「食べてみます?」

B様はおもむろに金柑の実をもぎ取って、手渡してくれました。

「無農薬だから皮ごといけますよ」

丸くて黄色い金柑。
口に含むと、爽やかな香りと少しの苦味が広がりました。

「美味しいです。煮ていない金柑は初めていただきました!」

「良かったです」

B様は微笑んで、また庭木のお手入れに戻られました。

その日は雨の後で湿気が多かったため、ワックスの乾きが遅く。
途中からエアコンを回し送風機も使い、予定より1時間遅れて作業は終了しました。

「お疲れさまでした。おかげで次の方へ安心して引き渡せます」

B様がそう話された時、大きなトラックとスポーツカーが家の前に止まりました。

「良かったです。ちょうどお掃除を終えたところです」
B様はスポーツカーから荷物を持って降りてきた男性に声をかけました。

「ハウスクリーニングまで、ありがとうございます!」
その男性の手には、立派な額に入った蝶の標本がありました。

「キレイですね。蝶がお好きなのですか?」
不躾だと思いながら声をかけた私に、男性が蝶を見せながら答えてくださいました。

「蝶のコレクターなんです。この蝶を飾れるような家を探していたら、ここを見つけて。」

新しい家の住民と、旧住民のB様。

世代交代の瞬間に立ち会ったようで、少し複雑な気持ちになりながら現場を後にしました。

今でも金柑を見る度に思い出します。
B様宅の広くてキレイなリビングと、ほろ苦い金柑の味を。


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