見出し画像

恒久的に実施されるベーシック・インカム?

さて、世の中大変な状況ですが、こういう記事がありました。

スペインで「ベーシック・インカム」導入、経済大臣が宣言
https://forbesjapan.com/articles/detail/33596

僕はかねてから何度もここに書いているとおり、ベーシック・インカムは否定的です。日本で言えば最低でも130兆円/年の費用を捻出しなければならず、現行の社会保険制度全てを捨てて、ようやく月8万円の支給が出来るという程度です。現行の社会保険制度全てを捨てるとは、生活困窮者は月13万円程度の生活保護が8万円に下がるということであり、医療は3割→10割負担になるということであり、弱者保護の真逆を行く政策であるからです。

しかし、今回に限っては全世代・全員への一斉支給にも一定の効果が考えられるということで、僕は時限的な「ベーシック・インカム的な制度」の導入は支持しています。

上の記事によっても、スペインの経済大臣は「感染の脅威が去った後も制度は継続する」とのこと。経済大臣がどういう考えかはわかりませんが、恒久的な制度導入だというならば。

EURO圏から追放されるでしょうね。

まぁその前に、EUROから脅されて制度を終了するのでしょうが。

考えてみてください。EUROの供給量は欧州全体で調整しているんです。スペイン中央銀行が勝手に行うことは出来ません。その中で、国庫から全員にEUROを供給し続けるとしたら。当然足りないので日本で実現することと同じく、他の予算を削って捻出するか、または国債を使って捻出するかしかありません。

前者は日本と同様の懸念があります。2018年度のデータですが、スペインの一般会計支出は55.6%が社会支出(年金、失業保険、教育、医療)です。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/04/3b4d28525fe47d78.html

後者は財政悪化を招くわけですが、国が借金することの意味というのはなかなか議論も分かれるもので、そこにあんまり深入りすると本題からどんどん逸れるので、簡単に。

・国の借金はゼロにする必要は無い
・但し、返済できるくらいに抑える必要がある
・毎年国家予算の半分以上を国債で調達するならば、どこかでそれが減少する道筋が必要

この3つ目が重要です。これが、期間限定のベーシック・インカムなら出来ても、恒久的なベーシック・インカムが出来ない最大の理由です。恒久的に実施すれば、いつまでもこの支出構造は変化しません。よほど、人口構造が変わって高齢者が激減し年金支給額が減るとか、先進国ではおよそ起こりえないシナリオでしか。

船底に穴の空いた船で航行するならば、どこかでその穴を塞がなければならない。当然でしょ?ベーシック・インカムを恒久的に行うということは、穴を塞がず航行するということ。で、国債はこうやってそれを逃れる。

1.経済成長を勝ち取り、対外債務を減らす
2.次の世代、そのまた次の世代へ債務を先送りし続ける
3.予算を緊縮し、債務を減らす

1は2010年代前半に財政危機に陥ったスペインそのもの。その後経済が回復したことで2019年には国債の格付けも上がり、コロナショック前までは好調な状況でした。
2は日本です。返せという人が日本人である限り、直近の破たんはしないという理論。但しこれにはずっと論争があるのでこれが正しいかどうかはここでは論じません。
3は財政危機に陥った時に取られるケース。緊縮財政を行わないとIMF等が支援してくれないのでやむを得ずやるケース。ギリシャの債務危機に際しての対応がこれ。「減らす」というよりは「これ以上増やさない」と言った方が正しいでしょうけどね。

なお、日本で実施した際の試算は既に行っていますのでこちらを見てください。
https://note.com/labriepanda/n/n9718dcfe52dc

さて。こういう状況であるにもかかわらず、なぜ今回に限り「時限的ベーシック・インカム」については僕が支持したのか。それは、時限的である以上、必ず穴を塞ぐからです。そして、コロナウイルスとの戦いが全世界的である以上、全世界的に2、つまり債権側も次の世代に債権回収を先送りしてくれる可能性もあるからです。

さらに、通常は「必要なところに必要なだけ必要なものを」渡す社会保障制度についても、現時点では有効に機能しません。日本で言えば生活保護受給者は200万人程度(全国民の1.5%程度)だから、申請・承認という手続もある程度機能するというのに、相手は急激に増加しているわけです。最初の記事によると、90万人が新規に失業するスペイン。人口は4,500万人程なので人口の2%近く。仮にスペインの生活保護受給者が日本と同レベルの数だとすると、一気に倍以上の受給対象者が出てきて、それを処理する国の側もキャパオーバーするし、そもそもそこだってロックダウンの影響を受けている。これでは対応が間に合わない。

よくベーシック・インカムを支持する人が「複雑な事務を無くすこと、それによる余計な人件費諸々がメリット」のように言います。普段のケースにおいては、一部の例外こそあるものの、総体的には問題になるほどではありません。そもそもそうした人件費も含めた生活保護に関連する費用が日本の場合、4兆円/年です。ベーシック・インカムを導入することで130兆円/年の支出が出るのを、4兆円で抑えている。これは「無駄な費用」とは到底言えません。しかし、今は緊急事態なので、確かに全く事務が回らない。ならば、一時的に出来る限り簡略な方法で保護対象者に支給するしか無いでしょう。だから時限的には賛成なのです。

しかし、ベーシック・インカムは構造的に恒久的な支給が出来るものではありません。今の時点で経済的な影響がいつまで続くかわからないので、終了期限を明示するのは難しくても、必ずどこかで終えなければならないものではあります。

なぜそうだと言い切れるのかというと、ちゃんと数字で語っているからです。夢とか願望とか思想とかではなく、キチンと数値で検証し、実現性を語れる人以外は信じてはいけませんよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?