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その50)BI社会/幼稚園に通う

とある小都市の朝9時、保護者に連れられて幼稚園に子供たちが集まってくる。多くは自転車や徒歩だ。子供も親も多様で、実子もいれば里子もいる。多くは園で受けられる教育が目的だ。早期から自然に親しんだり、本を読んでもらったり、友達と遊んだりするためだ。

雇用がほぼなくなった世界でベーシックインカムが施行される社会にもとめられているもの。それはプレゼン、コミュニケーション、教養、発想力を磨くことである。人間は社会的に優位に立つためにお金が発明される有史以前からマウントを取ってきた。マウントは本能的なものである。雇用があった時代は、社会的な地位や収入でマウントが取れた。それが通用しない時代のマウントは「相手より少しでも何かが優れていること」ということになるので、その手段として小さい頃からの教育が重視されるようになっていたのだ。

小学校に上がる前までに簡単な読み書きをマスターしたり、日本中の地名を覚えてしまう子、九九をそらんじる子、漢詩を暗記する子などもいる。リーダーシップやダンスなど多くの子供が様々な能力を開花させていくことを期待されている。トップレベルの子はいつか人類をさらに進化させる取り組みをするかもしれない。

受付や退出はかわいらしいロボットが行う。このロボットは子供達にも人気だ。幼稚園の業務も多くはロボットやテクノロジーが人間を補佐している。ただ、子供と関わることをしたいという人も多いため、職員は割と多い。給与は少なく、ほぼボランティアに近い。やりたい仕事はロボットにさせたくない。そんな人がこの業界には一定数いるのでこのような形になったようだ。どの幼稚園がレベルが高いか、ランキングもされているくらいだ。

子供はベーシックインカムの額が少ない分、給食費がかからないなど多くのベーシックサービスが提供されている。これは親が子どものベーシックインカムを私的用途に使い、最悪、子供を虐待するような事態を招かないための措置として行われている。

保護者も自分の時間ができるのも良いらしく、預けた後はそれぞれの目的に散っていく。その場で井戸端会議を始める人も多い。幼稚園の利用時間は午後3時までだ。これは保育士の負担も減らす目的がある。体力を維持しながら気持ちよく働けることで、サービスや労働の質が高くなっているのだ。もちろん3時に迎えに来られる保護者も多い。

幼稚園以外の時間はボランティアの託児サービスも人気だ。仕事が忙しい人というのは少ない。一定数、とにかく自分の時間を有意義に使いたい人が中心だ。今とはだいぶ価値観が違ってきていて、預けたい人は預け、育てたい人は育てるみたいになっている。ネグレクトやDVなどの虐待はかなりなくなった。預かる託児所も常にランキングを気にしている。

ただ、それでも少子化は進んでいる。子育てよりも自己実現に価値を見出す人が多いことや、母親たちのマウント合戦が嫌で子供を持たない選択をする若者のほうが多いこと。結婚観が薄くなって、パートナーとの事実婚は増える分婚姻率が減っていることも大きいようだ。

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