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その66)ユートピア予想

※これは、作者が想定するベーシックインカム社会になった場合を想定した、近未来の物語です。

ベーシックインカムが施行されてから30年ほどが過ぎた。この間に、ホワイトカラーの雇用はほぼ消滅し、20年前には汎用ヒト型ロボットが多くのブルーカラーの仕事を担うようになった。医療や福祉、建築や土木、治安維持などもかなりの数のロボットが補佐して、仕事の安全性が高まり人が行う雇用はかなり減っていった。

多くの研究者やアスリートなどは、AIエージェントを通した個人契約で働いて収益を得ている。成績を含む様々な評価によって報酬が決められている。アクターやアーチストは興行成績によって収入が決まる。マスメディアは報道に特化し多くはAIが情報の公共性を審査しAIアナウンサーが報道している。

政治家は人口減の影響もあり、人数が減った。活動費以外は基本給が出るが、現在はそれも世論によってベーシックインカムの収入のみで行うべきだと批判が出ている。道州制に移行する際に今までの県境ではなく、実質の経済圏で境界を定めるべきという意見が通り、州境はそれに従って定められた。例えば、下関や萩・津和野は九州になったし、鳥取県東部は北近畿州の仲間になった。残りの中国地方は瀬戸内側と広島岡山を中心に一体となった。出雲地方はアジア諸国との交流が盛んになっている。地方都市はいずれもコンパクトシティ化している。

発電は自然エネルギー+電池の他、超小型原発が普及していた。これにより分散型エネルギー管理となって、軍事攻撃や災害にも強くなり、核汚染などの脅威が減った。

人が住まなくなった地域は、自然を残す他、大規模な第一次産業の基地になったり、宇宙開発や次世代科学研究などの施設が設けられている。

ベーシックインカムのみで暮らす人々は国内人口の90%に達していた、また、超富裕層も0.03%程度いる。生活に必要な物資やインフラは不足することなく、また循環している。日本の人口は8000万人位になっていて、多くの人はマイホームではなくグループホームに住んでいる。空き家をリフォームしてそこに住んでいる人も多い。

娯楽は多様化していて、多くの人が毎日やりたいことを楽しんでいる。趣味の創作、動画制作、園芸、おしゃべり、ボランティア、料理、メタバースでゲームなどなど・・・漫画や文芸、音楽、映画視聴なども著作権が切れた作品だけで一生困らないくらいある。他人の笑顔が見られる行為が見られる活動は自己効力感が得られるので人気が高い。また、機械やロボットに頼らずに自力で何かをすることを楽しむ人も多い。アウトドアでの焚き火イベントなども盛況だ。たくさんお金があるわけではないけれど、楽しく暮らせている人は多く、自殺などはかなり減った。

学校では、この世界で生きていくために最低限必要な知識とルールを学ぶ他は、自分の興味がある分野を深めていけば良いことになっている。「働く」という概念は「生活のため」よりは「自分のためにも人のためにもなる活動」という価値観に変わってきている。人の能力差は21世紀初頭に比べるとできる人とできない人の差はさらに開いている。

この時代の最大の悩みは、自己実現社会であるということだ。自分の存在に意味がある。今やっていることは自分にとって意味があることだ。そう思いたい人が特に悩んでいるようだ。平均寿命もどんどん伸びている。長くなった人生をどう充実させていくかが若者たちの悩みになっている。

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