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推理小説

本棚の一番下
横積みになっているものを
機会を逃した本と名づけて
昨日はどうしても新しいのが欲しくなった

明智小五郎とか怪盗ルパンとか
それは小学生の頃
でも そんな気分で本屋に入った

裏表紙のあらすじとかプロローグとか
勝ち残った4冊の候補作
最終選考は主人公の名前にした

手に取ったのは
新書477ページ千円の本

部屋に一人きり
山積みになったやるべきことを
ためらわず棚に放り上げて
今日はこうしようと決めていた

暗号文とか密室トリックとか
時々ページをめくる指を止めて
考えてみたけれどわからなかった

腰が痛いとか喉が渇いたとか
本から離れて時計を見るたびに
短い針は1つずつ進んでいた

部屋にいたのは身体だけ
僕と心臓の高鳴りは本のなかにいた

部屋に一人きり
最後の文章と解説文から
開放された目を閉じて
辿った物語の余韻に浮かんだ僕は……

まだ最後の謎があることに気付いていなかった




Ayano / 桂木 沙樹

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