足がかりのない垂直な壁の前で
あとどれくらい此の手はつかめる？
そう言って悪魔はボクの手を取った
あとどれくらい此の足は進める？
そう言って紹介された機械の体は高価すぎて
買えないボクに勧められたのは機械の心
怒りも哀しみも消えるコードを打ち込んでやるよ

刺されようと斬られようと
頬につたうものも無視して
澱んだ風に何年も時が経って
アルコールを飲んだ夜だけ
翼にあこがれて
今日を無駄に使い続けても
それなりの暮らしに満足してた

でもある日突然気づく
鼓動は生身の体に仕掛けられた時限爆弾の音だと

あとどれくらい此の手はつかめる？
そう言って悪魔はボクの手を取った
あとどれくらい此の足は進める？
そう言って機械の体を勧める悪魔に
ボクはなけなしのお金を払って
怒りも哀しみも“消える”コードのライセンスを買い取った
そして
怒りも哀しみも“変える”コードに改造した

足がかりの無い垂直の壁を登りきる
此の手と此の足で
澱んだ風に身をまかせて
翼にあこがれるくらいなら
呼吸なんかやめる
そんな情熱に“変える”コード

あとどれくらい此の手はつかめる？
そう言ってボクはボクの手を取った
あとどれくらい此の足は進める？
鼓動はまだ鳴り続けてる




Shôya / 桂木 沙樹