オペラを生まれて初めて見るなら何がいいかと聞かれて、久しぶりに真剣に考えた。私が好きなものとか、ドイツ人が好きなものとか、大人が見るのか子供が見るのかとか、いろんなアスペクトがあるが、とりあえず大人なら、カルメンをお勧めする。
まず話が分かりやすい。魔性の女カルメンが真面目君のホセをもてあそんだ挙句、ゴミの様に捨てたら刺し殺されるという話だ。御覧の通り、説明に二行で十分な単純さ。そして、音楽がどの曲も有名なので、退屈しない。まず序曲を聞いていただきたい。あぁ、これか、となるはずだ。私は小学生の時、カルメンの一部をピアニカで吹いたことがある。小学生の音楽の教科書に載っている曲なのに、話は痴情のもつれによる殺人の話だとはなんとも文部省のセンスを疑う。
　オペラはチケットの値段ですでに初心者を威嚇してくるがめげてはいけない。そもそも、劇場というのはテレビや映画がない時代の娯楽だ。そんなに緊張しないでほしい。大抵は恋愛の話で、神様に祈り倒したり、変装して乗り込んでみたり、恋敵を殺したりするだけだ。大昔から他人の恋愛は娯楽に最適なのだ。ぜひ、皆さんにも魔性の女に魅了され人生棒に振る男を音楽付きで御覧いただきたい。恋の喜び、痛みをよりビビッドに感じられるはずだ。