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悲しみのベルリン

昔、友達がベルリンに住んでいて、時々遊びに行っていた。ベルリンは都会なのだが、私はどういうわけかあまり好きにならない。東京ほど華やかでもないし、ミュンヘンやハンブルクの方が洗練されているし、アメリカの都市のほうが人が明るい。その人と会う以外は、お気に入りの靴屋があるくらいしかベルリンには思い入れがなかった。

数年前その人が亡くなった。最期を看取るときに呼ばれたが何をしてよいかわからずぼんやりした頭で泣いていたら本当に逝ってしまった。人が若くして亡くなるというのは、周りの人間に並々ならぬ喪失感を残すもので、老いて亡くなるのとはわけが違う。ベルリンはその人との思い出の場所で、亡くなって以来、昔の事を偲ぶ場所になってしまった。まだ、その人のアパートを家族が借りたままにしている。あれからもう随分経つけど、心に穴が空いたままなのは私だけではないのだろう。

ベルリンに行こうか、と誘われて少し返事に戸惑ったり理由は、私のベルリンはあの時止まったままで、何回たずねても新しくはならず、もう新しいベルリンなど少しも欲しいと思っていないからだった。借りっぱなしになっているアパートの様に、ベルリンをそうっとしておいてほしい。

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