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ピンク色の電話機 -おもちゃ病院ドクターの日記#9

手渡されたのはピンク色をした電話の子機(こき)だった。

公衆電話で話すときに持つ部品の大きさで、電話線がない物といえば通じるだろうか。電卓を細長くしたものを想像してもらえれば実物に近いと思う。

昔は携帯が無かったため、どの家庭も電話線を引き、公衆電話を小さくした様な電話機(親機(おやき))を設置した。そのままだと1箇所でしか電話が鳴らない為、親機とは別に「子機(こき)」と呼ばれる通信型の携帯のような電話機が置かれていた。

そういう時代背景もあり子機のおもちゃも存在するのだ。

ピンク色の電話機は、裏側は公衆電話と同じようにツルリとしているのだが、内側にはボタンがあり数字やアニメキャラクターが描かれている。

裏側のネジを外し、内部を確認。ボタン裏を確認すると、一つだけ押しすぎて擦り切れたボタンがあった。どのボタンか確認するとお姫様のキャラクターが書かれたボタンだった。

『なぜ一つだけ擦り切れているのだろう』と思いながら他の部品も併せて修理をする。

「そういう懐かしいおもちゃをまとめて持ってくる人は結構いるよ」
そう言って笑ったおもちゃドクターの手にも同じキャラクターのおもちゃが握られていた。

「みんな同じ人が持ってきてくれたんだ。ほら、あの人だよ」と指さされた先に女性が一人いた。背を丸め受付で説明を受けている。年齢から想像すると、このおもちゃの持ち主の母親だろう。『御本人はどこにいるんだろう』探してもそれらしい人は居なかった。

私はおもちゃの修理に戻り、電池を入れスピーカーに繋ぎ、試しにお姫様が描かれたボタンを押すと落ち着いた女性の声が流れた。

『素敵なことはありましたか?』

想像していなかった音に驚き一瞬手が止まる。まさかセリフが入っていたとは。
一番擦り切れていたボタンのセリフ。たぶんおもちゃの持ち主はこのセリフが一番好きだったんだろう。

修理が完了し受付に行くと、そのまま待っていた依頼者に渡すよう指示される。御婦人に向き直りおもちゃを渡すと、背を丸め「ありがとうございます」とつぶやき、そのまま治ったおもちゃを抱きしめ微笑んだ。

治ったおもちゃを見、子供と一緒に遊んだ日々を思い出しているのだと思った。

『素敵なことはありましたか?』

ふと、おもちゃの声を思い出した。

おもちゃには、実際に遊んだ子供たちだけでなく、当時周りで見ている大人達にとっても、子供と遊んだ笑顔あふれる時間がつまっているのだと思う。


#おもちゃドクター
#ボランティア


















































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