未知なものを知る楽しさ-おもちゃ病院日記

 「あれが嬉しくてね」
そう語る横顔は少年の顔そのものだった。

話す内容はおもちゃ修理に関することなのに、なぜなんだろう。
定年を超えた彼が語るのは『少年時代にやったことがあるおもちゃ修理の話』だった。
その横顔を見ながら、彼はキラキラと目を輝かせる。どれほど眩しい記憶なのだろうと彼を見ながら思う。
まるで世界の秘密を初めて覗き見て、一瞬で世界の広さと深さを知ったような。この世の素晴らしい瞬間をすべて集めて一瞬の時間を作ったような。
彼は今、どんなものも例えようがなく素晴らしい時間の中にいるのだと思った。

彼が少年時代になんのおもちゃを修理したかは知らない。
ただ何十年も前の話だろうに、今まさに見つけたというような表情が印象的だった。

ただ、彼が昔の思い出を話すときに私は1人置いていかれたような気分になる。彼はどこを見るでもない遠くの空を見つめるような目で過去を見て、彼の目の前にあるのは間違いなく彼が少年時代に見た景色そのものだろうから。

彼が『知りたいと思いますか?』という問いに私は是と答えた。
おもちゃ修理を続けていれば、彼が見た素晴らしい世界のかけらを私も体感できる日が来るのだろうと思う。

だから、私がおもちゃ修理を続けている限り、誰かに知ってほしいと思うような、彼が見た素晴らしい世界を私も見れる日が来るのだと私は彼に教えてもらった気がする。
だから私は夢を見たい。

彼の世界を知りたいし、自分でまた彼のように誰かに伝える日が来るときを望んでいる。

お読みいただきありがとうございます。 引き続きおもちゃ修理がんばります!